話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

五導の賢者

アイクルーク

再戦の時



 時刻にして、およそ三時頃。
 空は灰色の雲が覆い尽くしており、すでに辺りは薄暗くなっていた。
 万全の体制を整えた俺たちは師匠が来るのを待ち続ける。
 時間を持て余していた俺は宿屋の屋根の上で刀を片手に一人佇んでいた。


 そして、その時は‥‥きた


 全身の毛が逆立つような感覚が俺を襲う。
 ‥‥師匠の威圧だ。
 俺は片手に刀を、そしてもう片方の手には酒の入った革袋を持って屋根から飛び降りる。
 前回戦った場所である宿屋正面に降り立った俺は師匠が来るのをその場で待ち続ける。
 ラノン達もさっきの威圧を感じたようで全員が武器を片手に宿の入り口から出てきた。


「レン、魔人はどこですか?」


 アドネスは新たに携えた剣を片手に周囲に気を配っている。


「正面だ。もうすぐ‥‥来る」


 グレイス、アドネス、リアは気合十分といった感じだが、ラノンだけは少しだけ不安そうに俺を見ていた。
 ここまできたんだ。
 引き返すことはできない。
 ‥‥いや、するつもりもない。
 俺は黙って前を向く。


「よぉ、まさか本当に残るとは思わなかったぜ。こっちとしては楽ができるから、ありがたいんだがな」


 鞘に収まったクインテットを手に持ち、珍しく腰には刀を差している。
 長く続く土の道を歩く師匠は余裕の笑みを浮かべていた。
 俺は両目を瞑ると、これから始まる激しい戦いに気持ちを切り替える。
 体力も魔力も‥‥そして、精神も最高潮。
 神経を尖らせた俺はゆっくりと目を開き、足を止めた師匠を見る。
 俺は片手で手にしていた革袋の栓を開けると、その中に入っていたアルコールの強い酒を喉へと流し込む。
 相変わらず、苦いな。
 苦味以外に何も感じることができない。


「おいおい。敵の真ん前で水分補給とは、随分と余裕じゃねえか」


 俺はそんな挑発の言葉を無視すると、革袋の栓を閉めてから師匠へと投げ渡す。


「あぁ?   なんだ?」


 師匠は革袋の中身を探るために栓を開けて匂いを嗅いでいる。


「酒だ。それも、あんたの好きな蒸留酒」


「なんでこんなもん用意したんだ?   お前、強い酒は飲まねえはずだろ」


 師匠は怪訝そうに眉を潜めている。


「あぁ、そうだな。苦くて、何の旨さも感じられない。だが、最後に‥‥あんたと飲んでおきたかったんだ」


 それを聞いた師匠は懐かしい笑み見せる。


「随分と粋なことするじゃねえか。ま、そういうことなら遠慮なくもらうぜ」


 師匠は革袋を逆さまにするとその中身を瞬く間に胃の中へと収めてしまう。
 空になった革袋を捨て、口元に付いた酒を片手で拭うとクインテットに手をかける。


「で、死ぬ覚悟はできたか?」


 俺も同じく手にしていた刀の柄を握りしめた。


「‥‥いや。あんたを殺す覚悟を決めた」


「はっ、上等だ」


 俺が殺気を放つと同時に互いに刀が鞘から抜き出された。
 師匠の持つクインテットには黒い雷が宿っている。
 使い慣らす鍛錬でもしたのか刀身に流れる黒雷には淀みがなかった。
 先に動いたのは師匠。
 身体強化ブレイブを使わないまま俺との間合いを詰めてくる。
 ‥‥狙いは武器破壊か。


「ラノン!!」


 俺は声を上げてラノンに合図を送ると、迫ってくるクインテットの刃を後ろに跳ぶことで回避する。
 打ち合いに持ち込んだら刀が保たない。
 ここは堅実に‥‥
 師匠がさらにもう一歩踏み込み、クインテットを切り返してくる。


 飛蓮


 躱せないことを悟った俺は即座に飛蓮を使って後退する。
 次の攻撃に備えていると背後で魔力が高まっているのがわかった。
 クインテットを振り切り動きを止めた師匠の目線が俺の後ろにいるラノンへと注がれている。


『この世界の理を作りしもの、その力の一端を今、授けたまえ』


 そして、師匠の殺気を恐れることなくラノンは詠唱を始めた。


「‥‥どんな魔法かは知らんが、俺も舐められたもんだぜ。俺の前でそんな長い詠唱を唱えさせるわけないだろ」


 直後、師匠は飛蓮を使いラノンの下へと向かおうとする。


身体強化・風ウィンドブレイブ


 風をまとった俺は横を通り抜けようとする師匠の前に立ちはだかる。


「邪魔だ」


 まるで虫でも払うかのように片手で振られたクインテット。
 俺はそれを刀の上で滑らせることで受け流す。
 こうすれば刀にかかる負担も抑えられるはず。
 俺はバックステップをしながら、火の魔力を込めた左手を師匠に向ける。


