『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

74話 帰還 [違和感]

 正巳が孤児院を制圧していたのと同時刻、今井はザイの運転する車でホテルに戻って来ていた。そして、部屋には戻らずホテル内に存在する”プライベートエリア”の一つ『研究所』に直行していた。











 ザイの案内の元、目的の場所まで来ていた。


「……これが、全部僕宛の?」


 今井はそう呟きながら、目の前の空間に置かれた、コンテナの”山”を見上げていた。


 ……ざっと数えるだけでも、コンテナは28~30位あるだろう。


 それだけの物を、収容できるホテルの施設も可笑しいが、これだけの量を注文していた自分の不用心さに苦笑する。


「そう言えば、会社で始めて予算を自由に使えるようになってから、同じような失敗をしたっけ?」


 ……自由に使える訳では無いのだが、それを今井に指摘する人は、今ここにはいない。


「……それでは、私は戻らせて頂きます。御用があればベルをご利用下さい。専門のスタッフが御用をお聞きに参りますので」


 一人、ごちっていた今井に、後ろで待機していたザイが話しかける。


「ああ、分かった! その、シンガポール向こうでは助かったよ……ありがとう」


「いえ、仕事ですので。それに…………いえ、それでは失礼致します」


 ザイは、何か遠くを見る様な眼を一瞬するが、直ぐに一礼して下がった。


「…………さて、やる事は沢山あるからね! 正巳君が帰って来るまで何をするかだね……マムは、どう思う?」


 今井の言葉に、マムが答える。


「はい、マスター! マムは、ロボット作業用アームを作って欲しいのです!」


 確かに、現状だと、マムがその知識と技術を使う事が出来ない。マムの腕さえ作ってしまえば、マムが出来る作業はマムが進めるだろう。結果的に、作業効率が倍以上になるのは目に見えている。


「そうだね、それじゃあロボットアームマムの手から作ろうか!」


 そう言うと、今井はコンテナの方に歩き出した。








――
 コンテナには、中に何が入っているかの内訳が書かれている。その為、マムの腕の部品が何処にあるかは直ぐに分かった。ただ、想像以上に部品の数が多いのと、部品が入っているコンテナが、バラバラな事を知って、困っていた。


「……時間がかかりそうだね」


 そう今井が呟くと、マムがイヤホンを通して答えて来た。


「丁度良い人材、居ます!」
「丁度良い人材?」


「はい、秘密も外に漏れる心配がないですし、力仕事も出来ます!」
「……それじゃあ、頼めるかい?」


 恐らく、ホテルの従業員の誰かだろう。


 ……それにしても、マムはホテルの従業員まで調べているのか……そんな風に想像していた今井だったが、マムが連れて来た人材……いや、子供を見て一瞬言葉を失った。


「……マスター?」
「マム、流石に――」


 『流石に厳しいだろう』と言おうとした声を遮って、その助っ人……サナが言った。


「お姉ちゃん、大丈夫なの! お手伝いできるの!」


 ……サナがそう言って、袖をまくって力拳をつくる。


 ……全く力拳が出来ていない。


「サナくん……でも、運ぶ物は重いし――」
「大丈夫なの! サナは力持ちなの!」


 ……サナが再び、ポーズを取る。


「……とは言ってもねぇ、これからするのは部品集めなんだ。文字が読めないとね」
「もじ、なの?」


 サナが、『……』とくうを見つめる。


「だから、サナくんはもう少し大きくなって――」
「マスター!」


 今井が言い終わる前に、マムが口を挟んで来た。


 ……話している途中に割り込む事など、緊急時か、正巳君以外の事では滅多にない。


「……どうしたんだい? マム?」
「はい、その……マムが手伝えば大丈夫かなと……」


 ……マムが手伝う?


「どうやるんだい?」
「はい! サナの”スマフォ”を向けた時に、マムが翻訳するんです!」


 よっぽど、早く自分の腕を作り上げたかったようだ。
 マムが、食い気味に答えて来る。


「そうか、そうすれば言葉や部品も問題ないのか」
「「はい!」 なの!」


 ……しかし、スマフォって?


「それで、そのスマフォは?」


 そう聞くと、サナが小さいポケットから、引っ張るようにして”スマフォ”を引っ張り出す。……サナの、ズボンのポケットには大きすぎたようで、出す際に布が外に出てしまう。


「はいなの! おにいちゃ、にもらったなの!」


 ……サナの手には少し大きいスマフォを、掲げる様にして見せて来る。
 大分興奮している。


「……そっか、それじゃあ大丈夫かな?」
「大丈夫なの!」


 今井の頭の中は”正巳君がサナくんにプレゼントをした”と云う事でいっぱいになっていたが、サナがマムの誘導の元、コンテナに歩き出したのを見て我に返った。


 その後、”子供には重いだろう”と伝えようと思ったが、大使館から出てくる際に”子供達”が、100Kgを越える”カプセル”を持ち上げて、運んでいた事を思い出した。


「……思わぬ助っ人だね」


 そう呟くと、マムが嬉しそうに『そうですね』と答えた。






――
 その後今井は、サナが運んでいた部材を、自分が持ち上げられない事に気が付き、少しの間、ショックを受けていた。しかし、何時までもそうしている訳にも行かないので、割り切って、マムの腕を組み上げる事に集中していた。


