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五導の賢者

アイクルーク

追憶・斥候部隊のレン

 あれは俺がラノンと出会う前、師匠との別れて一人旅を始めたばかりの頃。
 無一文では思うように旅もできずにいたため、俺は一つの街に滞在して金を稼ごうと思っていた。
 だが、そんな考えを持った俺が行き着いた街はなんの因果か魔王との戦争の最前線、エルフェイスだった。


 エルフェイスは人口が一万を超えている大都市。
 現在、徴兵による三千の一般兵に加え、王都から千人の騎士団が派遣され合計で四千の兵士がいる。
 そんな争いには全くの興味もない俺だったが、いざギルドに行ってみると魔物討伐等の依頼は一切なく傭兵の募集が行われているだけ。
 しかもその傭兵もCランクハンターとなるとそれなりに報酬も高かったので少しの間だけ傭兵として金銭を稼ぐことを決めた。


 傭兵になると素早い身のこなしを買われ、すぐ斥候に配属される。
 魔法等を使うと他の者に怪しまれるので剣術だけで戦っていた。
 斥候にはハンター、騎士、貴族お付きの衛兵など様々な出身の者がいたがすぐに馴染んだ。
 ある日、大量の魔物の軍勢がエルフェイスに向かっていると情報が入り、エルフェイス近くに本陣を作り魔物との戦いに備えていた。
 そんな折、俺を含む斥候部隊に敵の正確な位置情報を調べるよう命じられ、現在森の中を駆けている。


「本陣出発してからもう二時間っす。ここいらで休憩とかどうっすか?」


 この中で唯一俺より若いレックスが口を開く。
 彼は綺麗な緑髪で、俺とはこの中で一番仲が良かった。
 その背中には大量の矢が入った矢筒を背負っており、手には大きな弓を持っている。
 なんでもエルフェイスにいる兄弟を養うためにハンターをやっているそうで、日頃からよく兄弟の話をしていた。


「レックス、黙って走れ。我々の任務は迅速な行動が求められている。休んでいる暇などない」


 この中で一番年上で、ここのリーダーをリーダーを務めているゼン。
 赤髪の騎士で長年鎧をまとっているからか体格がかなりいい。
 その顔には大きな切り傷の跡が右目と鼻の間に付いており、歴戦の戦士としての貫禄が出ていた。


 もう一人、普段は滅多に話さない女暗殺者、フィン。
 彼女はある貴族のお抱えの殺し屋だったようで、その貴族から命令されてここに来たらしい。
 背中まである黒髪をくくってポニーテールにしており、普段から着ている黒装束と相まって暗い雰囲気が出ている。
 だが、その反面かなりの童顔でついつい二度見するような可愛さから酒場でもよく男に声をかけられていた。


「まじっす?  俺、もう疲れたっす。レンはどうっすか?」


「このくらいなら体力的には余裕だけど、いざって時のために休んだほうがいいかもな」


 いつ戦闘になるかもわからない。
 その時にスタミナ切れだったらシャレにならない。


「ほら、レンも言ってるっす」


「レックス、いい加減に‥‥」


 突然、先頭のフィンが動きを止めた。
 それを見た俺たちは足を止めて近くの木の影に姿を隠す。
 どうやらこの森はここまでのようだ。
 ゼンが手でフィンに偵察に行くよう指示を出すと、フィンは黙って頷き木の陰に隠れながら前に進んで行く。
 そして、森の外の様子を見ると慎重に戻って来る。
 俺たちはゼンの下に集まり、フィンの話を聞く。


「少し離れた所に魔物の群れがいた。多分、あれが本隊」


 本陣で聞いた話だと、ここからさらに二時間くらい走った所にいるはずだった。
 フィンが再び森の外に出て行くのに俺たちはついて行く。
 するとそこには無数にうごめく魔物の軍勢がいた。
 しかも、その中には魔人クラスの強さを誇るベヒモスが二十体近くいる。
 俺たちはすぐに森の中に戻るとゼンを中心に円になった。


「想定よりかなり移動速度が早いな。速やかにここから離脱する。陣形は来た時と同じだ」


「了解っす」


「わかった」


 黙って頷くとフィンは来た道を逆走する。
 その速度は余力を残していた今までの走りとは違く、全速力に近いものだった。
 しばらく走った所でレックスが俺の横に並走してくる。


「レンはこの戦争、勝てると思うっすか?」


 真剣な表情をして訊いてくる。
 ゼンとフィンは少し前を走っているので、この会話が聞かれることもないだろう。
 俺が少し考えているとレックスが続ける。


「俺、兄弟のために絶対死ねないっす。だから、この戦争に勝ち目がないのなら、兄弟全員を連れて他の街に逃げるっす」


 逃亡兵は捕まれば最前線に送られるのがほとんどだ。
 それは俺たち傭兵にも言えること。
 一度引き受けた以上、逃げることは許されない。


「いいんじゃないか。逃げることも立派な選択肢だ」


「そうっすか。てっきり怒られると思ってたっす。それで、レンはどう思うっすか?」


「この戦争の勝ち負けなんて、俺はわかんねえ。一般兵の強さも魔物数もまともに知らないんだ、わかるはずがないだろ?」


「それも‥‥そうっすね」




 この時からだろうか、俺が自分とレックスを重ねるようになったのは。
 そして、自分と同じ道を歩もうとしているレックスを見て、安心したかったのだろう。
 俺は正しかった、と。




