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五導の賢者

アイクルーク

道中

 村を出発してからすぐに、森の中に入る。
 ここはオーク達と戦った森で特に強い魔物も出ないらしい。
 まだ朝だと言うのに、生い茂った葉に太陽は隠れて薄暗い。
 気温はやや低いものの、十分に適温と言える範囲内だった。
 移動時の陣形は色々とあるそうだが、今は危険が少ないので特にこだわらずに歩くそうだ。
 グレイスは他に比べて五歩くらい前を歩いており、辺りを最も警戒していた。
 そしてラノンが真ん中を歩き、アドネスがその後ろ、そしてもう一人の護衛がラノンの左隣を歩く。
 ちなみに俺はラノンの右隣を歩いている。


「レンさんはまだ、オリヴィアとの面識がありませんよね?」


 ラノンがそう問いかけてくる。
 オリヴィア、おそらくはグレイスとアドネス以外のもう一人の護衛のことだろう。
 特に話す機会がなかったのでここまで話せず終いだったが、共に旅をする以上、自己紹介程度はしておいた方がいいか。
 ラノンの影からひょっこりとオリヴィアが姿を現わす。


「あなたがレンでしょ?  私はオリヴィア、炎の魔導士やってまーす。よろしくね」


 赤髪のツインテールに燃え盛る炎のように赤みを帯びた瞳。
 全身から滲み出ている楽しそうな雰囲気。
 笑った顔がようく似合う活発そうな少女で、背は見た感じ百五十くらいでかなり小さかった。
 服は貴族のような高そうなわけではないが、着こなし方がおしゃれで本人とマッチしている。
 話し方や見た目の感じから言ってこの中でのムードメーカー的な存在だろう。


「よろしく、オリヴィア」


 見た目通り、炎の魔法を使うのか‥‥


「あっ、私の名前、呼びにくいよね?」


 オリヴィア‥‥確かに、呼びやすい類の名前ではないな。


「まぁ、確かに」


 オリヴィアはラノンの前を通ると俺とラノンの間に割り込んできた。
 そして、自分のことを指差してこちらを見る。


「じゃあ、私のことはリ、ア、って呼んでね。その方が楽でしょ?」


 オリヴィア‥‥リア‥‥文字を抜いたのか。
 まぁ、呼びやすくていいな。


「そうだな。じゃあこれからはリア、って呼ぶからな」


 あだ名を使うのって、なんだか久しぶりだなぁ。
 でも、まぁ‥‥仲良くなれそうでいいか。


「でもね〜、ラノンだけは私のことリアって呼んでくれないの。グレイスもアドネスも呼んでくれるのにさ。ねぇ、ラノン。なんでリア、って呼んでくれないの?」


 貴族を相手にしてもこの話し方なのか。
 それともラノンだから、か?
 ‥‥後者だな。
 護衛と言えども最低限のマナーは心得ているはず。
 ラノンに許可をもらっているのだろう。


「私を守ってくれている人の名前です、正しく呼びたいじゃないですか」


 ラノンはさも当たり前のことを言っているかのごとく言う。
 正直言って、全く共感できない理屈だ。
 リアも同意見のようでため息を吐きながらこちらを見ている。


「それで?  レンは?  なんかないの?」


 なんか‥‥って言われてもなぁ〜


「例えば、どんなことが知りたいんだ?」


 こういう時はある程度方向性を示してもらいたいものだ。
 ラノンもこの話題には興味があるようで顔を向けている。


「そうね〜、ハンターなんでしょ?  じゃあ、何ランクなの?」


 前を歩いているグレイスが僅かに反応したような気がした。
 しかし、グレイスは相変わらず一人で前に突き進み続ける。
 うん、気のせいだな。
 そう結論付けてから、リアの質問に答え始める。


「俺は今、Bランク。ただし、Aランクの依頼をあと一度でも成功させればAランクだ」


 Aランクの依頼なんて常にあるもんじゃないからな、タイミングが悪けりゃ受けることすらできない。


「Bランクなんだ〜、意外」


 リアはそう言ってクスクスと笑い出す。
 すると、納得できなかったのか今度はラノンが口を開く。


「レンさん程の実力があれば、試験でAランクになることもできますよね?」


 あぁ、試験ね。
 自分でも受けない理由がはっきりとしていないこともあり、どう答えたもんかと首をひねる。


「さぁな。受けたことないからわかんないな」


「えっ、受けてないの!?」


 リアが突然、声を張り上げた。
 ハンターにおけるランクとは自分の強さの象徴、高いランクを持っているほど地位が高くなる。
 しかし、自分の身の丈に合わない依頼を受ければ死ぬのは確実。
 だから、ほとんどのハンターが試験を受けて自分の強さを確認している。
 まぁ、無謀にも上のランクを受けて死ぬ奴も山ほどいるがな。


