『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

32話 コンテナでの出会い

 ロウの案内の元、駐車場にたどり着いた。


 駐車場自体は『建物の裏手に入り口があり、そこを入った地下が駐車場になっている』との事だったので、位置関係を想像しながら見渡した。


 監視カメラがあるが、マムから『問題ありません!』と言われているので、大丈夫だろう。


 マムによると、施設に入る為のドアは電子制御らしく、これもマムが制御できるらしい。


 マムに『凄いね、マム!』と言ったら、『いえ、実はシステム内で掌握出来ない部分があって……』と、落ち込ませてしまった。


 知らない技術を吸収すれば、マムも成長する事が出来るだろうし、今回先輩を救出した後、マムが望むシステムソフトを買ってやろう。


 そう心に決め、改めて周囲を確認する。


 ……普通の駐車場に見える。


「……駐車場だな」
「はい、駐車場です」


 ロウが自然な流れで返してくる。
 少しは落ち着いたようで一安心だ。


 ”駐車場”と言った通り、数台の車(外交官車両を示すナンバープレートがある)と見覚えのあるトラックが停まっている。


 改めて周囲を確認して、トラックへと近づいて行く。


 今井さんの姿が運転席に無い。


 先輩を救出して来て、荷台に乗せたのだろうか。


「今井さん、正巳です」


 トラックの荷台に声を掛けると、案の定返事がある。


「お、来たね!ちょっと入って来てくれるかな?」


 ロウに、背負っていた衛兵を任せて、トラックの荷台の後部ドアを開く。


「……えっと……?」


 トラックの後部には小さいコンテナが有り、中に荷物を積めるようになっている。


 そのコンテナの中に、一つのカプセル(今井さんの家にある酸素カプセルに似ている)があり、その横には、今井さん今井さんがいた。


 そして、今井さんの横には、小さな女の子がいる。


 それだけではない。


 今井さんの後ろには、褐色の肌の男の子に、反対には黄色い肌の男の子、その横には白い肌の女の子……数えてみると、全部で13人。


 下は5歳位の子供から、上は16歳くらいの子供までがコンテナの中に入っていた。


 中々窮屈な状態だが、今井さんは満足げな顔をしている。


「えっと……先輩は、その中に?」


 聞きながら荷台に上がる。


「うん。一応間に合ったと思うんだけど……」


 何か言いにくい事でもあるのか、今井さんが目を伏せる。


「何か?……これは……」


 今井さんに、何か問題があるのか聞こうと思ったが、カプセルの中を覗き込んで理解した。


「見た通り、欠損部分は治せなくてね。今は傷口に疑似細胞セルバン絆創膏を付けている状態なんだ……」


 先輩の体の数か所に、半透明の粘土のような物が付けられている。恐らくこれが、疑似細胞絆創膏セルバンとやら、なのだろう。


疑似細胞絆創膏コレは、どうしたんですか?」


 こんなの初めて目にしたし、今井さんの家にあったとも思えない。


「これは、治療室……研究室と言った方が良いか……にあったんだ。マムが、内部情報を網羅してくれたおかげで、コレの存在を知って、借りて来たんだ」


 なるほど、思わぬ収穫があったわけだ。


 しかし……


「先輩の傷の様子を見ると、何時死んでもおかしくないような……それを防いでいるコレは表に出してはいけない技術な気が……」


 多分、軍事技術……少なくとも最先端の技術に間違いない。


「……そう言えば、カプセルコレ重かったと思いますが、どうやって運んだんですか?」


 ……重い、何てレベルじゃないと思うが、この100Kg以上するであろう物をどうやって運んで来たのかが気になる。


「ああ、それなら皆に手伝って貰ったんだ!」


 今井さんがそう言うと、俺を警戒して距離を取っていた子供たちが不思議そうに首を傾ける。


「}+{{{‘!」


 ロウが何やら言うが分からない。


「……ロウ?」
「あ、いえ、その者たちは今日のオークションの商品だったかと……」


 ……オークションの商品?