――
 程なく、部材を運び終えたサナは、重い部材を組み上げるとき以外を、マムと話す事で過ごしていた。その内容は、『あったら良いな!』というモノで、サナの欲求をマムに伝えるというモノだった。


 一見、微笑ましい内容で、時折耳に入って来た内容を聞いては和んでいた今井だったが、まさか”将来”サナの欲求が、技術的発展に大きく貢献する事になるとは、この時はまだ、思ってもいなかった。


 ……その後もしばらく、マムとサナの”発表会”は続いた。






――
 少なくない部品を合わせながら、調整し、組み上げていた。


 そして、それも、この部品で終わる。


「ここをこっちに繋げて、次にS字を挟む事で……よし、最後に組み上げていた手を腕に取り付けて……よし、これで動くはずだ」


 途中休憩を取らずに、組み上げていた為、想定していたよりも早く完成した。


 一歩下がって、全体像を見る。


 ……アーム自体は、四角い箱の様なモノに、直接生える様な形になっている。その先は、人間の”手”の様になっている。指は6本あり、其々の指の先が開いて、必要な作業をする為の工具が出て来る。


 見た目は良いとは言えないが、その性能には目を見張るものがあるだろう。


 ミクロン単位の作業を、マムAIによって、休むことなく行えるようになるのだから……


「後は、電源を繋いで、マムをインストールして……完成だ!」


 一応、バッテリーも内蔵しているが、初期状態では充電しながら動かす事になる。


「マスター! ダウンロードが後30秒ほどで完了します!」
「お、いよいよだね!」


 微調整は後々する事にはなると思うが、そこはマムだ。微調整それ事態も自身で出来てしまう。……本当に、とんでもないと思う。


 「3,2,1……ママ! ……マスター! 上手くいきました!」


 マムが、目の前の”腕”を使って、右に左に動かしている。


「良かった~……」


 集中して作業をしていた為、手足に痺れが来ている。


「……マスター、もう一本・・・・は、マムが組み上げておきますので、休憩して来てください!」


 そう、マムの制御する腕の部品は二セット分頼んだ。一先ず、実験的に腕二本を頼んだが、今回の結果が上々であれば、二本以上に増やすのも良いかも知れない。


 『早く何かしたい!』と言った風に動き回るマムに、微笑ましく思いながら、答える。


「そうだね、正巳君が救出した子達もそろそろ着くだろうしね……うん、後は頼んだよ、マム!」


「はい、マスター!」


 元気よく返事して、動き出したマムの腕を見送る。


 その後、いつの間にか寝ていたサナを抱えて、歩き出した。








――
 時刻を確認すると、13時を回った処だった。


 歩いてエントランスに行くと、何やら子供達が数十人単位で運ばれて来た。


 如何やら、正巳君が救出して来た子供達のようだ。


 運ばれて行く子供達の様子を見ながら、一応、正巳不在時の責任者なのと、ホテルの人員の派遣を依頼したのが自分だったので、ホテル側の報告を聞く事にした。


 すっかり眠っていたサナは、ロビーにあるソファの上に寝かせておいた。


「……と云う事でして、現在隊長……カグラ様は、最後の掃除をしている所です」


 軽く説明を受けただけでも、相当ひどい状況だったようだ。


 ……中には、担架で運ばれている子供もいる。


 それに、どうやら正巳君は、皆が出発した時に施設に残ったらしいが、それも、もう7時間以上前の話だ。恐らく、今頃はホテルに戻っている途中だろう。


 そう想像しながら、入り口を見ていると、担架が運ばれて来た。


 ……今まで通り過ぎて行った”担架”は子供が乗っていた。


 しかし、その”担架”には、大人が乗っている様だった。


「……ちょっと良いかな?」


 我慢できずに、通り過ぎようとする担架に声を掛けた。


「……時間はそれほど取れませんが」


 担架を担いでいる人が、そう言うのに頷いてから、目を向けた。


「……この人は?」


 覗き込んだ担架の上には、始めてみる人が居た。
 服装を見ても、ホテルの従業員では無いようだった。


「この”傭兵”は、カグラ様を狙った者から守り、腹部を負傷しています……応急処置としての縫合は行いましたが、安静にする事が必要であります」


「守って、負傷って……」


 ……思っていたよりも、危険な施設だったようだ。


 それに、担架の男が”傭兵”と云う事にも驚いたが、状況を聞く限り、一刻の猶予もない状況だろう。これ以上、引き留めておくわけには行かなかったので、『ありがとう』と言って離れた。


 「マム――」


 マムに、『孤児院で何があったのか』を聞こうと思ったが、視界に知っている人が写ったので、マムに話を聞くのは、後にする事にした。


「……えっと、ユミルくんだったかな?」


 片腕を、抑えている女性に声を掛けた。


 ……腕に巻き付けている包帯に、血が滲んでいる。


「はい。 ……その、カグラ様は後から来られるかと。施設内は既に制圧済みですので……」


 ……自分の腕の事は一言も話さずに、正巳君の事だけ報告してくる。


「そっか、その、腕の方は大丈夫なのかい?」


 そう聞くと、一瞬表情が固まるが、直ぐに先ほどと、変わらぬ・・・・微笑みを浮かべて答えた。


「……はい。 ……大丈夫です。それでは、私は職務の方に戻らせて頂きますので……」


 そう言うと、ユミルは軽く頭を下げ、カウンターへと歩いて行った。


 ……その後ろ姿は、何処か寂しそうだった。



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