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五導の賢者

アイクルーク

旅出

「本当に、泊めてくれてありがとう」


 オーク討伐から一日が経った朝、俺は家の前でサラ達に別れを告げていた。
 本来ならもう少しゆっくりとする予定だったが、とある理由で出発が早まる。


「レンさん、本当に‥‥行ってしまうんですか?」


 サラは名残惜しそうな目でこちらを見てくる。


 おそらく、まだ恩を返しきれていない、とか思っているのだろう。
 俺としては二晩泊めてくれただけで、十分なんだけどな。
 まぁ、どうこう言って納得してくれることでもない。
 不意に服の裾が引っ張られ、目線を向けるとエディが裾を掴んでいた。


「レン、行っちゃうの?」


 たった二日間、そう言えるかもしれない。
 でも、命懸けの体験を共にしていたからかエディとはかなり仲良くなっていた。
 剣の使い方を少しだけ教えたり、魔法の素養があるかを試したり‥‥短い間でながらもエディとは濃密な時間を過ごした。
 子供にとって別れとは辛いものであり、また大きく成長させるものでもある。
 エディの頭に手を乗せると三度だけ軽く叩く。


「いいか、エディ。明日から俺はこの村にはいない。それで、また一昨日みたいなことが起きたら‥‥お前はどうする?」


 エディは一切迷うことなく答える。


「僕が‥‥守る。だから、守れるように、強くなる」


 エディの目からは強い意志が感じ取られ、決意の強さが伝わってきた。


「それでいい。大切なものは誰でもない、自分の手で守るんだ」


 こんな時代だ。
 いつ魔物に襲われるかもわからない。
 兵士として戦わなきゃいけない時がくるかもしれない。
 そんな中で、強さだけは不変のものとして自分に残り続ける。
 強さは素晴らしい財産だ。
 だが、強さはすぐには身に付けることができない。
 きっと、エディは強い男になるだろう。
 エディの頭に乗せた手を引く。


「サラ、子供達と元気にやれよ。じゃあな」


 サラ達に背を向けて歩き出す。
 別れは長ければ長いほど、悲しくなる。
 だから、俺は手短に終わらせた。
 と、三歩目でサラが呼び止めてくる。


「あの〜」


 俺は足を止めて振り返る。


「また‥‥会えますか?」


 また‥‥か。
 こんな辺境の地にまた来るかどうかはわからないが‥‥


「生きていれば会えるだろうさ。じゃあ‥‥またな」


 後ろから視線を感じながらも、今度は立ち止まることなく道を歩いていく。


「また‥‥来てください。いつでも、おもてなしますから!!」


 ‥‥今度来た時は宿代が浮きそうだな。
 そんなことを考えながらもラノン達に会うべく、宿屋へと向かう。
 昨日のうちに買っておいた食料などの消耗品の入った袋を肩にぶら下げながら、ぼんやりと空を眺める。
 そして、なぜラノン達の下に行くのかを思い起こし始めた。










 それは昨日のオーク討伐後に遡る。
 俺は二十三体ものオークを倒した後、ラノンの治療を受ける。
 ラノンの回復魔法は大したもので、折れた肋骨も元通りになった。
 その後、軽く礼を言ってからオークの討伐部位を回収し、村長の家へと向かった。


「まさか、本当にやるとはのぅ。ラノン様の力を借りたのか?」


 村長の家の客間で村長と向かい合わせになるように座る。
 二人が挟んでいるテーブルの上には報酬の入った袋が置いてあった。
 護衛の奴らが威圧はしてくれたけど、戦ったのは俺一人だし‥‥
 あれは、借りたに入るのか?
 あ、それに一応、怪我は治してもらったからな‥‥


「うーん、少し‥‥借りました」


 濁すような言い方だが、これが一番しっくりとくる。
 村長は髭をいじりながら嬉しそうに微笑む。


「そうか、そうか。それはよかったのぅ」


 村長の話し方はスローテンポで、戦闘後の疲れている身としては早々に切り上げたかった。


「それで、これが報酬ですか?」


 おもむろに袋に顔を向けると、村長は袋の紐を解いてひっくり返し、袋の中身をテーブルの上に出す。
 出てきたのは小さな金の硬貨が一枚、大きな銀の硬貨が二枚。


「これが私達の出せる最大限の額じゃ。これで、足りますかのぅ?」


 ぼんやりとする思考を無理矢理に働かせて報酬額の計算を始める。
 えーと、俺がやったのは‥‥Aランクとするか。
 Aランクの討伐依頼は平均して小金貨一枚‥‥多すぎるくらいだな。