「まぁな。俺は別にランクにこだわってねえから、そういうのはどうでもいいんだ」


「とか、言いながら個人でBランク持ちなんでしょ?  それって少し、嫌味入ってるわよ〜」


 リアは肘で腰のあたりを突っついてくる。
 ハンターの個人登録。
 俺のように個人でのランクを持つことで、ハンター登録を済ませた段階で全てのハンターが手にすることになっている。
 それに対してパーティー登録はある一定のメンバーで登録して、その団体での共通のランクを持つこと。
 高ランクハンターの大方はこのパーティー登録が占めている。
 逆に言えば個人でSランクやAランクを持っているハンターなんてほとんどいない。
 Aランクまでは多少いるとしても、Sランクは数えるほどしかいないだろう。


「そりゃ、悪かったな」


 俺は苦笑いしながら歩調を早める。
 だが、リアに見逃す気はないようで、横に並ぶように付いてきた。


「ほらほら、もっと胸を張っていいのよ〜」


 茶化すような口調でリアは続ける
 無言に徹して、飽きるのを待つとするか。


「ねぇ、無視しないでよ〜」


 リアの存在自体を無視し続ける。
 すぐに飽きるだろ。
 その思った矢先、リアの声が途端に小さくなる。


「ねぇ、レン。ラノンに惚れたから、ついてきたんでしょ?」


「っ‥‥」


 リアの口から出た予想を上回る言葉に思わず動揺してしまう。
 まじ‥‥か。
 リアがそれを見逃すわけがなく追撃が始まる。


「今、声を漏らしたよね?  もしかして‥‥当たり?」


 ここで、無視したら‥‥
 目を閉じて頭を働かせてみる。
 どうして女ってこういう時に鋭いんだか‥‥


「まぁ、惚れたわけじゃないけどな」


 ここは素直に本音を言っておくのが得策だろ。
 今の言葉を聞いてリアはニヤニヤとしている。


「ラノンって美人だもんね。今まで、色んな人に口説かれてたよ。レンは口説かないの?」


 あの顔なら納得だな。
 きっと貴族のパーティーでも男が群がるだろう。
 それほどまでにラノンは美しい。


「口説くわけねぇだろ。相手は貴族、俺は一介のハンターだ」


 身分の差がありすぎる。
 その一言に尽きる。
 別に貴族と平民の結婚例がないわけじゃない。
 でも、そのどれもが悲惨なもんだ。
 貴族からは馬鹿にされるは、平民から妬まれるわ‥‥幸せになった奴なんているのだろうか?


「身分を超えた恋‥‥いいじゃない」


 本の読みすぎだろ。
 まぁ、本って言ってもこの世界には写本による高級品しかないから、そうそう読めないか。
 いや‥‥


「お前、恋愛小説とか読んでるのか?」


「うん、なんでわかったの?」


 ラノンは顔をこちらに向け、目を丸くさせている。
 さも当たり前のことかのように返しているが、そもそも識字率の低いこの世界で本を読んだ経験のある者がどれほどいるか‥‥


「なんとなくだ」


 面倒になったので適当に誤魔化そうとするが、もちろんのことリアは納得しない。
 そんな時、先行していたグレイスが全員に聞こえるような大声を出す。


「魔物だ!!  アドネス、リア、ラノンを守れ!!」


 その声を聞くとリアの様子は一変し、荷物をその場に落としラノンのすぐ隣に立つ。
 その両手には小杖が一本ずつ握られており、その先端を周りに向けて警戒していた。
 へぇ‥‥小杖の二刀流か、面白いな。
 魔導士の持つ杖には大まかに二種類ある。
 一つはラノンが持っている大杖。
 これは魔法をより高い威力、かつ少ない魔力で放つことを目的として作られた杖で魔力変換効率が重視されている。
 その分、詠唱時間が長く味方のサポートが前提として考えられているが、高威力の魔法を連発することが可能だ。
 見た目はゲームなどにも出てくるような腰の高さほどまであるもので上辺には様々な装飾が施されている。
 それに対してリアの使う小杖は魔力変換効率を犠牲にする代わりに詠唱時間を短縮させ、手数の多さで勝負することが目的となっている。
 見た目はハリー◯ッターに出てくるような細長い棒だ。
 もちろん装飾などは一切つけられず、小杖同士のの見分けが難しい。
 ちなみに杖には作成段階から属性が決められており、ラノンがリアの小杖を使ったりすることはできない。


