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五導の賢者

アイクルーク

九死に一生



 これはまずいですね。
 こちら側の戦力の要のレンがやられました。
 僕の隣にいたラノンはレンが倒れる様を見て戦慄している。
 リアは気絶、グレイスは戦意こそあるがかなりのダメージを受けている。
 やはりレンの言う通り、すぐに逃げるべきでした。
 今頃になって後悔が込み上げてくるが、今するべきはこの状況の打開策を考えること。
 刀を納めた魔人はこちらには見向きもせずに明後日の方向に歩いていく。
 撤退?
 いや、この状況でそれはないでしょう。


「グレイス、まだ動けますか?」


 まずは魔人がこちらに向かってくる前に体制を整える。
 決して魔人からは目を離さずに倒れているリアの下まで寄り、その体を強くさすった。


「こんくらい、余裕だっつうの」


 いつもよりグレイスの威勢が弱い。
 まともに戦えそうなのは僕一人ですか。
 未だに起きないリアを起こすため首の裏にあるツボの一つを強く押す。


「痛ったあっ!!」


 首元に走ったであろう激痛にリアが悲鳴を上げながら目を覚ます。


「あれ、私‥‥」


 リアはすぐに今の状況を思い出したようで、すぐに二本の小杖を拾う。
 この状態ではリアの魔法もそこまでに当てにはできないでしょう。


「グレイス、リア。僕が気を引くので、ラノンを連れて逃げてください」


 僕は地面に置いてあった盾を左手で持つと、レンの持っていた刀を拾っていた魔人の方を向く。
 狙いはあの魔武器でしたか。
 レンと魔人の様子からして、おそらくは二人は師弟関係でしょう。
 だとすると、レンと同等かそれ以上にあの魔武器を使えるはず。


「アドネス、レンさんの傷を治さないのですか!?」


 ラノンは驚愕の表情でこちらを見てくる。
 こんな時でもレンのことを気にかけるなんて、やめて欲しいですね。
 甘すぎるラノンの言動に苦笑いしてしまう。


「今この状況では無理です。まずはあの魔人をレンから引き離すために移動してください。レンはその後で僕が助けます」


 もちろん嘘です。
 残った僕はあの魔人を引き止める役。
 多分ですけど‥‥死にますね。
 横目でグレイスを見ると、僕の意図は伝わっていたようでラノンに気づかれないように小さく頷いた。
 魔人が魔武器に魔力を込めたのか、刀身の中に黒い雷が発生し出す。
 五属性じゃない?
 あれは‥‥闇と雷の複合でしょうか。
 雷は剣と盾で防ぐことができるでしょうが、闇による破壊はおそらく防ぐことはできませんね。


「ラノン、行くぞ」


「ですが‥‥」


 グレイスとリアがラノンの腕を無理矢理掴んで、宿の陰へと隠れていく。
 それを見送った僕はあえて気づかれるように音を立てながら倒れているレンに駆け寄る。
 案の定、魔武器に意識を集中させていた魔人がこちらに目を向けてきた。
 その表情はどこか嬉しそうだった。


「おいおい、随分と勇気あるじゃねえか。だが、お前の狙いはわかってるぜ」


 魔人はラノン達が逃げた方に首を向ける。
 やはり、バレてましたか。
 こうなることまでは想定済み。
 僕はボトムスに付けておいた衣囊から赤の小さな魔石を三つ出す。


「いいえ‥‥わかってませんよ」


 そう言うと魔力を込めた三つの魔石を一気に魔人の周りに放る。
 魔石の中の火の魔力が外から加えられた魔力に呼応して、一気に解放される。
 僕は溢れ出す炎に身を焼かれないようにレンの前で盾を構えて体を守る。
 魔石は大きさこそ小さいですが、代わりに魔力純度は最上位。
 まぁ相手は一位級ですので、火傷の一つでもしてくれれば御の字ですか。


「雑魚だと思ってたが存外やるじゃねえか」


 広がっていた炎が次第に収まると、その中から全身に黒い雷をまとった魔人が出てくる。
 無傷‥‥ですか。
 魔人から体を隠していた盾を少しだけずらして、相手の様子を見た。
 炎がなくなったことを確認した魔人はまとっていた雷を収めて、ゆっくりと歩き出す。