「そう‥‥ですね。だいたい妥当な額でしょうか」


 本当なら多すぎると言うべきだろうが、そこまで言うほどお人好しではない。
 銀貨二枚と言えば、日本円換算で約十万円。
 断るには勿体なさすぎる額だ。


「そうですか、それはよかった。それでは、お納め下さい」


 三枚の硬貨がこちら側まで移動される。
 俺は黙って三枚の硬貨を取ると腰袋にしまう。
 これでここでの用事は終わりだ。
 用がないなら、さっさと帰るとするか。
 地面に置いた刀を持つと、その場に立ち上がり軽く頭を下げる。


「それでは用は済みましたので、これで」


「おぉ、すまなかったのぅ」


 そのまま軽く会釈をしてから、村長の家を出ると仮眠を取るべくサラの家へと足を向ける。
 すでに体は限界で重たい瞼を開けながら、疲れを紛らわせようと戦いのことを思い出す。
 オークとはいえ、あれだけの数がいればそれなりに苦戦することはわかった。
 ただ‥‥貴族の前で、魔法を見せたのはなぁ〜
 この世界における魔導士の存在は希少であり、魔法が
 使えるというだけでかなり目立つことになる。
 それに、フリーの魔導士は王国に勧誘されるって言うし‥‥もう会いたく──


「あっ、レンさん。少し、お時間いただいてもいいですか?」


 なかったのになぁ〜


 頭に浮かんでいた人物が自分の目の前にいた。
 サラの家と村長の家のちょうど中間地点‥‥何もない田舎道でラノンとその護衛三人に鉢合わせる。
 ラノンはやや息を乱しながらも、優しい笑顔を向けてくる。
 俺は素直に心臓の鼓動が高鳴った、
 ラノンは絶世の美女と言っていいほど、整った容姿をしている。
 俺も、少しでも一緒にいたいと思う気持ちはある。
 と言うか、普通に一緒にいたい。
 一目惚れってやつなのかな。
 惚れるまではいかなくても、虜にはなっているだろう。
 俺は自分の感情を客観的に分析していた。
 しかし、俺は面倒ごとが嫌いだ。
 特に、誰かに命じられて戦ったりするのが大っ嫌いだ。
 俺が強くなったのは、王族や貴族のためじゃない。
 ただ、自分の思うままに生きるためだ。
 目の前にいる貴族をどうしようかと頭を働かせるが、逃げる方法は思いつかない。
 走って逃げるのは容易だが、後が面倒だ。
 どうしたものか‥‥
 考え込んでいると、ラノンが不思議そうな顔をして、美しい蒼目でこちらを見つめてくる。


「どうか‥‥しましたか?」


 ラノンは首を傾げて声を漏らした。
 まぁ、話くらいは聞くか。


「あぁ、何でもない‥‥です」


 普段通りの口調を思わず使いそうになるも、どうにかごまかす。
 同じ戦場に立っていたからだろうか、どうにも貴族と言う感じがしない。


「そうですか?  その‥‥怪我は、大丈夫ですか?」


 怪我‥‥?
 あぁ、ラノンが治してくれた怪我のことか。
 魔法を使って治したものは完璧だ。
 わざわざ心配する必要もないと思うが。
 一応の確認としてあばらを触り骨を確認したり、肩を回して関節の具合を確かめる。
 多少の疲労はあるが問題はない。
 いつも通りだ。


「特に問題はないけ‥‥ないです」


 また気が抜けていた。
 こんなに敬語に切り替えられないことなんてないんだけどなぁ。
 どうにも疲れているのか。
 やや不自然な感じに、言い直したところでラノンの表情が変わっていた。


「あっ、無理に敬語を使わなくても、いいですよ」


 敬語を求めない貴族?
 そんなのがいるのか?
 敬語とは使われるだけで無条件に優越感を感じるものである。
 それを使わなくていい、か。
 まぁ敬語を好む、好まないは人によるが‥‥貴族の中では珍しいだろう。
 敬語を使うのはあまり得意ではないし、好きでもない。
 この申し出は素直に受け入れよう。


