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五導の賢者

アイクルーク

決断

 陽が沈み、すっかり暗くなった宿屋の一室に俺はいた。
 黙り込んでいると、この部屋にいるもう一人の女が無言で部屋に備え付いていたランタンに火を灯す。
 一気に部屋全体に明かりが行き渡り、普段とは違う顔をしたリアを照らす。


 城にて兵士達に捕まった俺は尋問を受け牢獄へと送られそうになったがリアの説得もあり、どうにかその場切り抜けることができた。
 そして今、リアに全ての話を聞くために俺は街にある宿屋にいる。


 申し訳なさそうな顔をするリアは話題を切り出せずにいるのか落ち着きのない様子で立っていた。
 イスに座っていた俺は無意識のうちにクインテットを持った手の甲を額へと当てる。


「えーとね、レン。まずは‥‥怒らないで聞いて欲しいんだ」


「いいから早く話してくれ」


 自分でも態度が悪いのはわかっている。
 だが、自分の中で感情がごちゃ混ぜになりどうすればいいかわからない。


「うん‥‥まず、この旅の目的について話すね」


「あぁ」


「この旅はね‥‥ラノンが、ベルーガの第一王子と婚約するためのものなの」


「っく!!」


 クインテットを握る手には力が入り、歯からはギシギシと音が聞こえてくる。
 心拍数が爆発的に上がっており、何もせずともその音が聞こえるほどだ。
 わかってはいた。
 あの王子が言ったことから考えても簡単に想像はついた。
 でもっ‥‥


「俺がラノンと出会った時から‥‥決まっていたのか?」


 俺の鋭い目つきにリアは僅かに後ずさるが、ゆっくりと首を縦に振る。


「うん‥‥あの時から、こうなることは決まっていたよ」


「っう、じゃあ‥‥」


 あの時も、と言いそうになって口を閉じる。
 あの星空の岩の上での出来事。
 すでにあの時から、ラノンはこうなることがわかっていたのか!?
 抑えきれない感情に体が震え上がる。


「なんで‥‥なんでラノンがあんな奴と一緒にならなきゃいけないんだ!?」


 聞くまでもない簡単な質問だ。
 でも訊かずにはいられない俺は顔を向けるがリアは顔を逸らす。


「それが‥‥共同戦線の条件だったの。王国は魔王との決戦にベルーガの戦力も加えるために協力を持ちかけた。でも‥‥ベルーガはその条件として、ラノンを差し出すように求めてきたの」


 第二王女一人と強国の兵力。
 考えるまでもない二択問題だ。


「別にラノンだってあんな奴との結婚を望んでいるわけじゃないよ?   でもね、そうしなきゃ一番苦しむのはラノンなんだよ?   今まで一緒にいたならレンもわかるでしょ?」


 声を荒げるリアの瞳からは涙が溢れていた。
 そりゃあ、そうだ。
 ベルーガの兵力を得られずに苦しむのは王国の兵士や市民だ。
 ラノンは他人の幸せを奪ってまで幸せを望むような奴じゃない。


「あぁ‥‥よく、わかる」


 だからこそ‥‥
 気がつくと俺の体の震えは収まっており、心音も平常時と同じくらいまで戻っていた。
 俺はイスから立ち上がると部屋の扉の方へと足を向ける。


「れ、レン!!」


 後ろにいたリアが俺の横を走り抜けると部屋の扉の前で両手を広げて立ちはだかる。
 俺はそんなリアを気に留めず一歩ずつ前へと足を進めていく。


「足を止めて、レン。ラノンから‥‥伝言があるの」


 ラノンという単語に俺の体が僅かに反応するが歩みを止めることはしない。


「聞いてレン!!   ラノンは──」


縛雷バインド・スパーク


 俺は右手をリアに向けると弱めの雷で体の自由を奪う。
 膝を折ったリアは痺れた体で懸命に口を動かそうとしている。
 その隣を通り過ぎると今度は右手をリアの首元に当ててた。


「話は本人に聞く。少し、眠ってろ。縛雷バインド・スパーク


 首後ろに流れた電流がリアから意識を奪い取った。










 新月の夜、三人の兵士達が閉じられた城の門前にて立ち並んでいた。
 まだそれなりに賑わっている通りの方からは喧騒が聞こえてくる。
 国の王がいる城に不審者など現れるわけがなく、気の抜けている兵士達。
 俺は鞘に納まったクインテットを片手に真っ直ぐと道を歩き続ける。
 その道は城の門以外には続いておらず、不審に思った兵士達が少しだけ警戒し始めた。


「おい、お前。こんな所に何の用だ?」


 兵士三人、武装は剣のみで防具はレザーアーマー。
 無言で歩き続ける俺に危険を感じ取ったのか兵士の一人が剣を抜く。


「おい!!   止まれ。止まらないと、斬るぞ?」


 俺はその一切を無視して足を進め続ける。
 さすがに他の二人も警戒したのか剣を抜くと、その内の一人が詰め所の中へと入っていく。
 ‥‥援軍を呼ぶつもりか?


「くそっ‥‥不審者だ、やるぞ」


 片方の兵士が間合いを詰めながらそう声をかけるともう一人もそれに反応して近づいてくる。
 二人は慎重に俺との距離を測っているが、その間合いに躊躇いなく踏み込むと二人同時に剣を振るってきた。


「雷掌」


 俺は左手に持っていたクインテットを上に放り投げると、兵士それぞれに掌底を打ち込みそこから雷を流す。


「ぐがっ‥‥」


「ぎぃ‥‥」


 崩れ落ちた兵士の横を通り過ぎた俺は詰め所から出てきた兵士に狙いを定める。
 あの手に持っているの‥‥狼煙か?
 この世界には燃やせば色のついた煙の立つ粉がいくつか存在する。
 主に遠距離での連絡手段として使われるが今回もそうだろう。


「なっ‥‥くそっ!!」


 詰め所から出てきた兵士は倒れている仲間を見ると一瞬固まってから慌てて粉に火をつけようとする。


 させるかよ。


 俺は落下してきたクインテットを掴み取るとそのまま火種を取り出している兵士の頭部めがけて投擲する。
 猛スピードで飛んでいくクインテットは手元に集中していた兵士の後頭部に直撃しその意識を奪う。
 門の大きさは三メートルくらい、基盤となっているのは木だが金属で補強されていて破るのはきつそうだな。
 俺は落ちていたクインテットを拾うと門と門の隙間から見える木の閂に目を向ける。


「切るか」


 門の隙間は数センチ、クインテットの刃が入り込むような余地はない。
 門の前に立った俺は鞘に納まったままのクインテットに手をかけると風の魔力を込める。


「斬空」


 圧縮された風の刃はクインテットから離れ、門のど真ん中を通り抜ける。
 そして次の瞬間には閂のなくなった門が開かれた。







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