『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

34話 其々の出来事

 俺は、”車”と言うには少々長すぎる車両の、運転席に座っていた。


 車の運転席に座るのはいつ振りだろう……多分、4年振りぐらいだと思う。


 ……不安でしかないが、そんな事も言っていられない。


「よし、マム!出発してくれ!」
「はい、パパ!」


 マムの返事と共に、前に見えているトラックが動き始める。


 その後ろを外交車(黒塗りのセダン)が後に付いて動き出す。


「ロウは、大丈夫そうだな」


 ロウにイヤホンを渡しているわけでは無いので、指示を出せない。


 ロウの様子を見るに、マムの事を”凄腕のハッカー”として認知していそうだが……わざわざ『マムが人工知能で、自己成長する』と教える必要も無いだろう。


「俺達も行くか……っと、席について欲しいんだけど……」


 俺の隣の席には、手を繋いでいた女の子が座っている。その他の子供達は、後ろの広い席に座ったはずなのだが、運転席と助手席の間から、顔を出してくる。


 俺の困った顔を見たのか、隣の女の子が顔を出して来ていた子達に一言二言何かを言った。


 すると、子供たちは大人しく後ろの座席に戻って行った。


「ありがとな、えっと……」


 お礼を言いながら、頭を撫でるが、名前を知らない事に気が付く。


「サナ!……サナなの」


 ……サナと言うらしい。


「そうか、”サナ”ありがとな!」


 そう言うと、もう一度頭を撫でて、車のアクセルを踏んだ。


 見ると、施設に通じる扉が開けられたところだった。


 ”ギリギリだった”と思いながら、地下駐車場を出る。


 車体が長いが、急なカーブなどが無い限りは運転に関しては問題なさそうだ。


 ATオートマ車なので、ペダルを踏んで、ハンドル操作さえ誤らなければ問題ない。


「……正面玄関もロックしていたのか」


 正面玄関を通り過ぎる際、玄関の中に衛兵が集まっているのが見えた。


 恐らく、正面玄関を壊すわけにも行かないので、比較的目立たない駐車場のドアを壊すことにしたのだろう。


 門衛である玄関口の衛兵が気になったが、門衛の詰め所である監視塔も同様に、外に出られないようにロックされているようだった。


「全て電子制御なのも考え物だな……」


 いざと言う時に制御を乗っ取られると、外に出る事も出来なくなる。


「マム、案内頼めるか?」


 駐車場で出だしが遅れた為、今井さんの乗ったトラックと、ロウの運転する車の姿は既に無かった。


「はい、パパ!」


 元気よく答えたマムの指示の元、しばらく走り続けていたが、高速道路に入ったところでマムから連絡が入った。


「パパ、マスターから連絡が入っています!」


 そう言えば、『色々と説明していないままだったな』と思い出し、繋げてもらう事にした。


「今井さん?」


 マムから、『繋がりました!』と報告があったので、イヤホンを通して話しかける。


 すると……


「さて、説明して貰うよ!なんでなんかを連れて行く事になったのか!」


 プンプン!といった様子で迫ってくる今井さんが目に浮かべ、さて何から話したものか……と頭を悩ませるのだった。









 トラックが疾走する中、カプセルの中のボス吉は、薄っすらと意識があった。









 結局、今井さんには最初から話す事にした。


 ゲームで何があったのか、その後ロウと逃げ出す事になった理由について……ただ、キメラに関しては分からない事が多かったので、目の前で起こった事をそのまま話した。


 話した内容は大まかにこんな内容だ。
――
 ゲームが開始する前に”準備室”に通されて、ゲーム開始前にキメラを威圧した。威圧の際に殺気を込めたらキメラが動かなくなって、後ろ向きに倒れた。


 一度目のブザー音が鳴り、ゲームが開始したのに、キメラが起き上がらずに困った。


 暫くして、二度目のブザー音と共にライオンが現れた。そのライオンが飛び掛かって来たと思ったら、キメラが喰らいついていた。


 ”キメラがライオンを食べていた”