 グレイスは少し離れた位置で槍を構えており、アドネスは盾でラノンを守るように位置取る。
 アドネスとリアに守られながらも、ラノンは大杖を構えていた。
 周りに見える魔物は‥‥アサシンウルフが五、六体、お手並み拝見といきますか。
 無防備に立っているわけにもいかないのでクインテットを鞘から抜く。


「グレイスはその場で何体か受け持って、リアは近づいてくる魔物を牽制しつつ攻撃、ラノンは確実に撃破して」


 アドネスが早口で、なおかつ聞き取りやすいようにはっきりと命じた。
 グレイスは槍を華麗に回しながら三体のアサシンウルフの気を引きつける。
 俺は剣より格段に重い槍を自在に操るグレイスを見て、かなり感心した。
 前に槍の修行をしたことがあったけど‥‥あれを振り回すのはかなりきつい。
 正直言って、力はグレイスの方が上だな。
 そう考えている間に、ラノン達を四体のアサシンウルフが囲む。
 アサシンウルフは狼のような魔物で集団での狩りを得意とする。
 一体ならDランク、群れならCランク程度だろう。


「リア!!」


「わかってるわよ」


 リアが右手に持つ小杖からボーリング玉くらいの炎球が出てくる。
 初級魔法、炎球ファイアボール
 炎の球を飛ばすだけの魔法で、炎の魔導士がまず初めに覚える魔法だ。
 魔法にも難易度によって階級が決まっており、初級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法に分けられている。
 階級によって魔力の消費量が段違いに増えていき、それに応じて魔法の威力や範囲が強化されていく。
 最上級魔法の上に古代魔法があるとも言われているがその存在は謎に包まれている。


 リアが放った炎球は駆け回るアサシンウルフに飛んでいくが直線的な攻撃は簡単に見切られ、躱されてしまう。
 が、リアの攻撃はそれだけで終わらず、両手に持った小杖から次々と炎球を飛ばしていく。
 二本使うことで連射を早くしているのか。
 いや、あれは‥‥
 そうしている間に炎球を避けきれなくなったアサシンウルフはもろに喰らい、その体が炎に包まれる。
 小杖を使っている割には威力が高いな。
 小杖だけで修行してきたのか?
 多くの魔導士は二種類の杖の両方を使えるようにある程度は訓練する。
 この場合のある程度は年単位の話だが。


「まずは一体、っと」


 リアは燃え盛るアサシンウルフを尻目に次のターゲットへと視線を移す。
 リアと背を向けているアドネスは跳びかかってくるアサシンウルフを盾で受け止め、ラノンを守っていた。
 アドネスの持つ盾はデュエリングシールドと言う種類の盾で体の半分を軽く覆い尽くす程の大きさである。
 派手な装飾は一切なく、アドネスは盾の先端をやや尖らせることで相手を突き刺す武器としても使っていた。
 左手に持つのはやや厚めながらも短めに入るであろう長剣で、攻撃用と言うよりは相手の攻撃を受ける盾に見えた。


「おっ」


 他のことに意識を向けすぎて注意散漫になっていると、後ろからアサシンウルフが足に噛みつこうとしてくる。
 歯が足に触れる直前でその場で跳び上がり回避すると、宙から無防備になったアサシンウルフの胴体に刀を突き刺す。
 地面に磔にされたアサシンウルフがピクピクと痙攣している。


「ふぅ‥‥」


 刀を引き抜くと血が噴き出し、アサシンウルフが絶命した。
 自分を狙う魔物が他にいないことを確認するとラノン達へと視線を戻す。


散りゆく氷弾アイスフォールスアロー


 ラノンの大杖から放出された魔力は三十近くの氷の粒を作り出し、一斉に放たれる。
 残り三体の中の二体が魔法の攻撃範囲内から逃れられず、射抜かれた。


「すいません、一体逃しました」


 戦闘中でも敬語を使い続けるラノンに思わず感心する。
 すると、リアが残っているアサシンウルフの方に一歩踏み出す。


「私がやる」


 リアは右手の小杖は上向きに構え、残った左手の小杖でアサシンウルフを攻撃する。
 放たれた炎球は直線的なもので難なく躱されてしまうが、リアの顔には笑みが浮かんでいた。
 ラノンとアドネスもリアが勝つことを確信しているのか、援護をしようとはしない。


「よし、溜まった!!」


 そう言ってリアが炎球を放つことを止めると、逃げに徹していたアサシンウルフもチャンスとばかりに接近する。
 それを見たリアは先ほどから使っていなかった右手の小杖をアサシンウルフに向けた。


