『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
41話 金に糸目を付けなければ……
――
正巳が、燃え盛る隠れ家の中から、脱出した瞬間から遡る事、十数分。
今井は、トラックのコンテナの中で、泥のように寝ていた。
しかし、頭部に感じた衝撃と、直後に襲って来た痛みで目が覚めた。
「痛ぁ~……」
急に動き出したトラックの反動で、寄りかかっていたカプセルから床に落ち、頭をぶつけたのだ。
バランスを崩して、落ちた先に子供達の身体が無かったのが、唯一の救いだろう。
「……誰が運転を?」
突如動き出したトラック。
運転しているとすると、正巳かマム、そしてロウしか考えられない。
「マスター! 運転しているのはマムです!」
「マム?」
昨日寝落ちした時に、イヤホンを付けっ放しだったのだろう。
イヤホンからマムの声が聞こえる。
「はい!緊急時だったので、移動させています!」
「”緊急時”…?」
隠れ家には、戻って来たばかりだったはずだが……
「えっと、因みに僕はどれくらい寝てたのかな?」
そんなに時間が立っている気がしないが……
「マスターが寝ていたのは、1時間49分程です!」
「そっか……案外疲れが取れるもんだね」
少なくとも、”気を抜くと意識が無くなる”という心配がない位には、回復した。
「すみませんマスター……ですが、一刻を争う事態なのです」
「一刻を?」
マムの口調では、まだその危機が過ぎていないようにも聞こえる。
「……マム、それで正巳君達は?」
トラックにいるのは、今井と、7人の子供達。それに、カプセルに入った上原君と負傷した衛兵二人。それに、容態の分からないボス吉だ。
正巳君達、つまり正巳、ロウ、それと13人の子供達が安全かは、分からない。
「マスターそれが、どうやら襲撃……いえ、放火をされた様でして」
「……放火?」
そう言えば、皆は何処で寝たのだろう。
僕は、気が付いたら寝ていたので、正巳君や他の子供達が何処で休んだのかを知らない。
「はい、”放火”されました。それで、パパと子供の内一人が”隠れ家”にいた為……」
マムの話を聞くに、”放火”されたのは隠れ家に対して、らしい。
それで、気になるのは『正巳君と、子供が隠れ家にいた』という部分だが……それよりも先に、確認しておくことがある。
「マム、正巳君とその子供以外は、どうしてるんだ?」
「マスター、パパと子供……サナ以外は、皆車で寝ています。今の所、子供達が乗る車の体調管理システムには、異常がないので大丈夫だとは思いますが、ロウの車のデータは……」
どうやら正巳君と、一緒にいる子供以外は、車の中にいて無事らしい。
しかし、『子供達が乗る』と『ロウの車』と分けて話しているという事は……
「マム、ロウと子供達は、別々の車に乗ていたのかい?」
「はい、マスター。子供達の乗る車は、隠れ家の裏の林に、この”トラック”と一緒に停め、ロウは、車を移動させずに隠れ家の前に停めたまま、車の中で寝ていたようです」
……なるほど、大方大事を取って、車を隠したのだろう。
しかし、放火をされている状況で、ロウの乗った車から反応が無いというのは、子供達には伏せておくとして……後々、正巳君に何と言えばよいのだろうか。
「……マスター?」
悩んでいると、マムが疑問を帯びた声で話しかけて来る。
「何だい、マム」
「はい、マスターは、パパが心配では無いのですか?」
少し焦っているような、不満に思っているような雰囲気だ。
「そりゃあ、心配さ」
「だったら何で、パパの事を聞かないんですか?」
マムは、僕が正巳君の事について質問しないのを、不満に思っていたらしい。
「それはね、正巳君を信じているからなんだけど……まあ、正巳君なら火事くらいなら、何とかしそうな気がしないかい?」
事実、絶対にヤバイと思っていたデス・ゲームからも、無事に帰って来た。
確かに、放火した奴らに関しては少し不安が残るが……
「……そうですね。マスターには完敗しました。マスターがそれ程パパの事を思っているとは……マムは、もっともっと~もっと、パパの事を信じます!」
マムの『思っている』という点にムズ痒さを感じたが、間違いではないので訂正はしない。
「そ、そうだね!マムも、まだまだ未熟だという事だね!」
「はい! マスターは流石です!」
それで……
「マム、それで正巳君達の現状と、この”トラック”がどこに向かっているかを、教えて貰えるかな?」
信じているからと言って、何も知らないでいて良いというのは違う。
無事、隠れ家から脱出すると信じているからこそ、その先の話が必要なのだ。
「はい、マスター!」
元気よく、それでいて何時もの調子に戻ったマムが、現状を説明してくれる。
「パパと子供は、今二階にいて……一階部分は日に囲まれている為、どうやって脱出するか考えているようです。このトラックに関しては、犯人の可能性の高い”若者”に出会わないように、市内を走行中です」
…………あれ?