 結局、そのままゲームクリアになり、”話がしたい”と案内された部屋で人が死んでいた。死んでいた……いや、殺されていたのは、この国の軍部の陸将だった。


 殺す事になった理由が、正巳オレが『キメラを戦闘不能にしたせいで生物兵器キメラ売買の取引が無効になった事にある』と言われた。


 その後ロウの上官によって、案内して来たロウ以外の三人の衛兵が撃たれた。


 一人は即死だった。


 衛兵を撃った理由が、俺に陸将殺害の罪を着せる為で、どうやら『生物兵器キメラ売買の取引を一から”やり直し”しようとしている』という事だった。


 俺達(ここでは俺とロウ)が”逃亡”している方が都合よい為、賭けの賞金は”逃亡資金”としてそのまま支払われるとの事だった。


 ロウの上官だった男が退室したので、ロウを拾って撃たれた衛兵二人を連れて来た。


 ……そして今逃げている。


――
 一通り、駐車場で今井さんと合流するまでの事を話し終えた。


「……俺達はこんな感じでしたが、今井さん達はどうでしたか?」


 俺とロウの事は一通り話し終えた。


 次は、今井さんがどうしていたのかを聞く番だろう。


 今井さんは、少し考え込んでいたようだが、ぽつりぽつりと話し出し始めた。
――
 僕は、正巳君と別れた後、案内された駐車場に止まった。


 それで、車の中でマムとボス吉と打合せをした。


 大枠では、僕がマムの案内の元上原君を救出し、その間にボス吉とマムで”やるべき事をやる”という話だった。


 詳しい話をボス吉、もといマムに聞いても話をはぐらかされてしまったが、僕達……正巳君にとってマイナスになる事はしないだろうと判断して、追及しない事にした。


 その後、ブザーが鳴ったので、最後の確認と共にトラックの外へ出た。


 この時にボス吉にイヤホンを付けた。


 施設内には、マムがカギを外してくれたので、問題なく入る事が出来た。


 施設内に入ると、マムの案内の元、ある部屋に行った。


 ……そこは、中心にステージがあり、それを囲むようにしてぐるっとガラス張りの観覧席があった。観覧席と言っても、マジックミラーになっていて、中の様子は見えなかった。


 こちらの様子も、他の部屋と同じようにマジックミラーになっているのだと判断した。


 劇場のような造りになっていて、どこからでもステージ上が見えるようになっているようだった。


 マムの説明によると、ここはオークション会場で、マムが入札に参加する手続きを予めしていたという事だった。


『何故、オークションなんかに?』


 そう思ったが、意味があるものだと思い、マムに促されるまま参加する事にした。


 少しして、真ん中のステージがせり上がって来た。


 ステージ上には、シルクハットを頭に乗せた、白いスーツの男がいた。


 男が、『ようこそ、アニマルオークションへ!』と言った。


 そして、疑問を覚える間も無く、オークションが開始された。


 オークションに出てくるモノは、どれもこれも取引を禁止されているような生き物 ―危険若しくは絶滅危機に瀕している― ばかりだった。


 ホワイトタイガー、ヒトコブラクダ、アノア……これらは、ペットや金持ちの食用としての需要が有るとの事だった。


 一通り動物達の取引が終わった後に出て来たのは、人間だった。


 次々と出品と、入札がされていく光景を前にしばらく声を出せないでいた。


 ある意味当然だろう。


 ”両親が追い続けた真実の一端”……”奴隷売買”が目の前で行われているのだから。


 マムの声で我に返った。


『後払いで支払えば問題が無いので、取り敢えず上原さんを!』


 見ると、ステージ上には、正巳君が”先輩”と呼ぶ上原君の姿があった。


 前もって顔写真は把握していた―仲間になると思って調べていた―ので、直ぐに分かった。


 上原君はストレッチャーの上に寝かせられていた。


 ……とても無事には見えなかった。


 白スーツにシルクハットを乗せた男が、甲高い声で”紹介”した。


『さあさあ、今日の目玉商品の一つです!なんと、あの、生還率1%以下と言われる、デスゲームから”生還”した男!正にラッキーボーイ!ペットとして飼う事で、その幸運があなたの物になるに違いないでしょう!』


