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五導の賢者

アイクルーク

戦いののち



「お、あった」


 俺は転がっていたクインテットの鞘を拾うと剥き出しになっていたクインテットを納める。
 この後、どうするかな。
 ぼんやりと歩きながらも、そんなことを考え始める。
 今から依頼を受けに行くのも気が向かないし、体裁的に考えても止めた方がいいだろう。
 かといって鍛錬するにしても本気を出せる場所がないからな‥‥
 そういえば、マキナ達って今着ている以外の服を持っているのか?
 同じ服を何日か着続けることはおかしいことではないが、一着しか持っていないとはまた別問題だ。
 家もないんだし持ってるわけがないよな。
 それならまぁ、今日はあいつらと買い物でもするか。


「あ、レンさん」


 後ろから突然、名前を呼ばれる。
 振り向くとそこにはラノン達四人がいた。


「ラノンか。あの魔物は倒せたのか?」


「えぇ、レンさんのおかげです」


 ラノンはこう言っているが俺がいなくてもこのメンバーなら切り抜けることができただろう。
 それほどまでにこの四人の強さは飛び抜けている。


「レンはどうしてこんな所に来たの?  偶然、ってわけでもないんでしょ?」


「あぁ。ギルドにいたら傷だらけの兵士が入ってきて助けを求められたから駆けつけた」


「ふーん」


 リアは納得したようで何度かうなづいる。
 そうだ、アーツは怪我してるんだった。
 ラノンを連れて行けばいいか。


「ラノン、あっちに怪我人がいるんだが治してやってくれないか?」


「えぇ、もちろんです!!」


「そうか、ならついてきてくれ」


 俺の横に普段と変わりない様子のラノンが並んで歩く。
 それに対してグレイスはいつもの倍以上警戒して周囲に網を張り巡らせていた。
 リアとアドネスは適度な警戒をしつつ俺とラノンの様子を見守っている。
 いくら強いといっても、経験値がまだまだか。


「レンさん、一つ訊いてもいいですか?」


 俺は今、偽名のフォールという名前を使っている。
 不用意にラノン達とアーツを引き合わせてアーツに俺の本名がバレるのは避けたい。


「あ〜、悪い。一つだけ先にいいか?」


「はい、なんでしょう?」


 自分の質問はあっさりと置き去りにして聞き手に回るラノン。
 俺は体を横に向けて全員が見えるような態勢にした。


「実は今まで使っていたレンは偽名だ。本名はフォールだから覚えておいてくれ」


 さすがにこのカミングアウトには全員が呆気を抜かれたのか大なり小なり口が開いている。


「えっ‥‥フォール、さんですか?」


 ラノンはオドオドとした様子で訊いてくる。


「そうだ。今まで隠してて悪かったな」


「なんでわざわざ偽名を使っていたの?」


「ん?  俺がお前らを信用してないから、かな」


 いつかアドネスが俺に言った言葉をそのまま返す。
 それに気づいたのかアドネスが眉を潜めて、微妙な視線を送ってくる。
 心なしかラノンが哀しそうな表情になっていた。
 ラノン達は俺に何かを隠している。
 それが何かはわからないがそれのせいで後ろめたい気持ちになっているのだろう。


「やぁ、フォール。治癒魔導師は連れてきてくれたかい?」


 アーツが患部を抑えながらこちらに歩いてきていた。
 出血が激しいのか顔色が悪い。


「あぁ、連れてきた。ラノン、こいつはこの街のギルド長のアーツだ。治してやってくれ」


「わかりました。それではまず傷口を見せてください」


 アーツが脇腹を抑えていた手をどけて痛々しい傷をラノンに見せる。


「わざわざごめんね」


「あ、いえ。気にしないでください」


 俺がラノンの治療する姿を見ていると後ろから軽く肩を叩かれる。


「フォール、少しだけいいですか」


 アドネスは手招きをしながらそう言う。
 ラノンには聞かせたくない話か?


「なんだ?」


「フォールはこの街にいる殺人鬼の存在を把握していますか?」


 殺人鬼‥‥
 昨日の夕方に見た二つの死体が思い起こされる。


「必ず二人殺してるってやつか」


「知っているのなら話は早い。犯人について何か知っていることはありませんか?  どんな些細なことでも構いません」


 まるで警察だな。
 アドネスが俺に質問する様子ははたから見たら尋問だろう。


「全く心当たりがないな。それじゃあ俺からも一つ質問だ。なんでそんなことを調べているんだ?」


 殺人鬼の追跡なんて率先して行う理由が見当たらない。
 むしろ危険が増える分、こいつとしては避けたいくらいだろう。


「そういう仕事ですから」


「‥‥お前が受けたのか?」


「殺人鬼を探すように頼まれているのはラノンです。頼まれたと言うよりは自分から申し出た、の方が近いですか」


「申し出た?」


 あまりやりたくなるような仕事ではないと思うが‥‥


「ラノンは自ら進んで辛い仕事をやっているんです。少しでも他の人に楽をさせるために‥‥」


 とことん‥‥甘いな。
 だがそれはこの世界においては稀有な存在と言えるが、それは同時に多くの危険をはらんでいる。


「そうです、もう一つ質問があるんです。あの殺し方に心当たりはありませんか?」


 そう言われて死の詳細な様子を思い出す。
 一人は刺殺に見えたがもう一人は内部から破裂するような感じだった。
 だが、そんなことができる魔法を俺は知らない。


「あの体内で破裂したような傷跡か?  俺の知っている魔法では無理だ」


 他人の体内に作用する魔法なんてあるはずがない。
 仮にあったとしても相手の体内で抵抗レジストされ、ほとんど効果を発揮することができないだろう。


「やはりそうですか。実はあの傷、心臓を起点として破裂しているようなんです。もしかしたら魂に作用するような魔武器が関わっているかもしれません」


 魔力の源となる魂、それが宿るとされる場所は主に心臓だと考えられている。
 確かに理屈は通っているが、魔力よりもさらに格上の魂に干渉できる魔武器なんてそこいらにあるとは思えない。
 俺が考え込んでいると、アーツの手当てを終えたラノンが声をかけてくる。


「れ‥‥フォールさん。この後、一緒に昼食を食べませんか?  せっかく会えたので‥‥」


 嬉しい提案だが俺はここに残らなくていいのか?
 そう訊こうと思ってアーツを探していると、全快したアーツが傷の治りを確認するように軽くストレッチをしていた。
 俺と目が合って即座に察したのかすぐに口を開く。


「フォールはもう帰っていいよ。後処理とかはギルドの方でなんとかしておくから、気にしないで」


「いいのか?」


「うん、ラノンちゃんと楽しんできなよ」


 少し気になる言い方だが、アーツがそう言うなら遠慮することもないか。


「じゃあ、ラノン。どっか食いに行くか」


「はい」


 俺が街の中心部向かって歩き出すと、そっとラノンがその隣に並んできた。





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