「正巳君!そこの衛兵は何でここに居るんだい?」


 そう言えば、ロウの事を紹介していなかった。


「えっと、元々ここの衛兵でしたが、今は仲間です」
「仲間?そいつらが?そいつらが何をしていたのか知っているのかい?」


 今井さんが語気を強める。


 よっぽどひどい物を大使館の中で見て来たのかも知れない。
 ロウ達に向けられる子供達の視線にも、激しい感情が込められているのが分かる。


「……後で説明しますので、今は連れて行きましょう」


 俺がそう言うと、今井さんが渋々頷いた。


「ほら、皆も……マム、訳せるか?」
「はい、パパ!マスターとの通訳をしたので、子供達の国語はマスター済みです!」


 ……仕事が早くて助かる。


「それで、何と訳しましょうか、パパ!」


 ……取り敢えず。


「『皆、カプセルを運んでくれて、先輩を助けてくれてありがとう。今は、この衛兵たちも追われる身なんだ。どうか、協力して欲しい!』……頼んだ、マム」


 そう言うと、カプセルの上に置かれたイヤホン(今井さんのだろう)を通して、マムが訳してくれる。意外と大きな音が出せるようで、イヤホンからでも十分に声が聞こえる。


「パパ!伝えました!」


 弾んだ声でマムが報告してくれる。


「ありがとな、マム!お礼に好きなもの一つ買ってやるから、考えておいて」


「やった~パパからプレゼント!えっと、アンドロイドだと部品毎に調達になるから、”一つ”にはならないし……それじゃあ、今回足りなかった情報?……でも……」


 マムがぶつぶつ呟き始めたので、マムの事は置いておいて、もう一つ気になっている事を聞く。


「今井さん、ボス吉は何処に居るか知っていますか?」


 そう、ボス吉の姿が見当たらないのだ。


「え?マムと別行動していたと思ったけど……?」


 マムとボス吉で?


「マム?ボス吉は今どこかな、そろそろここを出たいんだけど」


 そう言って、子供たちを見渡す。


 これだけの子供達……奴隷として売られるはずだった子達が居なくなったのだ。


 いつ捜索が始まっても可笑しくない。


「はい、パパ。それなら―「ぁの!助けてぇください!」」


 マムがイヤホンから報告する途中で、子供たちの中の一人が思いつめた表情で話しかけて来た。イヤホンを通してマムと会話していた為、子供達には、マムの声が聞こえていなかったのだろう。