「さぁ、て。女を追いたいところだが、少しだけ遊──」


 余裕気に歩いていた魔人が突然、地面に膝を付きその歩みを止めた。
 ‥‥罠でしょうか?
 当の魔人も自分の行動に驚いているようで、両目を見開いて自身の足を見ていた。
 どうやら魔人もレンと同じように身体強化ブレイブの副作用があるようですね。
 いくら魔人とはいえベースは人の体。
 あの魔法による身体的ダメージは抑えきれないでしょう。


「ちっ‥‥もう限界かよ。まぁ、この体になってからこんなに長く戦ったのは初めてだし、しゃーねえか」


 魔人は不服そうな様子で何度か頭を掻く。
 流れがこちらに向いてきました。
 ここで逃してまた戦うよりも、今、倒してしまうのがベターですね。
 盾で体半分を覆いながらも、剣先だけは前に突き出し魔人へと向ける。


「あぁ?   やる気かよ。随分と威勢がいいじゃねえか。今なら見逃してやってもいいぜ」


 この魔人がすでに限界なのは明白。
 地面を勢いよく蹴り、魔人に向かって走り出す。


「ちっ‥‥面倒だな」


 魔人はゆっくりと体を起こすと、黒に染まった刀を構える。


「雷閃」


 魔人はさらに強い黒雷をまとった刀で切りかかってくる。
 ここっ!!
 突き出していた剣を引き、代わりに刀ごと魔人の体に当てるように盾を突き出す。
 俗に言うシールドバッシュと呼ばれる技術。
 魔人の振るった刀と盾との衝突の衝撃が左腕を通して全身に伝わってくる。
 かなり強い力‥‥ですが、さっきまでのような圧倒的な力は感じられません。
 やはり、やるなら今です。
 覚悟を決め、盾に加える力を最大まで上げる。


「なるほど、ヒヒイロカネか。だが雷は防げても闇は防げないぜ」


 魔人がそう言うと押してくる力が強まる。
 魔人の言う通り長期戦は不利。
 呼吸を整え集中を高めると、盾を押すように加えていた力を一気に引く力へと変える。
 突然、拮抗が崩れたことで僅かにバランスを崩した魔人の脇腹に剣先を突き刺す。
 硬い皮膚だが、ヒヒイロカネの剣はどうにかその皮膚を貫き、数センチほどその体に食い込む。


「くっ‥‥」


 魔人は左手で剣を掴んだかと思うと、激しい黒雷を放ちながら剣身を握り続ける。
 ここのままじゃ‥‥
 魔人に掴まれていた部分から亀裂が生じ、ゆっくりと剣身全体へと広がっていく。


「っ‥‥!!」


 危機を察知した僕は剣を掴んでいた手を離すと、大きくバックステップで後退する。
 持つ者がいなくなった剣は魔人によって難なく引き抜かれると、激しい黒雷と共に握り砕かれた。
 一応、国王から貰ったものだったのですが‥‥
 苦笑しながらも、残された最後の武器である盾を構えた。


「一介の騎士がこの俺に怪我を負わせるなんて、大したもんだ」


 魔人は傷口を確認しながら、見下した言い方をしてくる。


「一位級の魔人に褒めてもらえるなんて光栄ですね」


 剣が無い以上もうこちらに攻撃手段はありません。
 時間稼ぎに徹しますか。
 ラノンが生き延びさえすれば、それは例え僕が死んだとしても勝ちですから。
 意識を守ることのみ切り替え、全身に力を込めた。
 だが、何を思ったのか魔人は近くに落ちていたレンの鞘を拾うと手にしていた魔武器を納刀する。


「今日はもう疲れた。また来っからそれまで逃げんじゃねえぞ。もし逃げたら‥‥そうだな、お前らがこの先通りそうな街を片っ端から潰してく」


 それだけ言うと魔人は背中を向けて歩き出す。
 引いて‥‥くれるようですね。
 気を抜くことはしないが安心からため息が出る。
 あのまま戦っていたら、確実に死んでました。


「あ、一つ言い忘れた」


 魔人が不意に立ち止まり、その瞬間、僕の体に緊張が走る。


「そこの倒れてる奴に次は殺すって伝えといてくれや」


 レンのこと、ですか。
 次の瞬間、魔人は闇の中へと消えていった。
 その場に残った僕は張り詰めていた意識の糸が切れ、地面へと膝を付く。
 あれが一位級魔人。
 噂に違わない‥‥化け物ですね。
 生き残れたことに幸運を感じたが、次の瞬間には今後の動きについて考え始めていた。







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