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五導の賢者

アイクルーク

我儘



 リアとアドネスと別れた俺達はマキナ達を呼びに一度宿に戻る。
 宿に戻った時にはマキナはいなかったがミーアがすぐに呼びに行ってくれたお陰で、すぐに戻ってきた。
 俺が服を買いに行くと言うと皆んな嬉しそうにはしゃぎだす。
 意外だったのは遠慮すると思っていたミーアでさえもが大喜びしていることだ。
 そのままラノンとグレイスを紹介するとラノンは優しく受け入れられたが、グレイスのことは怖いのか少し警戒した様子だった。


 太陽が大きく南を回った頃、八人で魔物の襲撃により一時的にできた露店が並ぶ道を歩く。
 店を潰された商人などが仮の店として開いているのだが、その割には道行く人の数は少ない。
 話しながら歩いている内に俺がマキナとミーアを、ラノンが歳下三人と役割分担が自然とできていた。
 子供に好かれなかったグレイスは後方から少し離れた位置からラノンを見守っている?


「フォールは随分と早く帰ってきたけど何かあったの?  俺、ハンターについては色々聞いてるけど、こんなに早く依頼を達成できるなんて聞いたことないよ」


 俺が通り過ぎる露店に目を向けていると、隣を歩いていたマキナが訊いてくる。


「マキナ、フォールさんにも色々あるのよ」


 ミーアが間髪入れずにマキナを注意する。


「でもさー」


 気になってしょうがなさそうなマキナ。
 別に隠すようなことでもないか。


「今日は侵入してきた魔物を討伐してただけだ。そのせいで外に出る時間がなくなったがな」


 ミーアの表情が少し固くなる。
 魔物が街を襲ってきているという事実は恐怖以外の何物でもない。


「フォールってやっぱり強いんだよね。今度俺に稽古つけてよ」


 ハンターを志すマキナ。
 今は少しでも強くなりたいのだろうな。


「稽古ってなんの稽古だ?  弓なら教えられるほどは上手くないぞ」


 師匠から武器の扱いは一通りは習ったがあくまで基礎だけ。
 戦闘における最低限を習っただけであり、ましてや応用などは一切習っていない。


「え〜、やっぱり弓は使えないのか」


「フォールさんはその手に持っている剣で戦っているのですか?」


 ミーアはそう言ってクインテットを見てくる。


「まあ、そうだな。ただこれは剣じゃなくて刀だ。マイナーな武器だが慣れれば使い勝手はいい」


「刀って剣とは何が違うの?」


「剣は突きがメインなのに対して刀は切ることが優先されている」


 相変わらずだがこの世界での刀の認知度は低いな。
 魔物相手に戦うならよっぽどの名刀じゃない限り刀は剣に劣る。
 理由としては切ることに特化させたことにより魔物に深手を負わせにくくなったからだ?
 その分、対人戦は強いがな。


「それって剣より強いの?」


「使い手次第だ」


 どんな武器だろうと結局は使い手が全て。
 大事なのは極めることだ。
 俺の視界の隅に小さな露店が映ると思わず足を止めてしまう。
 特に売っている物が統一されているわけでもなく、ただ呆然と布の上に雑貨が並べられているだけ。
 その中には、珍しくも一振りの刀があった。
 俺が突然立ち止まったことに気付いたマキナとミーアも揃って足を止める。


「フォールさん、どうかしましたか?」


「あぁ、ちょっとな」


 俺は無造作に並べられていた刀の前まで歩き、その姿を間近で観察する。
 汚れのほとんどない真っ黒な柄に、傷一つない朱の鞘。
 この露店の主であろう小肥りのおっさんが怪訝そうな目で俺を見てくる。


「この刀、一度抜いて見てもいいか?」


「好きにしろ」


 俺は軽く会釈すると片手で刀を拾い上げ、親指で鍔を弾いて抜刀する。
 刀身に刃こぼれを直したような痕跡は見られない。
 どう見ても新品の刀だ?