 前を走っていたゼンとフィンが、突然足を止めて武器を構えた。
 それに気づいた俺とレックスも即座に戦闘態勢に移る。
 前にいた二人に合流すると、目の前には片手剣を持った魔人がいた。


「っ!!  魔人、っすか」


 レックスが隣で恐怖しているのがわかる。
 あれはおそらく三位級魔人。
 そんじょそこらのハンターじゃ、相手にならない。
 だが、ここにいるメンバーなら‥‥
 俺がそう思った矢先、ゼンが魔人に聞こえないように声を潜めて指示を出す。


「フィン、レン、お前らは別々にここから離れて、本陣へと戻れ。私とレックスはここで時間稼ぎだ」


 機動力のある俺とフィンを逃がすのか。


「‥‥えっ?」


 レックスの偽りない驚きの声。


「そ、それって‥‥ここに残れって、ことっすか?」


 実質、死亡宣告に他ならない。
 たった二人で魔人の相手など自殺行為に等しい。


「あぁ、そうだ」


「いやっす!!」


 大声で言い切るレックス。
 その声に迷いはない。


「レックス、何を言っているのかわかっているのか!!」


「わかってるっすよ。でも、勇者も賢者もいないこの戦争に、元から勝ち目なんかないっす。それなら、俺は生き残るために戦うっす」


 これはただのレックスのわがままだ。
 傭兵としてこの戦争に参加した以上、上官の命令には従わなければならない。


「き、貴様‥‥!!」


 周りで何かが蠢く音が聞こえたので、慌てて見渡すとすでに大量の魔物に囲まれていた。


「なんの喧嘩かは知らんが、これで逃げられないぞ」


 魔人が剥き出しの剣をこちらに向けてくる。
 道理で静かだと思ったら囲んでたのか。


「今は喧嘩してる場合じゃないだろ」


 状況は最悪、俺たちは魔人の動きを止めつつ魔物の包囲網を突破しなければならない。


「私も戦う。レックスはレンと行けばいい」


 フィンはそれだけ言って手に二本のダガーを持ち、魔人へと向かって行く。
 だが、一瞬立ち止まりレックスを見る。


「レックス、勝って」


 フィンはそう言うともう振り返ることもなく魔人へと向かって行く。
 そして、ゼンもこれ以上時間をかけられないと判断したのか、遂に折れる。


「レン、死んでも本陣に辿り着け。レックス、お前もだ」


 ゼンも完全に死ぬ覚悟を決めた目をしている。


「あぁ‥‥わかった」


 俺のその言葉を聞くと、満足したように僅かな笑みを浮かべて魔人へと向かって行く。
 おそらく、ゼンとフィンをもってしてもそう長くは持たないだろう。


「レックス、行こう。俺たちは、死ぬわけにはいかない」


 レックスは魔人と戦うゼンとフィンの姿を名残惜しそうに見ている。


「‥‥わかってるっす。今、行くっす」




 この時、僅かだが賢者の力を使うことは考えた。
 だが、仮にここで力を使えば確実に王国に知られる。
 それだけは避けたかった。




 そしてこの場から逃げようとする俺たちを囲むようにレッドオークが立ち並ぶ。
 レッドオークはオークの上位種で単体でBランク。
 とても楽観視できるような状況ではない。


「援護を頼む」


「了解っす」


 俺はレッドオーク達のど真ん中に切り込んで行く。
 あまり時間はかけられない。
 動きだけ止めて、すぐにここから離れるのがいいか。
 レッドオークは鳴き声を上げなから、俺目掛けて武器を振り下ろすが、俺はサイドステップで避ける。
 レッドオークが持つ斧が地面に深々と突き刺さった。
 これはクインテットで受けることすらきつそうだ。
 俺が一体のレッドオークに気を取られている間に、完全に囲まれおり、四方から斧が振られる。


「チィ」


 俺は斧と斧の合間を掻い潜って、攻撃を回避すると近くにいたレッドオークの足をクインテットで貫く。
 まだ一体か。
 そう思った矢先、俺を囲んでいたレッドオーク達の目に鉄の矢が次々と刺さった。
 痛みに我を忘れたレッドオーク達はがむしゃらに斧を振り回す。
 俺はその隙に包囲網から脱出すると、残ったレックスの方を見る。


「レックス」


 俺が声をかける前からレックスはレッドオークの合間を潜り抜け、こちらに向かっていた。
 それに気づいた一体のレッドオークが後ろから斧でレックスを殴り付けようとする。


「させるか!!」


 俺は手持ちのナイフを一本取り出すと、レックスを狙っていたレッドオークの首めがけ投擲する。
 俺のナイフがレッドオークに刺さるのを見てから、レックスは自分に危険が迫っていたことに気づいた。


「助かったっす」


「今のうちに行こう」


「了解っす」


 俺たちは後ろを気にしながらも、本陣に向かって森の中を全力疾走する。





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