縁の下の能力持ち英雄譚

瀬戸星都

0029.行き着く先は

 
 その後リッカの案内で食料を買い込んで家に戻ってくるとチビ狼が出迎えてくれた。

「この子可愛いわねえ」

 遅れてリッカ母が出てきた。どうやらチビ狼と遊んでいたようだ。

「残念ですがこれから連れて行きます」

「そう。もう行くのね。準備はできたの?」

「ええ。しばらくは大丈夫だと思います」

「無事帰ってくるのよ」

「もちろん」

 リッカが答えると挨拶もそこそこに出発することにした。

「よし行くか」

 そうしてリッカの家を後にした。

 ん? 一瞬視線を感じたような気がした。周りを見るがどこからかはわからなかった。リッカは特に何かに気づいた様子はない。気のせいかな、と思い直し再び歩き始めた。

 二人は街を出て真っ直ぐと森に向かった。服の中に着込んだ鎖かたびらの着心地は思ったより悪くなかった。もちろん重量は感じるが動きを制限される感覚はなく安心感が段違いだ。値段の分の価値はありそうだ。まあそうでなくては困るのだが。

 しばらく歩いて森に入るとチビ狼が少し前を歩き出した。やはりどこかに案内してくれるのだろう。

 リッカに目線を送るとリッカも頷いてくれた。チビ狼についていくことに異論は無いようだ。

 チビ狼は途中で人道を外れ道無き道を進み始めた。よく見れば獣道になっているが、人間が通るには厳しい道だ。刀で邪魔になる草をかき分けながらリッカと先に進む。次第に当たりの草はリッカの身長にもなろうほどまで伸びていた。どこまで奥に行くつもりだろうか。

「大丈夫か? リッカ」

「ああ。むしろちょっとわくわくしてる」

 気持ちはわかる。人はまず踏み入れようとしないような道だ。おまけに先が見通し辛い。この先に何があってもおかしくない、むしろ新しい発見があるのではないか。そんな雰囲気が十二分に感じられる。

 森に入って二時間くらいは進んだだろうか。そろそろ一度休憩を入れた方がいいかもしれないな。

「おい、チビ狼。一度休憩しよう」

 チビ狼は止まったが、リッカがあきれたように言う。

「もう少しマシな名前をつけたらどうだ? さすがにそのまんま過ぎるだろ」

「名前をつけたら情が移ってしまうだろ? ずっと世話するわけでもないし」

「そうかもしんないけどさぁ……」

「じゃあチビ助でどうだ?」

「ほとんど変わらないのはおいとくとして、そいつはオスか?メスか?」

「知らないよ。よしじゃあどちらでも大丈夫なように、チビにするか」

「そいつが成長したら?」

「デカにするか」

「センスが壊滅的過ぎる……」

「そういうリッカはいい案があるのか?」

「あたし? そうだなあ……ウールフとか?」

 同レベルじゃねえか……。そう思いながら腰をおろして携帯食を取り出し、かじり始める。水を口に含むと歩いてきた疲れが緩和された気がした。リッカも腰をおろしてチビ狼を撫でながら水分を補給する。一息ついたところでリッカが声をかけてきた。

「そう言えば森に入ってからまだ魔物に遭遇していないぞ?」

「もしかするともうこのチビ狼の仲間達の縄張りに入っているのかもしれない」

「やっぱりそういうことかな」

 そうは言うものの油断は禁物だ。降ろしていた腰を上げるとリッカも同じように立ち上がった。

「引き続き警戒は怠らないようにしよう」

 リッカは頷いて再びチビ狼の後に従った。

 それから一時間くらい歩いた頃だろうか。チビ狼が立ち止まって鳴き声を上げた。それは自分たちではなく森にいる仲間に何か伝えているようだった。

「そろそろ近いってことか?」

 しばらくすると前方から鳴き声が返ってきた。どうやらチビ狼の仲間たちがいるようだ。チビ狼は声の聴こえた方へと歩みを進めだした。いよいよご対面だな。しかし一体何があるんだろうか。チビ狼の件なら昨日狼達が戦闘に乱入してくれたことで貸しは返してもらったようなものだ。これ以上の用は無いように思うがどうだろうか。人間ならまだしも狼の考え方は流石に想像つかない。少なくとも襲われることはないと思うが。

 草木をかき分けていくと少し開けた場所に出た。
 そのとき視界に入ってきたのは歩く道を定めるような白い直線だった。昨日見た狼達が両側に座って並んでいたのである。動物がここまで綺麗に並んでいる座っている様は圧巻だった。

「おぉ……」

 思わずリッカも声を上げた。幻想的とも言えるこの光景の前では無理もない。
 先導していたチビ狼は列の中のある狼の元へと駆け出した。家族だろうか。顔を擦り付け合うとそのまま列に混じった。

 さあ進めと言わんばかりの状況のなかリッカと頷き合うとゆっくり並んで歩きだした。両側から狼に見られる経験は初めてだ。怖さは無いが何を思われているのか気になるところだ。しかし、少し歩くとすぐにその列は終わった。

「よくきたな、人間たち」

 終点に待ち構えていたのはあの黒狼にも引けをとらない純白の大狼だった。



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