『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

45話 暴かれた黒幕

 小屋の扉を開くと、そこにはなだらかな、スロープが続いていた。


 どうやら、このホテルはバリアフリーな造りらしい。


「……これは」
「わぁ……おにいちゃ、”した”にお部屋がるんだね~」


 背中に乗ったサナが、そんな事を言う。


 サナの頭を撫でてやりたいが、両手に子供二人を抱えている為、そう言うわけにも行かない。


「ああ、そうみたいだな……行くか」


 そう言って、歩き出す。


「は~」とか「わぁ~」とか漏れている子供達にほっこりしながら、下に続いているスロープを下って行く。


「……なるほど、”サン・ロイヤル”か……」


 スロープを下り切ると、目の前には、玄関のような場所があった。


 そして、天井には太陽を模したデザイン、壁には”和”を感じるデザインの加工がされていた。


「きれいだね~」


 サナの呟きに「そうだな」と返しながら、歩いて行き、玄関の部分で靴を脱いだ。


 すると、ミンが不思議そうにして口を開く。


「靴を脱ぐんですか?」
「ああ、この国じゃあ、家に上がる前に靴は脱ぐんだ」


 そう言うと、ミンは納得したのか、周りの子供達にも説明をして、まだ眠っている子供の靴は脱がせ始めた。


 そんな様子を見て安心するが、ふと「俺が抱えている事も達はどうしようか」と思った。しかし、困っている俺の様子を見ていたのか、テンが何も言わずに、俺の抱える子供達の靴を脱がせ始めてくれた。


「ありがとうな、テン」


 そう礼を言い、皆も脱ぎ終わったのを確認して、部屋に入ろうと思ったのだが……


「テン、あなた自分の靴を脱ぎ忘れているじゃない……」


 ミンのそんな声が聞こえた。


 ……テンには、天然な部分があるのかも知れない。


――
 部屋に入ると、十分な広さのリビングがあるのが見えたが……


「よし、今日はこのまま寝よう……あそこが寝室だから、好きなベットで寝てくれ……ベットは他にもあるようだから、好きな場所で寝て良いぞ!」


 俺がそう言うと、テンとミンは顔を綻ばせて、互いにハイタッチをしていた。


 ……テンも、そんな風にテンション上がるのか。それに、ミンもお姉さんではあっても、喜びの表し方は年相応であって、可愛らしい。


 ハイタッチをしたあと、二人は変な踊りをしていた。
 しかし、そんな二人の様子を不思議そうに見ていた、子供達の視線にミンが気が付いた。


 恐らく、相当に恥ずかしかったのだろう。
 取り繕うように慌てて、皆に説明をしていた。


 ミンが説明している様子を見て、大丈夫そうだと判断し、寝室に入った。


 その後、抱えていた二人の子供をベットに横に寝かしつけた。


 ……二人の子供は、容姿が良く似ている。見た感じ体つきも同じくらいだ。多分双子か、年子の兄弟なのだろう。


「……サナも、ここで寝てるか?」


 そう言うと、サナは背中から降りて、ベットの上に乗った。


「お兄ちゃんも、ここに寝てね!」


 ……サナが自分の乗った隣を”ポンポン”と叩いている。


「分かった、空いてたらな……」


 そう答えると、サナは満足げな表情をして、コテンと横になって寝息を立て始めた。


「…………ずっとこうしている訳にも行かないか」


 少しの間、サナの寝顔を眺めていたが、気持ちを切り替えて立ち上がった。


――
 子供達がそれぞれ休んでいる事を確認した後、玄関へと向かった。


「……今井さんの所に行かないとな」


 そう呟いたのとほぼ同時に、マムから連絡が入る。


「パパ、報告したい事が……」


 マムはマムで動いていたらしい。


「なんだ?」
「はい、悪い知らせと、良い知らせと、凄く良い知らせが有ります」


 良い知らせがあるのは喜ばしいが、悪い知らせとは……


「順番に聞こう」
「はい、パパ。先ず、上原さんをデスゲームに”参加”させた人物が分かりました」


 ……早速か、しかし、恐らく分かるのは足切り要員だけで、黒幕は分からないだろう。


「……京生貿易の、財務部部長、岡本健三です」
「……へ?」


 変な声が出てしまった。


「え、それって、黒幕なはずで……」
「はい、黒幕でした。通信履歴と、会社の内部情報を分析した結果を利用しました」


 確かに、会社を出る前に”会社の内部情報を解析した”って聞きはしたけど……


「え、それでも、黒幕?」


「はい、岡本健三は、京生貿易の上層部を牛耳り、更には黒い人脈を広範囲……世界各国に渡って所有する人物です。実際に、パパの寝ていた隠れ家を放火したのも、岡本健三の指示によるものです……間に子飼いのヤクザを挟み、半グレ組織に実行させるようなやり方でしたが……」


 ……え、それを突き止めたのか?