 上原君は商品としてオークションに出品されていた。マムが言うには、このオークションで落札するのが、一番確実に上原君を助け出す方法との事だった。


 正直、オークションに参加するのには、嫌悪感を強く感じていたが、上原君を確実に助け出す為であれば、仕方がない事だなと思った。


 そして、上原君の入札が始まった。


 結果的には、落札する事が出来たが、何度も入札のボタン ―部屋には、入札の意思を提示する際に使用するボタンがあった― を何度も押す事になった。


 マムの話によると、過去の情報を見ても、今回の上原君落札の金額は高額な部類らしかった。その理由は、一人の入札者がしつこく粘って、競っていたから、らしかった。


 結局、上原君を落札するのにかかったのは、約13億円。


 最後まで競った男の目的が気になったが、ともかく、直ぐに受け取りをする為の手続きに入った。


 最後に聞いた『さ~て、お待ちかね最期のトリを務めるのは、蛇と百獣の王を掛け合わせた……』という続きが気になったが、手続きに入る為に退室した。


 その後、引き渡しの手続きを済ませ、受け取り場所に行くと、そこは治療室だった。


 スタッフは受け取りのサインを確認して直ぐに退室していった。


 退室する際に、『治療室とその周りは人払いが済んでいますので、心おきなく楽しんでください』と言っていたが、正直何を言ているのかよく分からなかった。それに、人払いするまでもなく、深夜だからか、賭けに関わっているスタッフ以外には会いもしなかった。


……


 それにしても、一人も監視を遺さない事からも、この施設の監視システムを全面的に信頼しているのだろうが、生憎マムが支配している為、監視システムは既に、監視の意味を為していない。


 引き渡された上原君を見ると、今にも死にそうな、危険な状態に見えた。


 オロオロとしていたら、マムが『やったー!これで大丈夫です!成功しましたー!』と言って来た。


 状況が掴めないでいたら、マムに『少し待っていてください!』と言われたので少し待っていた。


 その後、マムが『こちらのガラスケースに!』と言って来たので、場所を移動してケースの中を見ると、何やら半透明の粘土のような塊があった。


 マムの説明によると、疑似細胞絆創膏セルバンと言って、最先端の生命維持技術との事だった。


 マムの指示に従って、上原君の危険な箇所にその疑似細胞絆創膏セルバンを貼り付けた。貼り付けると、自然に傷口と一体化し始めた。


 一体化したおかげで、傷口が保護されたのは良いが、危険な状態にあるには変わりなかった。


 そこで、マムに『安静にするための手段はないか』と聞いたら、マムから『カプセルに入れれば、容体も安定すると思います』と言われた。


 慌てて、『そのカプセルは何処にあるんだい?』と聞くと、『はい、この研究室の隣にありますが……カプセル番号”3000番”を使ってください!』と返事があった。


 何故”3000番”なのか分からなかったが、質問している時間も惜しかったので、マムに誘導されるままカプセルの位置まで移動した。


 そこにカプセルがあったが、とてもでは無いが一人で動かせるモノでは無かった。


 誰か他にも人が、少なくとも正巳君が居れば……そんな事を思った。


 いや、実際に呟いていたらしい。


 マムが『人手なら用意できますよ!』と言って来たので、話を聞いてみた。


 マムの話は、人手なら『売られて行く子供達が居ます』と言う事だった。


 それで思い出した。


 そう言えば、”オークションでは子供たちが売られていた”と。


 急いでマムに『子供達を助け出せるか』聞いた。


 すると、マムは『はい、マスター!』と言って返事して来たので、直ぐに子供達を助けに行った。


 子供達は、地下の部屋にいた。


 部屋は幾つかに分かれていて、部屋には番号と何やら文字が書いてあった。


 マムに、この意味について尋ねると、『投与Lvレベルです……人体実験がされているみたいですね』と返事があった。


 子供達が無事なのか、心配になったが、ドアを開いてみると特に具合が悪そうな子供がいなかったので安心した。Lvは1から8まで存在し、Lv1~4までの部屋に殆どの子供がいた。Lv5~Lv7の部屋には子供の姿は無く、Lv8には女の子が入っていた。


 その後、マムに通訳してもらう事で、子供達に助けに来たことを伝えた。
 女の子は、日本語が少し話せるようで、他の子達の説得に協力してくれた。


 そうして子供達を助け出し、研究室に戻った。


 上原君をカプセルに入れる際に、子供達ばかりで体を持ち上げられるか心配だったが、心配とは裏腹に、軽々と持ち上げて、カプセルに入れてしまった。


 そして、カプセルごと上原君を持ち上げ、トラックに戻って来た。


 ……その間、カプセルを運んでいたのは子供達で、一切手伝う必要が無かった。


 ちょっと処の怪力では無いかも知れない。


 そんな風に思ったが、子供たちの笑顔を見て、直ぐに『そんなの些細な事』と思い直した。



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