勘違い勇者だって魔王くらいは倒したい

SEAK

プロローグ

 どうしてこんなことになったのだろう……

 俺の人生はもっと平凡に終わるはずだったのに……

 出会って30分も経ってないようなよく分からん男に殺されようとされているなんて最悪だ!


「キリスケ、その勘違い勇者を早く片付けるのじゃ。わらわは向こうに戻ってからの予定があるのじゃ」


 勘違いの勇者なんてこりごりだ。魔王だかなんだか知らないが俺が先にぶっ倒してやる!

 覚えとけ! このクソ幼女め!!

 心の中で威勢よくそう叫んだと同時に目の前の無駄にガタイの良い男が大きくナイフを振りかぶる。



 グサッ



 そんな音が聞こえるかのように華麗な弧を描いたナイフは綺麗に俺の胸に突き刺さる。

 不思議と痛みは感じないが、徐々に視界が暗くなり周りの音が消えていく。


 そんなことがあった後、俺は奇跡的に目を覚ました……と思った。

 いや、実際目を覚ましたんだ。

 地球ではないようなどこかもわからないような場所で……





 ◇‐◇‐◇‐◇‐◇‐◇‐◇‐◇‐◇‐◇‐◇‐◇‐◇‐◇


「悠人の最寄り駅のすぐ近くにすごく変わったお店ができたんだってね!!」


 時刻は昼休み。

 俺の数少ない友達の一人である秋野あきのは絶えず俺に話しかけてくる。


「そこの店、とにかくすごいらしいよ!」


「そうなのか、どんな風にすごいんだ??」


「えっとね……コスプレした店員さんがやってるお店らしくて食べ物も独特らしいよ」


 食べ物が独特……

 まともに食えるものだったらいいけど……

 昔、某テーマパークのハロウィン限定の変な色してるジュースがすごいまずかった嫌な思い出があるんだよなぁ……


「そうなのか? それは少し気になるし、今日の晩でも行ってみるか。変わってるだけの店ならともかく、レイヤーさんがいるとなると話は別だな」


 俺の名前は天谷悠斗あまやゆうと。小学生からアニメ好きな生粋のヲタクだ。


「だよね! 悠人ならそう言うと思ったよ! なんてったって、悠人は大のコスプレイヤー好きだもんね!」


 そして、こうやっていつも俺に絡んでくるのは、小学生の頃からの腐れ縁で繋がっている秋野祐哉あきのひろやだ。俺に影響されて徐々に2次元に毒されてきた、運動好きのイケメンだ。


「馬鹿言うなよ、俺はコスプレイヤーさんを好きなんじゃない、愛してるんだ」


「そうだったね……悠人はあれだ、レイヤーさんのことになるとすごいめんどくさくなる人だったね、そういえば」


「おい、秋野。適当にあしらうな、2次元は神で、レイヤーさんは神の具現化なんだ。崇めとけ」


「はいはい……」


 そうして、特にいつもと代わり映えのない普通な日々を送っていたんだ。







「あぁい!! 2名様ご案内ぃ!」


 そんな威勢のいいような声とともにケモ耳を生やした屈強そうな男がテーブル席まで案内してくれた。

 場所は今日の昼に話してた店。目につくものは全て木で出来ていて、雰囲気はあった。雰囲気だけは……


「お客様、ご注文はお決まりで??」


 店内に野太い声が響き渡る。


 俺は秋野と言葉を交わさなくても目すら合わせなくても今この気持ちを共有できる自信がある。

 そう、


((思ってたのとちがう!!!!))


 ってな



「と、とりあえず……この青色ステーキってやつを2つ下さい」


 秋野はおどおどしつつも俺の分まで注文してくれた、なんて良い奴なんだ。


「青色ステーキ2つ入りまァァす」


「「「あいよ!!!!」」」


 野太い声が再び響き渡る。



「おい、秋野……これからどうするんだ?」


「ご飯食べたら帰ろっか」


 ステーキが届くまでに話した会話はこの1回だけ。まあ、ステーキは届かなかったんだが。


「すいませんお客様、ちょっとこちらへ来ていただけないでしょうか」


 さっきとはうって変わってスラリとした男性に案内され、来たのは奥の部屋、従業員部屋のような所だった。

 そこには見たことのない様な物が沢山ある中、真ん中にぽつんと1つ座り心地の良さそうな椅子の上に幼稚園児くらいの小さな女の子が座っていた。


「シルカ様、さっき言っておられました者を連れてまいりました。この方々でお間違えないでしょうか?」


「うむ、間違いない。この目で見て改めて確信した。お主は勇者の卵じゃ。こっちの世界に案内する。詳しい説明は向こうでするのじゃ」


 やけに古臭い言葉遣いの女の子は、俺達を指さしながら言った。


「「え……?」」


 俺も秋野も唖然としている。上手く状況が飲み込めない。ただ1つ分かることは俺たちは勇者になれるってことだ、しかも異世界にまで行って!!


「早く、わらわには時間がないのじゃ。まずはお主の名前を言うのじゃ」


 よく分からないけどとりあえず、名前を言うか。秋野と目配せした後、俺から言った。


「俺の名前は、天谷悠t……」


「誰もお主に名前を名乗れなんて言ってなかろう。お主ではない、お主の隣の者じゃ」


「えっ……」


「早う言わんか」


「あっ、秋野祐哉っていう名前です」


「そうか、それがお主の名前か。早急にわらわ達の世界に案内する。カゲ、例の部屋に案内するのじゃ!」


 秋野は違う部屋に連れていかれる。秋野は俺にどうにかして欲しいような訴えかける目をするが、俺も何もわかってないからどうすることもできない。


「さて、残るは自分を勇者の卵と勘違いした可哀想な少年か。勘違い勇者とでも呼んでおくかの。警察とやらに連絡されても面倒だし、キリスケ、この前のナイフでこやつを殺してしまうのじゃ。あれだと周囲の人間からの記憶も消えるじゃろ」


 さっき席まで案内してくれた強そうな男がこっちに近づいてくる。


「やめろ、馬鹿言うな、殺すのだけは勘弁してくれ。絶対誰にも言わないことは保証する」


「わらわ達もその言葉を信じるほど甘やかされて育ってはいないのじゃ」


「頼む、信じてくれ!」


「キリスケ、その勘違い勇者を早く片付けるのじゃ。わらわは向こうに戻ってからの予定があるのじゃ」



 それが俺がこの世界で聞いた最後の言葉だった。


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