焼炎波フレアウェーブ


 中級魔法、焼炎波フレアウェーブ
 杖から放たれる炎の波が対象を飲み込むように飛んでいく魔法。
 この魔法は中級魔法の割には威力が低いがその分、攻撃範囲が広い。
 なので、複数の魔物との戦闘時や、素早い敵が相手の際に使われる魔法だ。
 リアが放った炎の波が迫っていたアサシンウルフに襲いかかる。
 小型のアサシンウルフに広範囲魔法を躱せるわけがなくもろに喰らい、その体を炎が包み込む。


 俺はその様子を見ながら感嘆の声を上げる。
 やっぱり、な。
 二つの魔法を並行して詠唱できるか。
 魔法とは本来、一種類ずつ使うものだが高位の魔導士になると同時に二種類の魔法を使えるようになったりもする。
 だがそれはごく少数で、王国内でも使えることのできる人数は三桁に満たない。
 その上、非常に繊細な技術なので戦闘において使う者はほとんどいないだろう。
 目の前の少女はその技術を戦闘中に使いこなしている。
 ただ者じゃないな。
 ラノンも含め、この一行‥‥全体的にレベルが高い。


 一人でアサシンウルフ三体を相手にしているグレイスに視線を向けて見るが、息すら乱れておらずその表情には余裕があった。
 ‥‥っと、そろそろまじめに戦った方がいいな。
 まだ一体しか倒してないし、グレイスの援護でもしてやるか。
 ラノン達三人はグレイスに加勢しようと、体を向けるが俺はその横を駆け抜ける。


 グレイスも近づいている俺の存在に気づいたようで若干眉をひそめた。
 そんなに嫌われてるのかよ‥‥ハンター嫌いか、何があったんだろうな。
 誰だって重たい過去の一つや二つはあるだろう。
 俺だってそれを詮索する気はないが、無条件で嫌われるのはどうにも納得できない。


「まぁ‥‥パパッと終わらせるか」


 気を引き締めると、掌をアサシンウルフに囲まれているグレイスに向けた。


縛雷バインドスパーク


 俺の手から放たれた雷が綺麗にグレイスだけを避けて、周りにいるアサシンウルフのみを感電させる。
 初級魔法、縛雷バインドスパーク
 雷属性に多い捕縛系の魔法で、放出した雷が相手の動きを一時的に止める。
 初級魔法なのでそこまで強力なわけではないが、縛雷は非常に使い勝手がいい。
 ちなみに縛雷は俺がよく使う魔法の一つである。
 アサシンウルフの大きさから見ても五秒程度かな。
 電撃を喰らったアサシンウルフは痙攣しながらその場に倒れている。


「グレイス、殺れ」


 俺のいる位置からじゃ、五秒で三体は仕留められない。
 だが、アサシンウルフの達の中心にいるグレイスなら余裕だろう。
 一応だが、一番近くにいたアサシンウルフの頭を刀で貫く。


「てめぇが俺に命令してんじゃねぇよ!!」


 華麗に振るわれた槍先が動けずにいるアサシンウルフの首筋を切り裂く。
 動脈も切ったことにより大量の血を流しながら絶命する。
 クインテットをアサシンウルフの頭から引き抜いていると、グレイスが槍を肩に乗せてこちらを睨んでいた。
 ハンターの手を少しでも借りたことが癪なんだろ。
 すげぇ‥‥どうでもいいけど。
 軽く素振りをしてクインテットに付いた血を落とすと、持っていた布で刀身を拭く。
 その動作中、ずっとグレイスが睨んでいたが無視し続けていると後ろからラノン達が捨てた荷物を持って来た。
 その中には俺の荷物袋も含まれている。


「レンさん、お疲れ様です」


 ラノンは俺に荷物を渡そうと近づいて来る。


「あ、悪い。わざわざ取ってきてくれたんだ」


 片手で指先を上に伸ばして、ごめん、の形を作る。
 中に入っているのは食料や水、失くしたらかなり危険だ。
 クインテットを鞘に納めると、ラノンから荷物を受け取る。


「いえ、一緒に旅をする者として、当然のことです」


 ラノンが優しく笑いかけてくる。
 俺は思わず、見惚れてその場に立ち尽くしていた。
 すると、見兼ねたアドネスがラノンの横まで来る。


「そろそろ、出発しますよ。早めにこの森を出たいので急ぎましょう」


 正気に戻った俺は旅の行程を軽く思い出す。
 確か‥‥森を出てから一泊、野宿をするんだったっけ。
 ラノンは数歩歩いたところで、一緒に来ない俺に気づき振り返る。


「レンさん、行きましょう」


「あぁ、そうだな」







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