「これはいくらだ?」


 見た感じそこまでいい刀ではなさそうだ。


「あ〜、それか。そいつは東から流れた珍しい剣だったんだが、どうにも使い手がいないらしくてな。買ってくれるなら安くするぜ」


 正直言ってこれを使う気にはなれないな。


「フォール、何見てるの?」


「マキナ、こいつも刀だ。持ってみろ」


 俺はそう言うと刀を鞘に納めてからマキナに投げ渡す。
 受け取ったマキナは恐る恐る刀を抜いて、その洗練された刀身を目の当たりにする。


「綺麗‥‥」


 後ろから見ていたミーアが自然と口にしていた。
 刀は武器としての一面もあるが、反面に芸術品としての側面もあるからな。


「俺の故郷には刀と弓を併用して戦う者もいたぞ。遠距離なら弓、近距離なら刀と使い分けて戦うんだ」


「へぇー、それ強そうだな」


 目を輝かせたマキナが刀をまじまじと見つめている。


「この刀、銀貨二枚でどうだ?」


 安物の刀としては妥当な値段だろう。


「二枚、か。まぁ、これで荷物が減るのならいいか。よし、売った」


「どうも」


 俺は二枚の銀貨を投げるようにして渡す。


「マキナ、そいつはお前が使え。使い方なら今夜にでも教えてやる」


「えっ、いいの!?」


「あぁ、そいつで兄弟を守ってやれ」


「ありがとう、フォール」


 慣れない手つきで刀を持つマキナ。
 それを見ているとなぜだか俺が師匠と出会った時のことが思い浮かぶ。
 まだ弱く、無知だったあの頃。


「さぁ、次の店に行くぞ」


 俺は二人を連れて店から離れると、次なる店を求めて歩き出す。










 三時間ほど店を回り、衣服や食料品、タオルなどの日用品を買い終えた俺たちは休憩のために道脇でヌーガと言う焼き菓子を食べていた。
 ヌーガと言うのはナッツやドライフルーツを水飴風のもので四角く固めたものだ。
 俺たちがヌーガを買ったパン屋ではクラックナッツ、レッドフルーツ、ローズベリーの三種類の味があった。
 値段も一個あたり小銅貨二枚とそこまで高価ではなかったので二人に三本ずつ買ってあげた。


「ねえ、フォール。刀ってフォールみたいにずっと手に持って歩くものなの?」


 買ったばかりの刀を持ち続けて疲れたのかマキナが四角い岩に腰掛けながら訊いてきた。


「あぁ、これか。人によって脇に差していたり、背負っていたり色々だな。俺は師匠の真似をして手に持っているが、まぁマキナは好きにするといい」


 基本的には使い手の生き方が反映されると言われているがな。
 いついかなる時も戦えるように手に持ったり、周りに見せつけるために背負ったりと自然と決まるもの。
 俺がどうこう言うようなことではない。


「ふーん、なら俺も手に持つことにするよ。フォールも師匠の真似をしたんだったら俺も師匠の真似をしなきゃならないからね」


 マキナの無邪気な笑顔でヌーガを食べている姿を見ていると、思わず笑みがこぼれる。


「ふっ‥‥そうか。せいぜい頑張ってくれ」


「おう」


 若さゆえの自信、か。
 まぁ、俺もまだまだ若いんだがな。


「さて、そろそろ‥‥ってマキナ、ミーアはどうした?」


 一緒にいたはずのミーアの姿が見当たらない。
 一人でいなくなるような奴じゃないんだが‥‥
 不思議に思いながら遠くまで見回すと、大きなテントの前で立ち止まっているミーアの姿が見えた。
 何してんだ?
 そう思いながら俺が近づくと、ウットリとした表情でテントの中を魅入っていた。


「ミーア?」


「あっ‥‥はい!!」


 一拍遅れてからミーアが反応する。
 冷静なミーアがここまで惚けるとは中に何があるんだ?