 ……そう云うのって、もう少し時間が経ってからわかるモノじゃあ……


「パパ?」
「ああ、いやありがとう。それで、他にもあるのか?」


 この情報でさえ十分過ぎる成果だが……


「はい、次は悪い知らせで……マスターが疑われています」
「今井さんが?」


 ここで、誰から?と問うまでもない。


「はい、岡本健三は、マスターの事を確認する為に、マスターの出張先であるはず・・の、”シンガポール”へと向かうそうです」


「不味いな……マム、それを今井さんは―」


 皆まで言う前に、割って入る声があった。


「今知ったよ!さぁ、行こうかな!」


 ……後ろを見ると、今井さんの姿があった。


「……今井さん、カプセルの方は……?」
「ああ、カプセルだったら、丁度良い場所に置いて来たよ!ここは凄いね、何でも揃ってて!」


 ……何やら偉くご機嫌だ。


「ともかく、無事終えられたのであれば良かったです」


「うん!ここなら、最高な設備が揃っていて……何でも出来そうだよ!例え、ここに無くても取り寄せてくれるそうだしね!」


 ……満足頂けているようだ。


「マスターが喜ぶのも当然かと思います、パパ。ここには、世界中のVIPが泊まりに来ます。中には、世界中から狙われているような研究者もいます。そんな研究者が、望んだ器材が仕舞われているのです……核実験に使う器材なんかもあるという噂ですよ……フフッ」


 確かに、そんな器材ものが有るのであれば、ここは研究者にとって最高の環境とも言えるのだろう。しかし……


「……そんな危険なモノ、日本この国に有っちゃいけない気が……」


「大丈夫です、パパ!このホテルは、各国の要人が滞在する施設なので、各国の共通認識として、世界大使館ワールド・エンバシーと呼ばれています。何か、がこの中で起こる事はありません」


 ……微妙にニュアンスがズレているが、まあ良いか。


「それで、今井さんは何処に行くと―」


 『何処に行くと言うんですか?』と聞こうとしたが、全部を言い切る前に今井さんから答えが有った。


「シンガポール、世界的な技術分野のイベントさ!」
「でも、そこには岡本部長が来るんですよね?」


 危険すぎる。


「そうだね。でも、正巳君は、一人で戦っているのかい?」


 今井さんに真っすぐ見つめられる。


「それは……」
「僕はね、正巳君と戦うって決めたんだ。このまま好き勝手にさせる訳には行かないよ」


 ……


「分かりました。それじゃあ、これだけ約束してくれますか?」
「なんだい?」


 今井さんの目を見て……


「絶対に帰ってくる事と、マムをお腹いっぱいにさせる事……たらふく喰わせてやって下さいね、今回の事で少なからずショックだった様なので」


 そんな俺の言葉を聞いて、マムが『パパ~大好きなの!』と耳元ではしゃいでいる。


 マムは、今回の救出の際、ショックを受けていた。侵入した先でシステム全てのコントロールを得られなかった事、そして、車の操作を満足に出来なかった事。これらが出来るようになれば、今回の挽回となるだろう。


「ああ、分かった。……それに関しては、ちょっとしたアイディアも有るんだ……今回お金に余裕も出来たしね……」


 そんな事を呟いて、ニヤニヤしている。


「あ、そう言えば、今井さんに先輩の代金をすべて出して貰いましたから、今回かかる分で必要な分のお金は、マムを通して好きに使ってください……上限は150億円で」


「……」


 今井さんが、フリーズしている。


「あ、そう言えば、パパ!一番良い知らせはまだでした!」


 マムがそう言ったので、先を促す。


「なんだい?」
「はい!マムの体が準備出来そうです!」


 ……?


「体?」
「はい、人工皮膚を開発している研究所とか、人体の構成を研究している会社とか、微細な精密機械を製造している会社等……マムが設計した体を造るのに必要な部品が、揃いそうなのです!」


 ……本当に、体を準備してしまったらしい。
 いや、まだ設計の段階なのか……?


「あの、パパそれで……」


 マムが何やらごにょごにょ言っている。


「何だい?」
「あの、それで、必要な資金なのですが……」


 マムの言いたい事が分かった。


 それなら……


「ああ、必要な分だけ使って良いぞ。それに、俺には資産運用なんかは出来ないから、マムに資産運用を一任しよう」


 俺は資産運用の専門家ではない。


 過去に一度、FXのデータを応用して、統計分析をした事があった。しかし、その結果は散々で、結局『市場という化物』は、計算では解析できないと思い知ることになった。


「……!はい、全力でパパの全てを増やします!」
「……ほ、ほどほどにな」


 若干、マムの勢いにたじろぎながら、そう答える。


 マムと、そんな風に和やかに会話していたのだが……


「だから、なんで正巳君はそんなに簡単に―!!」


 子供達が寝て直ぐなのも有るので、慌てて今井さんの口を塞ぎながら、『疲れたので、取り敢えず寝ましょう』と言って、開いていたベットに倒れこんだ。


 その後、直ぐ記憶が飛んだため、ハッキリとは覚えていないが、微かに柔らかい感触が二度・・あった気がした。



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