「マム、もしかして正巳君は、結構ヤバイ状況?」
「はい、一応換気はしているので中毒の心配はありませんが、新しい酸素が供給される状態なので、温度は常に上がり続けている状況です」
…………大丈夫、きっと大丈夫。
「……そ、それで、僕たちの乗るトラックは、目的地が有る訳では無く、ただ走り回ってる?」
「はい、パパから連絡が有り次第合流しようかと!」
……なるほど。
正巳君、大丈夫かな……いや、信じてるけどねっ!
「それで、正巳君達は―「パパからです!」」
”正巳君達は脱出できた?”と聞こうとしたタイミングで、待っていた連絡が来た。
◆
外へと脱出した正巳は、マムに連絡を取った。
今井さん達が無事で、現在市内をトラックで走行中であると聞き、一先ず安心した。
その後マムに一つお願いをし、自分とサナは”停まったままの車”へと向かった。
今井さんの乗るトラックは、マムが運転できるため、安全な場所に移動できた。
しかし、大使館から拝借して来た車は、セキュリティが強固な為かその他の事が問題なのか、でマムが運転できないため、停めたままの位置にそのままにしておく他無かったのだ。
「サナ、誰か起きて来たら、『別の安全な場所に移動する』って説明してくれるか?」
「うん、お兄ちゃん!」
サナの口調が戻っている……どうやら、完全に目が覚めたらしい。
まあ、あれだけ燃え盛る炎の中を抜けて来れば当たり前か……
「よし、それじゃあ頼むな」
「うん!」
明るく返事をするサナの頭を撫でて、そこに”無事”止まってた車に乗り込んだ。
「さて、マム。今井さんに繋いでくれるか?」
「はい! パパ! ……信じてましたよ?!」
……何やら拗らせてそうな、マムの返事を聞いた気がするが、ともかく今井さんと連絡を取るのが先と判断した。
その後、一瞬間があったが、無事今井さんと繋がった。
「今井さん?」
「―正巳君!? 無事だったんだね! ……あ、いや信じてたけどね!」
ここにも何やら拗らせてそうな人が……
「それで、今井さん達は無事ですか?」
「うん。マムがトラックを移動してくれてたみたいでね……」
今井さん達は、トラックのコンテナに入っている。
「ロック、外せませんもんね……」
「……うん」
コンテナの扉はロックしていて、ロックは外からしか開け外しが出来ない。
今は仕方なく使っているが、このままでは不味いだろう。
「まあ、それは後で大丈夫だけど、この後はどうするつもりかな、正巳君……」
この後……現状、俺と今井さん含め、カプセルの中に三人と一匹。子供達は21人いる。俺の家は、会社に住所がバレている可能性が高いし、会社からも近い。それに、そもそも20人以上が入れるほど広くはない。
だから……
「今井さん、これからホテルに向かいます。そこで落ち合いましょう」
これは、もしもの為に予め考えていた事だ。
それに、隠れ家から脱出した際、既にマムに手配して貰っていた。
後は、予約したホテルに向かうだけだ。
そう思っていたのだが……今井さんは、何やら『ホ、ホホホテル?』と口走って、焦っていた。何か嫌な思い出があるのかも知れない。
『嫌な思い出のある場所に、行く訳には行かないよな』そう思って、『嫌なら、別の方法を取りましょうか』と言おうとしたのだが……
「嫌なら―「だ、大丈夫!勘違いなんかしてないさ!子供達もいるしね!……うん」」
……どうやら、問題ないらしい。
「それでは、ホテルに移動しましょうか……」
そう言って、今井さんとの電話を終えた。
今井さんとの電話を終えたので、マムに案内してもらうために”スマフォ”をポケットから取り出した。
実は、今までも持ってはいたのだが、ロウの前でマムを晒すのに抵抗があったので、仕舞っていたのだ。スマフォを見たサナが、興味深げにしていたので、マムに『サナには姿を見せても良い』と伝えた。
すると、スマフォ上にマムが現れたのを見たサナが目をキラキラさせて、『おにいちゃ、おにいちゃ、かわいい!』と言って来た。
サナの様子に和みながら、『これから向かう場所までマムに案内して貰うから、マムの言う通りに俺に伝えてくれるか?』と言った。
案の定、サナから『やる!』と返事があったので、お願いする事にした。
その間、サナはスマフォの中のマムを食い入るように見つめていた。
…………
