『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

48話 食べる子は育つ

 風呂から上がって体を拭いたところで、脱衣所の壁に透明なボックスが設置されている事に気が付いた。


「これが、着替えか……」


 透明なボックスの中を見ると、そこには透明な袋に入った着替えが入っていた。


「ちゃんと人数分あるみたいだが……」


 数えてみると、子供達の分を含めて人数分の着替えがあった。


「テン、子供達に合うサイズの服を分けてくれるか?」
「ハイ、ふく……キレイなふく……」


 俺が渡した服をテンがじっと見つめている。


 確かに、この服は鮮やかに染色された服なのだが……


「よし、皆には俺が渡していくぞ~」


 テンが、何やら服を見つめたまま固まっているので、仕方ないので俺が配ることにした。


 見た感じ、簡易な着物らしいので、多少サイズを間違えて渡しても問題ないだろう。


 身振りで、一列に並ぶように伝える。


 子供達が、キラキラした目で見つめて来るので、苦笑しながら配って行く。


「ほら、はい……こっちは大きいか……」


 そうこうして子供たちに配り終えると、俺も自分の分を持つ。


「……どうした?」
「あい!」


 俺の問いかけに、一人の男の子が手を挙げる。


 ……サナと同じくらいだろう。


「あぁ、一緒にって事か?」


 子供達は皆、服が入った透明な袋を持ったまま、じっとしている。


 正直、このくらいの年齢なら、我先にと袋を開けているのが普通な気がするが……


「あ……マサニイ?」


 トリップしていたテンが戻って来たようだ。


「皆に、『開けて良いぞ』って伝えてくれるか?」
「あ、ハイ!」


 そう言って、テンが子供達に二、三言葉を伝えると、ちびっ子達が一気に笑顔になり、透明の袋を開き始める。


 これは恐らくだが、大使館に居た時に染み付いた行動原理なのだろう。


 ……段々と、子供らしくなって行けばよいが……多少わがままな方が良いと思う。


 少しだけ、子供達の抱える闇を垣間見た気がするが、今は出来る事をするしかない。


――
「さて、皆綺麗になった事だし……ご飯の時間だ!」


 風呂から上がって、リビングに行くと、今井さんがテンション高めに宣言していた。


「そうですね、それじゃあ何か頼みましょうか……」


 俺達が来た事に気が付いた今井さんは、少し恥ずかしそうにしている。


「正巳君、これはだね……子供達のお腹が鳴っていてだね……『ぐるぅぅ』……」


 何とも言えない、ある意味狙ったかのようなタイミングで、今井さんのお腹が鳴った。


「俺もお腹空きましたし、食べましょうか……」
「……正巳君、僕の事”食いしん坊”って思ったりしていないかい?」


 ほっぺたを”ぷくー”っと膨らませて近づいて来る今井さんに、苦笑いしながら、マムに声を掛ける。


「マム、デリバリー出来るメニューはあるかな?」


 服をデリバリー出来る位だ、食べ物なら当然……


「はい、パパ!これがメニューです!」
「おぉ、これは……凄い種類だな」


 当然、食べ物もデリバリー可能なようだ。


 そして、マムが出して来たメニューの種類は、ざっと見ても200種類は下らないだろう。


「……おにいちゃ!これ、全部食べても良いの?」


 サナが飛びついて、そんな事を聞いて来る。


「あぁ、良いけど……流石に全部は無理だから、少しずつ頼もうか」
「はいなの!」


 サナが、そう返事すると、”メニュー”が表示されているパネルに近づいて行く。


 ……”近づく”と言うよりは”張り付く”と言う表現が正しいかも知れない。


 そんな、俺とサナとのやり取りを見ていたのだろう子供達も、一拍遅れてパネルに表示されている”メニュー”に駆け寄って行った。


「正巳君、君は子供には甘いようだね……」


 今井さんが、そんな事を言う。


「いえ、そんな事は無いはずですが……」


 ただ、自分自身の行動を振り返って見ると、全否定できないのが悔しい。


「まぁ、良い事だとは思うよ?」
「……」


 メニュー表には、何種類かの言葉で説明書きが有り、小さく写真も載っている。


 その写真を見て、子供達は”何が食べたいか”を選んでいるようだ。


「俺は、蕎麦の気分かな……」


 ふと、この部屋に入る前に見た、石庭と竹林を思い出しながら、呟く。


「ほぉ、正巳君は蕎麦か、それじゃ僕はステーキにしようかな!」
「結構がっつりですね」


 今の時刻は、21時を回った処だ。


 寝起きとはいえ、胃へのダメージが心配だが……


「これから、戦いに行くからね!力を蓄えないと!」
「そ、そうですか……」


 どうやら、今井さんは意外と肉体派らしい。


 そう云えば、チラッと見えた腹筋も……


「……おにいちゃ?」


 少しよこしまな事を想像しそうになったタイミングで、サナがトコトコと歩いて来た。


「あぁ、いや……食べたい物決まったか?」


 誤魔化す訳では無い。


「はい!皆で上から食べたいの!」
「上からか……良いかもな」


 そう答えて、サナの頭を撫でながら、今井さんにも確認を取る。


「僕も、良いと思うよ!だって、上から二番目にハンバーグが有るしね!」
「そうですね……」


 ステーキでなくても、”肉系”であれば良いらしい。


「それじゃあ、マム、上から人数分頼めるか?」


 小さい子供もいるが、余ったらあとで食べれば良い。


 それに、俺も少しずつ分けて食べるのに憧れがあるしな。


「はい、パパ! ……注文しました! 15分程で届くようです!」
「早いな……」
「そうだね、まるで最短で”OSの効率化ハック”をするみたいだ!」


 ……今井さんが、ちょっとよく分からない事を言っていたので、適当に頷いておいた。






――
「それじゃあ、食べ終わったら俺と今井さんは、其々出発。子供達は休みながら、今後の事を話し合っている事……そういう事で良いかな?」


 食べ物が届いたので、食べ始める前に確認をしておく。


「うん、それでいいよ!」
 ……今井さん、ハンバーグに視線行き過ぎです。


「はい、私とテンできちんと話し合いをしておきます!」
 ……ミンは真面目なのだろう、こちらをじっと見て返事している。だけどね、ミン……手がモゾモゾ動いてるよ……


「うん、サナはパパと行くね!」
 ……サナさん?


「……まぁ、取り敢えず食べましょうか……頂きます」


「いたらきます!」「頂きます」「あい!」「いたらき~」


 俺が、手を会わせて呟くと、子供達も真似をしてから手を伸ばしていく。


 伸ばされた手の先には、無数の料理が……


 流石、超高級ホテルと言うだけあって、一つ一つの料理が美味しそうだ。


 最初はテーブルで食べようかと思ったのだが、人数と料理の数が多いせいで、載せきれなかった。その為、結局テーブルやソファを脇に寄せて、床に座って食べている。


 ……少しの間、子供達が料理を口に運ぶ度に綻ぶ笑顔を見ていた。しかし、放っておくと全ての料理が無くなって仕舞いそうだったので、慌てて自分の分を確保する事にした。


――
 その後、結局追加で注文する事になったが、追加で頼んだ料理も残らず食べる子供達を見て、思わず舌を巻いた正巳と今井であった。

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