「何を見てたんだ?」


「な、なんでもありません。それよりも、早くラノンさん達と合流しましょうか」


 そう言うミーアだが視線はチラチラとテントの中に向いている。
 気になった俺はミーアの言葉を無視してテントの中を覗いてみる。
 その中には華やかな衣服が幾つも並んでいるおしゃれな服屋があった。
 ああ、なるほどな。


「これは違うんです。たまたま目に入っただけで‥‥」


 ミーアが取り乱した様子で色々と言っている。
 マキナとムレイドにもちょっと買ってやったし、ミーアにも買ってやるかな。
 この店にある衣服は先ほど買った安い服とは違い、一つ一つが銀貨一枚以上する高級品。
 はっきり言って庶民、ましてや子供が着るような服ではないだろう。


「で、どれが欲しいんだ?」


 この中にはミーアが見惚れていた服があるはず。


「えっ、いや、これ以上フォールさんに負担をかけるわけにはいきません。さっきもマキナの──」


 俺は優しくミーアの頭に手を乗せる。
 するとピタッとミーアの言葉が止まった。


「俺のことは気にすんな。別に服の一着くらいなら買ってやるから」


 俺はミーアの髪を整えるようにして手を動かす。


「でも、私、フォールさんに何も返せないから‥‥」


「そんなの気にするな。朝晩の飯を作ってくれてるだろ?」


「はい‥‥」


 ミーアは俺と目線を合わせずうつむいている。
 いくら強がっていてもまだ子供。
 わがままの一つくらい言うのが自然だ。


「もう一回訊くぞ。どの服が欲しいんだ?」


 ミーアは震える手で一つの服を指差す。


「あのワンピース」


 ミーアの指の先にあったのは純白のワンピース。
 天気のいい日の雲のように真っ白なワンピースはシンプルながらも美しいデザインで、どことなく清楚さを感じた。
 俺はミーアの頭を優しく二回叩くと、立ち上がって店員に視線を向ける。


「そのワンピースを売ってくれ」


「銀貨二枚になります」


 ‥‥高いな。
 一瞬だけそう思ったが、ミーアが喜ぶなら悪くない。
 俺は支払いを済ませるとワンピースの入った布袋を受け取る。


「ほら、ミーアが持ってろ。これはお前のだ」


「ありがとう、ございます」


 ミーアは言い表せない感謝の気持ちを一言に込めると布袋を受け取る。


「さて、ラノン達を探すとするか」


 俺はミーアを置いて行くぞと言わんばかりに露店の並ぶ道を歩いていった。
















 買い物を終えた俺たちはラノン、グレイスと別れて宿に戻ると、六人で食事を取った。
 今日は買い物で疲れたのか、五人ともあっという間に寝てしまう。
 どうやらムレイドも新しい本を買ってもらったようで本を読もうと手に持ったまま寝ている。
 俺はムレイドが掴んでいる本をそっと抜き取るとテーブルの上に置いておく。


 そういえば、あの本どこにあるんだ?


 朝、買ったはずのムレイドに渡した伝承の本を探す。
 すると本はイスの上に置いてあり、俺はそれを手に取るとロウソクの灯りを頼りにその本を読み始めた。




『勇者と賢者』




 これは今から何百年も前の話、突如として無数の悪魔達が現れる。


 悪魔達は圧倒的な強さで人々を殺し、世界を破滅へと導いていった。


 そんな時、世界を救うために一人の勇者が立ち上がる。


 勇者は仲間である五人の賢者は共に悪魔達と戦った。


 だが、数の差により敗北した勇者達はある一つの決断を下す。


 そして、彼らは多くの犠牲を払いながらも封印のための術式を構築し、見事に悪魔達を封印することに成功した。


 こうして、世界に再び平和が戻ってきた。






 要約すればこんな感じか。
 俺の想像していた内容とは違ったが、いくつか気になる点がある。
 俺自身も疲れていたのか、それとも本を読んだからかはわからないが瞼が重く感じた。
 もうそろそろ、寝るか。


 俺はベッドにダイブするとそのまま意識を闇へと落としていく。











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