 『助けて下さい』か、折角勇気を持って一歩踏み出したのだ。


「……それで、どうしたんだい?」


 マムの口調から、緊急の状態にあるわけでは無いと分かった。なので、目の前に勇気を振り絞って出て来た、女の子の話を聞いてみる事にしたのだ。


「はぃ……お姉ちゃんとお兄ちゃんがまだ来てないのです……まだなかにいるのですだから……」


 皆まで言わなくとも、気持ちが伝わって来た。


「分かった。俺がどうにかする」


 そう言いながら、女の子の頭を撫でる。


 確かこの子は、今井さんの隣にいた子だ。


「おねがいしまするぅ?」


 見た感じ日本人にも見えなくもないが、発音に訛りがある。


 それに、肌は黄色でも白色でもない。


 血管が薄っすらと透けているのか、桜色の肌だ。


 同じく色素の薄い白髪とは違った髪色、髪の毛はくせっ毛なのか、クルクルとしている。


 幼いながらも整った顔立ちをしている。


 おそらく、ヨーロッパ系の国の子だろう。


 ただ、語尾が可笑しくなっていて、子供らしくて可愛いなと思ってしまう。


「ははっ、分かった。お願いされた!」


 もう一度女の子の頭をポンポンと撫でて、マムに確認をする。


「それで、マム。この子たちの兄弟は……いや、この施設にいる残りの数はどれくらいいる?」


 残りの数、つまり、”奴隷として売られて行く筈の人間の数”だ。


「はい、パパ!今施設内にいるのは、生きている・・・・・人数が全部で”8”です!」
「分かった。案内頼めるか?」


 8人であれば、俺に考えがある。


「はい、パパ!案内します!」
「よし、頼む!」


 一瞬、今井さんと視線が合う。俺の身も心配はしているが、同じだけ大使館なかに残された子供が心配なのだろう。何か言いかけるが、一つ頷いて送り出してくれる。


みんな・・・で帰ろう!」


 その言葉に思いが詰められている。


「はい!大丈夫です。マムに案内してもらいますし、今回は衛兵もいます」


 そう言って、ロウの方を向くと、ロウが頷く。


「はい、おおよその見当は付いています」
「よし、一先ずけが人を預けて、助け出しに行くか!」


 そう言って、負傷していた衛兵二人をコンテナ内に運び入れる。


「……これは……何があったか、後で聞くからね!」


 今井さんが、衛兵の傷の様子を確認して、青ざめている。


 恐らく、銃痕を見たのだろう。


 確かに、俺が今井さんでも同じことを言うだろう。


 ここは日本で、世界中で一番拳銃とかけ離れた社会と言っても良い……確かに、裏の社会では拳銃とど、それほど珍しくは無いだろうが、少なくとも日常からは遠い存在だ。


 その拳銃による傷が有るのだ。


「はい、帰る時にその辺は……」


 今井さんに少しだけ間があったが、直ぐに”次”の話を口にする。


「それじゃあ、一人はこの中に入れようか!」


 これまでの経験から、”スルースキル”とも言うべき一旦話を置いておく方法を身に着けたのだろう。これまでの今井さんの苦労がよく分かる。


 ……帰ったら今井さんが喜びそうなことを沢山やろう。


 そう心に決めたところで、今井さんの指差したカプセルを見る。


「入るんですか?」


 中には既に先輩が入っている。


 もう一人入れるとなると、見た感じでギリギリに見える。先輩の身長が180cm以上あるのも一つの理由だろうが、大人二人が中に入るのはきつそうだ。


 しかし、


「少しずらして入れれば大丈夫!」


 ……まあ、ギリギリ入るか。


 そう思う事にした。


「分かりました。それで、どちらを入れますか?」


 撃たれた衛兵は、二人いる。いや、三人いて、一人は即死。


 今いる二人はどちらも一刻を争う。


「う~ん、この場合どちらかを選ぶことに―「あの!」」


 今井さんが皆まで言う前に、ロウが割って入って来た。


「あの!カイが……カイが『俺は後で良い』って!」


 一人の衛兵の肩に手を回しているロウが、泣きそうな声で絞り出している。


 そんな様子を見て、ロウに確認する。


「カイ?その衛兵の名前か?」


 カイ、と言う名は初めて聞いた。


「はい、カイは弟です……」


 その顔で伝わってくる。


 ”不安” ”恐れ” ”焦り”


「大丈夫だ。もう一つカプセルを取って来れば良い」


 ロウは、一瞬揺らぐが、直ぐに顔を引き締める。


「はい、行きましょう!」


 ロウが大丈夫そうなのを見て、今井さんの方を見ると、もう一人の方の衛兵をカプセルの中に入れているところだった。


 そんな今井さんを一瞬だけ見つめて、ロウを引き連れてコンテナを出る。


「パパ、マスターには何も言わなくても?」


 マムが不思議そうに聞いて来るので、答える。


「ああ、既に話はした。それに、別に直ぐに戻ってくるからな」


「そうですね!」


 そう、俺達は別に何かを失いに行くのではない。


 何も失わず、何かを得る為に行くのだ。


 そう心をクリアにして、大使館なかへと入って行った。



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