『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

62話 見送りは手を繋いで

 部屋に戻って来た正巳は、サナを寝かしつけた後に、今井さんと電話をしていた。




――
 今井さんに、明日子供達を空港に送り届けた後の話をした。


 国内に存在する孤児院に、子供達を救出しに行く事。
 救出は、俺自身が潜入して行う事。


 正直、心配はするだろうが、反対はしないと思っていた。そして、予想通り……


「分かった!でも、必ず戻って来てね!」


 そう言って、送り出してくれた。


 その後、話の本題が済んだので、子供達とレストランで夕食を食べた話をした。


 俺が話している途中で、今井さんが寂しそうな表情を浮かべていたので、マムに頼んで録画しておいた動画を再生して貰った。


 一応、館内の監視カメラ類は自由に使えるようになったらしい。


 それが可能になったのは、今日。


 マムが、何やら良いシステムを食べられたとかで……一気にセキュリティ突破及び、操作技術が向上したらしい。


 そう言えば……


「そう言えばニュースでやってましたけど、シンガポールで、随分と羽振りの良いイベントが発表されたんですね……賞金100億円のハックコンテストとか?今井さんも参加してみたらどうですか?」


 何となく、ニュースで流れていた内容を思い出す。


 同じ場所、同じ分野での話題だから、今井さんが知らないはずが無いと思ったのだが……


「そ、そそそうだねぇ~気が向いたら、見てみようかな!」
「……?」


 この反応は?


 もしかすると、今井さんは既に参加しているのかも知れない。


 そして、その中で何だかんだあって、マムが色々と食べちゃったとか?


 そう考えると、マムの性能が向上したのにも納得できる。


 そんな風に考えていると、今井さんが”お休み”と言ってくる。


「さ、さて~そろそろ寝るかな! 明日は、早いしね! それじゃあ、おやすみ!」


 確かに、もう遅い時間だが……


「あ、お休みなさい……」


 呆気に取られている内に映像が切れた。


 もしかすると、トイレに行きたかったのかも知れない。


 ……今度から、気を遣う事にしよう。


 そのまま、ベットに仰向けになる。


「……明日で子供達が帰るのか、少し寂しくなるな……」


 そう呟きながら、ゆっくりと夢中へと入って行った。






――
 朝、目が覚めると、全身に重さを感じた。


「……お前達」


 いつの間に潜り込んだのやら、栗毛の子や、サラサラの髪をした子が、俺の腕を枕替わりにしている。両腕には其々子供が2人、俺の足やらお腹には4人が、空いたスペースには2人が寝ている。


「……そう言えば、子供達と寝るって話だったっけ……」


 起き上がると、腕を動かす事になり、子供が起きてしまう。


 暫く、子供達の重さを感じている事にした。


 故郷に戻って幸せになれば良いんだけどな……


 もし、何かあれば連れ帰るか……


 ……何となく、沢山の息子や娘を持った親の気分になったが、俺はまだ20代の半ばだ。


 それこそ、ミンやテンなんかとは10歳位しか年は離れていない。


 ……兄弟と、ギリギリ言えなくもない。


 ただ、サナは恐らく5,6歳。


 20歳近い年の差があると、親子でも可笑しくはない……


「……無常だ」


 あっという間に流れ去って行くトキの流れに、無常を感じていると、部屋の扉が開いた。


「……おにいちゃ、もう良いなの?」
「サナ?」


 確か、俺がベットに入った時には、サナも一緒に寝ていたはずだが……


「お兄ちゃんと、ばいばいするの、いっしょにねる約束なの」
「そうか……」


 サナなりの、気の使い方なのだろう。


「……偉いな、サナ」


 そう、一言褒めると、サナは嬉しそうにする。


「ふへへ~~」


 そして、トテトテと歩いて来て……


 俺の頭の横に座った。


「…………サナさん?」


 座ったサナが、俺の髪を触っている。


「お兄ちゃんを可愛くするの!」
「……」


 その後、子供達の体重を感じながら、サナに髪を結われると云う、修行に近い状況を味わう事になった。……ついでに言うと、途中でパネルに現れたマムが何やらニコニコして、クルクル回っていた。何か、マムの琴線に触れる事が有ったのかも知れない。






