『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~
35話 え?逃げませんよ?
一通りあった事を話し終えた今井さんが一息つく。
――
今井さんが一息ついたのを確認して、質問した。
「それで、先輩を取り戻した際に掛かった金額は、支払い終えたんですか?」
確か、上原先輩を取り戻すのにかかった金額は、10億円を超えていたはずだが……
「それは―「マスター!パパにはマムが説明します!」」
マムが説明を続ける。
「上原さんを落札する為に必要だった金額は、パパの勝ちに掛けていたマスターの勝ち金ですべて払い終えました」
……俺の勝ちに掛けていた今井さんの勝ち金?
「えっとね、僕は全財産を正巳君が生きて戻る事に賭けてたんだ。それで、勝ったから、ね?」
それが今井さんの示す覚悟だったんだろう。
「それにしても、帰って来た勝ち金が13億円以上って、幾ら賭けたんですか……?」
「ん?全財産だけど……幾ら位かな……一億円くらい?」
流石、一流大手の部長は報酬もけた違いに良いらしい。まあ、今井さんの場合、技術力が飛び抜けている分、会社からの給料も優遇されていそうだが。
「マジですか……」
「うん。僕なんかは浪費しがちだからあまり貯金していなかったんだけどね」
これでも浪費しているらしい。
それでも貯蓄が一億って……
何だかやるせない格差を感じたが、自分の資産が900億円を超えている事を思い出し、『人のこと言えないな』と自嘲するのだった。
「あ、そう言えば、俺のかけた分の勝ち金ってどうなったんだろ……」
俺も自分に10億円賭けていたのだ、少なくない金額を得たと思う。
「はい、パパは……140億円程の勝ちですね!」
……うん?
「何やら運営の方が適正支払い金額より少なくしようとしていたので、適正金額の支払いを即時に行っておきました!」
……いや、それ大丈夫なのかな……恐らく、ロウの上官だった男だって、まさか100億円以上の勝ち額になっているとは思ってもいないだろうし……
「……まあ、仕方ないか!」
これで資産が約1,040億円となった。
ここまで来れば、少しくらい増えたところで実感など、疾うにない。
「……まあ、140億円。いや、元金合わせて150億円かな?が有れば、逃げるのも随分と楽かもね」
どうやら今井さんは、すっかり逃げるつもりらしい。
それに、150億円が全財産だと思っているみたいだが、今回の勝ち額を合わせると1,040億円。何処かで話そうとは思ってはいるのだが、今はその時では無いだろう。
「え?逃げませんよ?」
「え?」
わざわざ相手の望むとおりに逃げてやる義理もない。
それに、ここで逃げるとなると、今回潜入した大使館の某国、元々追われていた京生貿易、そしてこの国の陸将を殺害した容疑で警察から手配されることになる。
国内で逃げ切るのは難しいだろう。
となると、国外へ逃げれば良い?
それは違う。
元々の正義はこちらにある。
正義があるのに逃げてしまっては、無い罪を認める様なものだ。
だからこそ……
「攻撃は最大の防御。それに、この理不尽は目に余ります」
何れは戦うのだ。
早いか遅いかでは、早い方が良い。
今井さんの返事を待っていると、決心した声色で返事があった。
「そうだね、僕も両親と同じように戦うよ!」
「そうですね、一緒に戦いましょう」
二人で、決意を新たにした。
その後は互いに気になった点を確認し合っていたが、今井さんがふと呟いた。
「あれ?そう言えば、ゲームに参加する際の名前って”神崎仁”で登録してたよね……ロウ君の上官は、指名手配を神崎で手配するのかな……」
俺も、この時点になってそのことに気が付いた。
『あれ?これ、ラッキーなんじゃない?』と。
その後も話していると、高速道路の降り口が見えて来た。
ここを降りれば、隠れ家までもう直ぐだ。
◆
カプセルの中で”その時を待つ”ネコ科だったボス吉は、周りのワイワイとした賑やかな雰囲気を感じながら、深い眠りの中思い出していた。
――
我は、駐車場で姉御と別れた後、”研究室”を目指して”配管”を進んでいた。
途中、所々で”空気弁”と言うらしい仕切りがあったが、行く先を遮られる度にマムが操作して通れるようにしてくれた。
本当にマムは優秀だ。
我も負けていられないので、改めて気合を入れ直した。
「ネコ吉……ボスにゃん……やっぱりボス吉かにゃ~」
……マムが何やらごにょごにょ呟いている。