もう一方の、今井さんと子供達の乗るトラックは、ホテルまでマムが運転するとの事だったので、マムに任せる事にした。
「さて、また移動だな……」
まさか、久しぶりの運転を続けてする羽目になるとは、思いもしなかった。
ただ、これも安全な場所で休む為なので、文句も言っていられない。
「お兄ちゃん、ここを真っすぐ行って、二つ目の信号を左なの!」
落ち着いたらしい、サナがナビをしてくれる。
「よし、二つ目の信号だな」
サナの弾んだ声をナビにして、ホテルに向かって車を走らせ始めた。
これから向かおうとしているホテルは、マムに予約をして貰ったホテルだ。
勿論、ただ予約をして貰ったのではない。
幾つかの条件を元に、マムに予約してもらったホテルである。
(金に糸目を付けなければ、条件に合うホテルって有るんだな……)
そんな事を思いながら、車を走らせるのだった。
「『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
2.1万
-
7万
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
176
-
61
-
-
66
-
22
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
5,039
-
1万
-
-
1,392
-
1,160
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
3,152
-
3,387
-
-
2,534
-
6,825
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
62
-
89
-
-
3,548
-
5,228
-
-
89
-
139
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
1,295
-
1,425
-
-
2,860
-
4,949
-
-
6,675
-
6,971
-
-
3万
-
4.9万
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
344
-
843
-
-
62
-
89
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
76
-
153
-
-
450
-
727
-
-
1,863
-
1,560
-
-
3,653
-
9,436
-
-
14
-
8
-
-
108
-
364
-
-
1,000
-
1,512
-
-
4
-
1
-
-
71
-
63
-
-
398
-
3,087
-
-
218
-
165
-
-
86
-
288
-
-
33
-
48
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
2,629
-
7,284
-
-
2,951
-
4,405
-
-
51
-
163
-
-
27
-
2
-
-
9,173
-
2.3万
-
-
183
-
157
-
-
614
-
221
-
-
2,799
-
1万
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
116
-
17
-
-
104
-
158
-
-
164
-
253
-
-
34
-
83
-
-
2,430
-
9,370
-
-
1,301
-
8,782
-
-
88
-
150
-
-
42
-
14
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
614
-
1,144
-
-
265
-
1,847
-
-
83
-
2,915
-
-
220
-
516
-
-
215
-
969
「SF」の人気作品
-
-
1,798
-
1.8万
-
-
1,274
-
1.2万
-
-
477
-
3,004
-
-
452
-
98
-
-
432
-
947
-
-
432
-
816
-
-
415
-
688
-
-
369
-
994
-
-
362
-
192
コメント