五導の賢者

アイクルーク

依頼金



 マキナ達と買い物に行ってから四日が経った。
 俺はマキナと日課になっていた鍛錬を行うべく、修練場に来ている。
 修練場には別途に金がかかる個人スペースと、だだっ広い空間を大人数で自由に使う集団スペースがある。
 個人スペースと言っても実際には人数が少ないだけで他の使用者はいる。
 そんな個人スペースの隅にて俺は刀を握ってマキナと相対していた。


「マキナ、今まで教えたことを踏まえてかかってこい。一応言っておくが遠慮は要らないからな」


 マキナはむき出しの刀を握り、俺は鞘に納まっているクインテットを持っていた。
 マキナは正眼の構えを取りながら俺との差を少しづつ詰めてくる。
 これまで俺がマキナに教えたことはたったの二つ。
 相手の動きを見極め攻撃を回避することと、相手の隙を確実につくこと。
 俺はクインテットの鞘の部分を持ちながらマキナの攻撃に備える。
 マキナの構えは隙が少なく攻めにくい構えだ。


「っ‥‥」


 睨み合いに耐えきれずマキナが一歩を踏み込もうとした瞬間、俺の方から間合いを詰めて足払いを仕掛ける。


「くっ‥‥そ」


 マキナは上に跳ね上がり俺の足を回避する。
 だが、マキナは宙にいるため次の攻撃は回避できない。
 必死に刀で自分を守ろうとしているが意味はなく、俺はマキナの腹を殴り飛ばす。


「ゴフッ」


 飛ばされながらもどうにか着地をするも、痛みからか足元がおぼつかない。


「痛みで動きを止めるな」


 俺は攻撃の手を緩めることなく、クインテットの柄を持ち、鞘に納まったままのクインテットでマキナに殴りかかる。
 マキナは咄嗟に刀で身を守るが衝撃を吸収しきれず二、三歩後ずさった。
 人間の攻撃でこれじゃあ、魔物相手はきつそうだな‥‥
 俺が動きの止まったマキナにトドメの蹴りを入れようとするが、マキナは当たる寸前のところで回避する。


「もらった!!」


 俺は片足立ちでバランスのとりきれていない状態。
 マキナは先ほどまでの苦しそうな表情と一変し嬉々とした顔で俺に切りかかってくる。


 キンッ


「えっ!?」


 マキナの刃が俺に届く直前でクインテットを滑り込ませて、マキナの刀を止める。


「惜しいな。でも、お前の負けだ」


 俺はマキナの刀を握る手を掴むと、そのまま容赦ない一本背負いを決めた。
 地面に叩きつけられたマキナは苦悶の表情を浮かべてのたうちまわっている。


「くそぉー、完全に決まったと思ったのに!!  あそこから防ぐなんてずるいよ」


 悔しがるマキナの姿は実年齢よりかなり幼く見えた。


「捨て身の戦い方も悪くはないがそれだと魔物との戦いで不便だぞ」


 人の一撃と魔物の一撃とじゃ、重さがまるで違う。


「えー、でもこれくらいしなきゃフォールには勝てないじゃん」


「俺に勝つことに拘るな。あともう一つ。跳んで回避するのは最小限にしておけ。空中だと回避できない分、危険だ」


「そうそうあそこで殴られたのが効いたんだよな〜。フォールって少しも手加減してくれないよね」


「あれでも手加減はしてる。そろそろ帰るぞ」


 ミーアが朝食を作り終える頃だろう。
 俺はマキナに鞘を投げ渡す。


「えー、もう少しくらいいいじゃん」


「駄目だ。帰るぞ」


 マキナは渋々、刀を鞘に納めると俺と共に鍛錬場を後にした。












 この四日間しっかりと依頼を達成した成果か、Bランクの依頼はほとんどなくなっており、残るはAランクが数件にSランクが五件、SSランクが一件となっている。
 今日もいくつか依頼を達成して宿屋へと戻るところだ。
 カウンターで討伐部位を確認後、帰ろうとしたとこで呼び止められる。


「すいません、フォールさん。ギルド長が呼んでいますので、ついてきてもらえますか?」


「あぁ、構わないが何の用だ?」


 アーツに呼び出されるようなことをした覚えがない。


「報酬について、と言っていました」


 そう言うと受付の女性はどんどん進んでいき、奥にあったギルド長室まで来たところで道を引き返した。


「私は仕事に戻りますので何かあれば呼んでください」


 ‥‥報酬、か。
 それなりの額だか用意できたのか?
 若干憂鬱な気持ちになるも覚悟を決めて、扉を三度叩く。


「入っていいよ〜」


 アーツの軽い口調が扉の向こうから聞こえてくる。
 俺が扉を開けると、似合わず書類仕事をしているアーツの姿があった。


「やぁ、フォールか。この間は助かったよ。それに依頼を次々と消化してくれてんだって?  本当に感謝しきれないよ」


 まぁ、自分がそれだけの結果を出していることは自負している。
 だが、これくらいのことでもしないと罪悪感に耐えられなくなるような気がする。


「あぁ。それよりも報酬の用意はできたのか?」


 今はまだ残っているが所持金も心許なくなってきた。
 そろそろ収入が欲しいところだ。


「早速訊いちゃうんだ。まぁ、結論から言えばギルドでは用意できなかったよ。フォールが稼いだ額ってギルドにあるお金でも払えきれなくてさ」


 俺は今日までに達成した依頼の報酬を計算する。
 ざっと見積もっても、金貨五、六枚。
 このくらいならギルドにはあってもいいと思うんだが‥‥
 まぁ、金のない理由は容易に想像がつくか。


「それで、どうする気だ?  まさか、払わないとかじゃないだろ?」


 仮にギルドがハンターに報酬を払わなくなれば、これまでの信用など一瞬で崩れ去る。
 命を懸けて戦ったのがただ働きなんて、普通のハンターは到底許せないだろうからな。


「いや、さすがにそんなことはないよ。ただ、多少の面倒ごとは覚悟してね」


 含みのあるアーツの言い方。


「どういうことだ?」


「うん、フォールには依頼主であるこの街の領主と会ってもらうから」





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