暁の烈火レイジングフレア


 橙色の炎が瞬く間に師匠を覆い尽くし燃え上がる。


『その力を与えられしは人間なり。その力を個の力であり、全の力でもあった』


 少し離れた位置で刀を構え様子を伺っていると、師匠の体から黒い雷が放出され、橙色の炎が一気に打ち消された。


「まぁ、そう甘くはねえわな」


 全身に黒い雷をまとった師匠が一歩を踏み出そうとしている。


 飛蓮


 咄嗟に飛びかかった俺は全力で刀を振ったクインテットで軽く受けられてしまう。
 身体能力で劣る俺が初動で遅れるのは致命的。
 だがこの先には、絶対に行かせない。


 ピキッ


 俺の持つ刀に僅かなヒビが入った。
 小さな亀裂だがゆっくりと広がっている。
 ‥‥これが闇の力か。


『個の力、全の力、どちらが優れているわけでもなく、どちらが劣っているわけでもない』


 俺は逃げるようにして飛び退くが、やはりと言うべきか師匠が追撃にかかってくる。
 同じ身体強化ブレイブのかかった状態なら身体能力は魔人である師匠の方が上。
 俺に逃げるような余裕が生まれるわけもなくあっさりと詰められてしまう。


「おらおらおら、おらっ!!」


 師匠の鋭い斬撃を咄嗟に刀で弾き返すが、すぐにつぎの斬撃がくる。
 余裕のなくなった俺に受け流すことができるわけもなく、刀に入った亀裂がどんどん広がっていく。
 四度目に斬撃を受けた際、俺の持っていた刀が甲高い音を立てて砕け散る。
 まずっ!!
 俺は刃が折れ短くなった刀を師匠の顔に投げつけ目くらましをすると、飛蓮を使い全力で師匠から距離をとる。


『強き個の力を全に与えることこそ、強さの境地と見たる』


 師匠は受け止めた刀を投げ捨てると、嘲笑しながら向かってくる。
 くそ‥‥こんなに早く折られるとはな。
 想定内とはいえ、状況的にはかなり厳しい。
 俺は何も言わずに後ろに向かって手を伸ばす。


「こいつを使いやがれ!!」


 予定とは違うグレイスの声に僅かに戸惑うが、投げられた武器をしっかりと受け取る。
 前に構えた俺の手に握られていたのはシルフィード。
 グレイスの使っているハルバードだ。
 魔武器であるシルフィードを壊すことは闇の魔力といえども簡単ではない。


「悪い、助かったグレイス。身体強化・雷サンダーブレイブ


 俺はシルフィードを両手でしっかり持つと飛蓮を使い前へと加速する。
 俺のその行動はさすがに師匠でも予想外だったようで、全体重を乗せた横薙ぎはガードに回っていた。
 師匠が態勢を立て直している間も俺は加速し続ける。


「けっ、速ぇじゃねえか」


 飛蓮


 さらにスピードに乗った俺はクインテットを構え直している師匠に突っ込んでいく。


『しかれど優れた全には必ず綻びが生まれる。さすればその綻びはどのように消えるのだろうか』


 勢いに乗った全力の一撃だった。
 だが師匠はそれをまるでなんて事もないかの様にクインテットで受け止めた。


「まぁ、上出来だ」


 一瞬、鍔迫り合いになったかと思うと、次の瞬間には腹に蹴りがいれられ、そのまま後ろへと飛ばされる。
 激痛に堪えながらも態勢を立て直すと三連続で飛蓮を使い、ラノンのすぐ近くまで後退した。


「っ‥‥くそ」


 俺は地面に膝をつけると、腹を抑えながら向かってくる師匠へと目を向ける。
 ラノンの詠唱はあと少し。
 ここを凌げば‥‥
 シルフィードを持つ片手を離すと、痛みに堪え魔力を集中させる。


『我の答えは背負うこと。全を引きいし王が痛みを耐えることと決す』


「いい加減にその長ったらしい詠唱を終いにしてもらうぜ」


 そう言いながら師匠はクインテットの先に黒雷を集中させると、剣先を俺に向けたまま腕を引く。
 あの構え‥‥雷狼牙、か。
 一点突破型の雷狼牙を受けるのは得策じゃないが、後ろには無防備なラノンがいる。
 俺はシルフィードを投げ捨てて挑発すると、それに応えるかのように師匠は真っ直ぐ向かってきた。


「いくぜ‥‥雷狼牙っ!!」


 黒い雷を放出するクインテットの剣先が身体強化ブレイブによって凄まじい速度で放たれる。
 雷狼牙よりも闇が付与されている分威力は上か。
 俺はその場に左腕を付けると魔力を一気に地面へと流し込む。


永久凍土バラスソイル


 魔力に呼応して俺の正面の地面が横長に、そして高く隆起した。
 師匠なら飛び越えることも回り込むこともできるであろう大きさだが、それは絶対にないと言い切れる。
 直後、俺の視界を遮っていた土壁が大きく揺れた。
 永久凍土バラスソイルはただでさえ貫きにくい土の壁を氷によってさらに硬度を上げたもの。
 容易に貫けるものでは──
 そう思った矢先、土壁に亀裂が入る。
 それはゆっくりと、そして着実に全体へと広がっていく。
 危険を感じた俺はその場から数歩だけ後ずさると無意識のうちに口を開いていた。


「さすが、だな」


 俺の前に立ちはだかっていた土壁は瞬く間に崩れ去り、その中からクインテットを手にした師匠が姿を現す。
 だが‥‥


『我と戦う友たちよ、今、剣を抜かん!!』


 膨大な魔力が一気に解放される。


王が道を行く者達プレイフォーピース


 それと同時に俺の後ろにいたラノンが古代魔法エンシェントマジックを放った。











「五導の賢者 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く