――
 目覚めてから、一時間近くじっとしていた正巳だったが、途中で乱入して来た他の子供達によって、自由になる事が出来た。


 子供達曰く、『みんなおきてるの!』だそうだ……


 確かに、起こされた子供達は、寝起きとは思えないくらいに目ぱっちりとしていた。


 ……大方、朝早く目が覚めたミン、テン、サナの誰かが企画したのだろう。


 長時間同じ体勢で我慢するのは、少し骨が折れたが、この位の事であれば幾らでも問題ない。


 今、俺の寝ていた部屋に、子供達含めた全員が集まっている。


「……よし、それじゃあ、皆にやってもらう事がある!」


 そう言って、キャッキャとしていた子供達を、パネルの前に並ばせた。


「今から、一人づつ、好きな服を選んでもらう!」
「……服ですか?」


 ミンがそう言って、不思議そうにしている。


「ああ、パネルの前に立つと、いろんな種類の服が表示される。その中から選んでくれ」
「それは……」


「俺からのプレゼントだ。……本当は皆で買い物できれば良かったんだけどな」


 外に買い物に行くのは危険だ。
 かと言って、このホテルの服屋は少し高級すぎる。


 故郷に帰っても着られる服が良い。
 そう思って、少し前にホテルの方に頼んでいたのだ。


 サイズは、部屋に入る時に自動計測済み。
 いま選んだ服が、セットになって用意される事になっている。


「そんな……なんとお礼したら良いか……」
「良いんだ。俺が出来るのはこれ位だしな」


 言いながら、眼鏡のフレームをクイっと指で持ち上げる。
 ……一種の癖だ。


「いえ……助けて頂いただけでも反せないほどの恩なのに……」
「俺は、自分の好きな事をやっただけだしな……自己満足だよ」


 このままにしておくと、ミンが泣いてしまいそうだったので、子供達に説明するように頼んで、俺も自分の服に着替える事にした。






――
 その後子供達は、部屋へと届けられた服に着替えた。


 着替え終わった子供達と、朝食をる。


「「「ハンバーガー!」」」


 『何が食べたい?』と聞いた時に帰ってきた答えだ。


 日本語が話せないはずの子供でさえ、”ハンバーガー”と言う単語を覚えてしまった。


 恐るべき、ハンバーガーの力だ……


 食べ終えた後、順番に洗面台へと行く。


 マムに確認したところ、人数分の歯ブラシを用意しておいたらしい。








――
 子供達を連れて、ホテルのロビーに来た。


「お似合いですね、可愛いです」


 カウンターにいた女性ホテルマンが、近くの子供にそう声を掛けている。


 しかし、声を掛けられた子供は、反応出来ない。


「そうですね……{********}」


 言葉が通じない事に気が付いたのか、直ぐに別の言葉で話しかけている。
 幾つかの国の言葉を、話せるようだ。


「! {******!}」


 子供が顔を輝かせ、俺の方を指差す。


 俺と目が合った女性が会釈したので、俺も返す。


「……皆様お揃いですか?」
「はい」


 俺を含めて22人。


 今井さんは今シンガポールにいる為、予定より一名少ない形だ。


「それでは、空港までお送りします。こちらへ……」


 女性は、そう言うと駐車場の方へと先導を始めた。








――
 俺は、子供達21人全員と車に乗っていた。


 運転手は男性のホテルマン。
 車の扉部分には、女性のホテルマンが座っている。


 ホテル側が用意したのは、装甲車の様なバスだった。


 イメージとしては、護送車が一番想像に違いだろう。


 確かに、この車なら皆で一緒に乗れる。


「……ミン、テンとは話済んだか?」


 余り敏感な方では無いが、ミンとテンが互いに意識している事には気が付いていた。


 ミンが一瞬恥ずかしそうにするが、それでも真っすぐ目を見て言う。


「は、ハイ……その、テンをよろしくお願いします」
「ああ、任せろ。ミンは俺の妹だし、テンは俺の弟だからな」


 そう言って、頭を撫でると……


「あの……はい……はぃっ……」


 結局、ミンを泣かせてしまった。


「大丈夫さ、また会えるんだから……困ったら、全部まとめて俺の処に来ればいい」


 そう言いながら、空港に着くまで、泣き虫な妹の世話をした。








――
 空港に着いた後、車は直接航路へと入った。
 到着後、既に用意されていた小型ジェット機へと、子供達を乗せた。


 最後に乗り込んでいったのは、双子の兄弟だった。
 始めに比べ、随分と元気になった。


 いま俺は、こちらに残る子供達と一緒に見送りをしている。


「……テン、頑張らないとな」


 そう言いながら、横に立つテンの肩に手を置く。


「……はい、頑張りマス」


 心なしか、日本語の発音が自然なものになっている。


 ジェット機のエンジンが音を大きくし始める。


「……」


 テンと反対に立っていたサナが俺の手を握る。


「……大丈夫さ」


 サナの真似をして、サナと同じかサナよりも小さい子供……名前は何と言ったか……が俺とテンの手を握る。


 ……自然と、見送っている皆で、手を繋いでいた。


 ……左を見ると、サナが女性のホテルマンの手を取っている。


 ……女性がとても不思議な物を見るような眼で、繋がれた手を見ているが……サナに気にした様子はない。子供は最強だ。


 その後、程なくして爆音とともにジェット機が飛び立っていった。


「……さあ、帰ろうか」


 俺の言葉に頷いたサナが、子供達に通訳する。


 サナの言葉を聞いた子供達が、車へと戻って行く。


 ……テンは、他の子よりも数舜長く空を見ていたが、直ぐについて来た。


 ……その目には、不安の色は既になかった。


 その後、皆で車に乗り込んだのだが、サナは女性のホテルマンと手を繋いだままだった。サナが、手を離さなかったのだろうが、心なしか、女性の表情が柔らかくなっている気がした。


 ……サナは複雑な表情をして、時折反対側の手を俺の方に向けて来たが……


 そんな、サナと女性の様子を微笑ましく見ていたら、いつの間にか出発していた車が、あっという間にホテルへと戻って来ていた。



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