マムは、主と姉御にはネコを被って…と言うよりは、丁寧な対応をするが、他の存在に対しては割と雑だ。多分だが、マムの世界は主と姉御中心で動いているのだろう。我も同じ様なものだから、よく分かる。
まぁ、マムほど極端に割り切っている訳ではないので、同じネコの同胞達に対しては、多少気を回したりもする。
それにしても、この”イヤホン”と言う機械はすごい。
マムの声が近くに聞こえる。
マムがいつもいるはずの、光る板が無いのにマムが話している。
そう言えば、あの”トラック”と主が呼んでいた乗り物にもマムがいた。
マムは生き物とは違うのだろうか……
気配のようなモノは無いけど、意思のようなモノは感じる。
まあ、我が主の創り出した存在だ、どんな存在でも我の同胞には違いない。
「む、マム。またあるぞ?」
前を見ると、これまでにも数回通り過ぎて来た空気弁がある。
「分かったにゃ!今開くにゃ!あと、次同じ壁があったら、その下が目的地にゃ!」
マムが言うと同時に、空気弁が動く。
空気弁が90度回転し、通れるようになる。
……ギリギリ通れるが、我がもう少し成長したら通れないサイズだ。
「ところで、マムは何故そのように訛ってるんだ?」
実は、先ほどからマムの話し方が気になっていた。
「む……ボス吉からすれば、訛ってるように聞こえるのかにゃ……」
「うむ。我が昨日言葉を教えたというのに……」
昨日マムに頼まれて、我の話す言葉を教えた。
「実は、各地の研究施設やペットショップで猫の言葉のサンプルを取っていたんだにゃ。それで、統計して真ん中……つまり、標準語になる様に調整をしてたんだけどにゃ……」
研究施設とは、我がこれから向かおうとしているような場所の事だったと思う。しかし、ペットショップとは、何のことを言っているのか分からない。
「マム、その”ペットショップ”とはどういう場所だ?」
「何だにゃ、知らなかったのかにゃ?」
……何処かで聞いた事があった気もするのだが、思い出せない。
「うむ。分からぬ」
「そうかにゃ、ペットショップは、ペット……つまり、人間の家族になる動物達がいる場所にゃ!そこで買われた後、買った人間と家族になるにゃ!」
……買う?
……思い出した。
我が物心ついた頃、居た場所だ。
我に指を指して、『コイツを買う!』と言ってきた人間がいたが……あの人間と家族になる可能性があったとは……考えたくない。
「そうか……恐らく、きちんと言葉を教わっていない、同胞のネコ達の言葉から学んでしまったのだろう。今後は、我の言葉……我の使うネコ語を学ぶと良い」
今の状態でマムと話していると、我も疲れて来る。
余りにも訛りが強いと、推測で意味を計る事しか出来ない。
「そうにゃ……分かったわ。マムと話すのが中心だと思うから、マムの言葉に合わせましょう。……少し高圧的な気がするけど……まあ、マムが話しやすいならその方が良いでしょう」
……我の話し方は、高圧的らしい。
しかし、我はこの話し方しか知らない。
もし、主に対して不適切な話し方をしているのであれば、即刻正す必要があるが……マムが注意してこないという事は、問題ないのであろう。
……マムは、主と姉御には絶対服従だが、それ以外の存在に対しては、添え物程度にしか考えていないと知っている。
もし、更に仲間が出来たとしても、最優先は主と姉御の安全を優先させるだろう。
それが、二人の主人の為なら、誰かを犠牲にする事だとしても躊躇しないだろう。
何故言い切れるかと言うと、我の主に対しての忠誠がマムと同じであるからだ。
我にとっては、主第一で、次が我自身。
その次に姉御だ。
マムは……生き物とは違う存在な気がするし、”死”が有るのか分からない。
「ふむ、目的地に着いたようだな」
目の前に空気弁もとい、壁がある。
「そうね、ここで間違い無いわ。今中に入る為の入り口を開けるわね……ボス吉、少しもと来た方に下がってくれる?」
マムの言う通り下がる。
すると、"ガコン!"と、音がしてさっき足を載せていた床が開いている。
「部屋に繋がる空気弁と、換気口の蓋を開けたから、そのまま下に降りれば"研究室"に入れるわ」
どうやら、マムの開けた蓋を降りれば目的地らしい。
しかし……
「マム、気配があるが、中には人間がいるのか?」
そう、下の”研究室”には、何かがいる気配があった。
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