『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~

時雲

19話 スーパーカー?

 目の前に、今井さんがいる。


「……今井さん、その車は?」


 目の前の車と、今井さんを視線が行ったり来たりする。


「ん?車だよ?」


 何が?と言うように答える姿に色々と突っ込みたくなるが、それよりも……


「お前、ここに居たのか……」


 そう、そこにはボス吉が居た。


「なんだ、この猫、正巳君の知り合いだったのか。妙に勘が鋭くて、正巳君が付いてから直ぐにこっちに来て、車の周りをウロウロするから焦ったよ」


 どうやら、ボス吉は到着して直ぐに、人の気配を感じていたらしい。


「お前、気が付いてたのか、凄いな~でも、危険だから誰にでも近づくんじゃないぞ」


 そう言いながらボス吉を撫でまわすと、ゴロゴロとのどを鳴らす。


 ……喜んでいるのだろうか。


「ところで、今井さんは何でここに?警備の人達の対応をしてたんじゃ……」


「うん、勿論適当に相手したよ!その後で来たんだ!」


 もしかして、俺が家でのんびりし過ぎた?


 ……いや、そんな事はあり得ない。


 これでも、通常あり得ないくらいの速度でここまで来た。


「どうやってそんなに早く?もしかしてこの車で?」


 見た感じ、今井さんの乗っていた車はお世辞にもスピードが出そうとは言えない。


 でも、本気で飛ばして来れば……


「いや、その車は今乗ったばっかりだよ」


「じゃあ……」


「まあ、確かにこの車は最新式の部品を使ったけど・・これも自作だし・・何より今回ここまでは、緊急用脱出口を使ったんだ」


 最新式の部品を使った……?


 これで……?


 いや、それよりも―


「緊急用出口ですか?」


 俺が出て来たのは出口であって、特別、緊急用とかでは無かったはず。


 と言う事は、俺が使った出口とは別の脱出口から出てきたと云う事だ。


「うん、そうだよ!飛ばし出口を使ったんだ」


 飛ばし出口……禄でもなさそうな名前だ。


「……因みに、どんな出口なんですか?」


 一応、気になるには気になる。


「名前の通り、出口まで飛ばすんだ!」
「具体的には、一体どんな?」


 名前の通り、って言われても流石に想像が付かない。


「えっとね、先ずカプセルに入って、その後はボタンを押すと真空の管の中を時速1200Kmの速度で移動するんだ。それで、出口まで付けば無事脱出だ!」


 ……何と言うか、とんでもない。


 時速1200Kmで移動するとか……それならば確かにここまで来るのにそう時間がかからないだろう。そうなると、会社からここまで地下を直線で繋いでいるのだろうか。


 何となくだが、地下に真空管を通して、その中を移動するアイディアについては聞いたことがある・・確か外国で、何とかループ構想とか言って同じようなアイディアが新しい交通手段として発表されていた。


「……それ、安全なんですか?・・真空の中って」


「大丈夫、一応安全テストもしてるから……シミュレーターで……」


 シミュレーターて……


 相変わらず、”技術の今井”の異名は伊達では無かったようだ。


 こんな話を聞いてしまうと、俺が使った脱出口はどれだけ安全だったのかよく分かる。


「はぁ……」


 思わずため息が出る……何と言うか気が抜けてしまった。


「うん、そろそろマムも準備が出来たかな?」


 そう言えば、さっきまで元気一杯だったマムの声がしばらく聞こえてこない。


「準備ですか?」
「そう、僕はペーパードライバーだからね!前から趣味で改造してた弄ってた車が遂に動く事になったんだ!」


 趣味で改造してた……?


 それに、ペーパードライバーとマムがどうやったら結び付くんだろうか。


 まあ、問題が無いならいいが……


「マムと何か関係が……?」


「マムはナビゲーター兼、運転手なんだ!」


 マムが運転手……どういう仕組みか分からないが、マムが操作できるように出来ているらしい。


 一応、今井さんらしく中身はハイテクなようだ……中身は……


「あの……タクシーでは大変な目に合ったんですけど、大丈夫なんですか?」


 タクシーではマムが運転をしていた訳では無いが、マムが関わっていた事で大変な目に合った。それが少しだけトラウマになっている。


「大丈夫……か、分からないけど乗ってみれば分かるんじゃないかな?」


 そう今井さんが言うと、車のドアが開いた。


 自動ドア、と言うよりマムが操作しているのだろう……タクシーのドアみたいだけど。


「さあ、正巳君!」


 今井さんにそう急かされながら車に乗り込んだ。


 残念ながら、トラックなので座席は一列しかない。


 最前列でマムの操作を堪能するしかないらしい。


「……お前もやっぱり来るんだな」


 俺が乗り込むのと同時に、猫のボス吉も一緒に乗り込む。普通に一緒に乗っているが、今井さんは当然のように受け入れている。


 どうやら猫は嫌いではないらしい……良かった。


 車の中に入ると、マムが正面のパネルに居た。


 いわゆる、”カーナビ”のパネルにマムが写されている。


 ……マムの外には画面上に何もない。


「マム、ナビのメニューはどうしたの?」


 画面の中のマムがコテッ?と首をかしげる。


「パパ、メニューですか?」


「そう、このナビにはメニューが表示されているはずなんだけど……」


 そう言うと、マムが『あぁ~』っと納得した様子で答える。


「この中に入っていた”ナビシステム”はマムが食べちゃいました!」


 食べちゃったって、そんな食べ物を食べたみたいに言われても……


「えっと、それは大丈夫なの?ナビとかいろいろ……」


「はいパパ!ネットに落ちてない特殊なアルゴリズムと、プログラムが入っていたので、美味しく頂きました!それにナビの機能自体はマムが出来るので、問題ないです!」


「そっか、それじゃあ……良いのか」


 そう言えば、そもそも運転はマムがやるらしいからナビの心配は必要ないのか……


 それに、マムが言っているナビのプログラムとアルゴリズムなんかは、組込み型でネットとは隔離された状態だったから、ネットになかったのだろう。


 おそらく、食べたというのは消化、学習したという事になるだろう。


 そう言えば、今井さんが同じような事を説明してたっけ?……マムが自分のアバターを作った時に、”3Dモデリングのソフト”を買ってあげたとか……


 学習して食べて、マムが出来るようになるのであれば、今度ネットに無さそうなシステムを、マムにプレゼンとするのも良いかも知れない。


「さあ、行こうか!」


 今井さんの言葉に、元気よく反応したのが一人と一匹。


「はい、マスター!」
「にゃお~」


 ……まあ、良いか。


 そう言えば、これから向かう先聞いてなかったっけ……


 見た目を裏切る形でスーっと音もなく車が走り始めた。



「『 インパルス 』 ~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く