「そう‥‥か。なら、この話し方でいいか?」


 普段やっていることを意識しながらやると言うことは、案外難しいものである。


「えぇ、私、堅苦しいのはあまり好きじゃないので」


 確かに貴族達は儀式やら食事やらに礼儀だ、真摯さだとかうるさいからなぁ。
 煩わしく感じていても、おかしくはないわな。


「それで?  俺になんか用?」


 大方、勧誘だろうけど‥‥どうやって断るかな〜


「はい。一つ、感謝を言いに来ました」


「感謝‥‥?」


 意外な要件に思わず反射で返事をしてしまう。
 ラノンは下ろした両手を体の前で合わせると頭を下げる。
 俺、なんかしたっけ?
 この村に来てからのことを考えるが全く思い浮かばない。


「この村を救ってくれて、ありがとうごさいます」


 この村を‥‥救った?
 あの依頼のことか?
 いや、でもそれ以外に考えようがないし‥‥


「チッ」


 正面から舌打ちが聞こえてくる。
 ラノンの後ろにいるグレイスが鬼のような形相でこちらを睨んでいた。
 グレイスの全身から怒りが滲み出ており、思わず身構えしまう。


「あぁ、あれはただ依頼を受けてやっただけのことだから、感謝されるようなことじゃないって」


 慌てて声をかけると、ラノンは体を起こす。
 こんなことにいちいち感謝していたら、すべてのハンターに感謝を述べなければならない。


「いいえ、それでもレンさんがこの村を救ったことに変わりはありません」


 村を救う、ねぇ〜
 そんな大層なことしたかったんけじゃないんだけど‥‥まぁ、いっか。


「それで?  それだけ?」


 まさか感謝だけを言いに来たわけでもないだろ。


「はい、それだけです」


 マジかよ。
 わざわざそれだけのためにご苦労なこった。


「そう。じゃあな」


 用がないとわかったのでラノンの隣を通り過ぎ、護衛達の目線を感じながらも一切、気にすることなく足を進める。
 はぁ〜、もったいないなぁ。
 せっかくの美人だったのに、もう少し関係を持てたら‥‥
 一つのアイディアが頭によぎった。


「あっ」


 俺は不意に足を止め顔を上げる。
 少し‥‥いや、結構失礼になるかもしれないけど、一応訊いてみるか。
 振り返ると寄り添った護衛三人の真ん中にいたラノンがこちらを見ている。
 それにつられてか護衛の面々の視線もこちらに向く。


「なぁ、ラノン」


 気づけば俺は自然な言葉遣いに戻っていた。
 貴族にこんな風に話すのは駄目なんだけどな。


「はい?」


 名前を呼ばれたラノンは体をこちらに向け、一歩だけ前に踏み出す。


「ベルーガに向かっている、って言ってたよな?」


 村長の家にいる時、確かにそう言っていた。
 ベルーガは王国に接する国の一つで、軍事力が高い上に経済力もある国だ。
 普通に考えて、国からの使者として行くのだろう。
 魔王との戦争に向けての準備の一環か。
 質問の意図が掴めなかったのか、不思議そうに首を傾げていた。


「えぇ、最終目的地はベルーガですけど、それがどうかしましたか?」


 俺としては単純に旅を楽しみたいだけだ。
 目的地は、王都以外ならどこでもいい。
 それなら、やるべきことは一つ。


「ラノン、その旅さぁ。俺も同行していいか?」


「えっ?」


 さすがのラノンも、この提案は意外だったようで口を開いて驚いていた。
 一人旅は複数での旅に比べかなり危険だ。
 理由は数え切れないほどあるが主だった理由は二つ。
 一つは夜でも絶えず警戒をし続けなければならないこと。
 もう一つはすべての魔物を一人で相手をしなければならないこと。
 正直言って、これまでの一人旅はきつかった。
 ずっと一人だったわけではないがその分、一人になった時の苦労は大きい。
 ラノンは本人も魔導士でありながら、その護衛もかなりの力を持つ。
 一緒に旅をすれば、危険はかなり減るだろう。
 後ろにいるグレイスは明らかにこちらに向かって殺気を飛ばしていた。


「いや、一人より何人かの方が楽しいしな。どこまで行くかはわからないけど、一緒に行っていいか?」


 そう、一人旅って寂しいのが大きいんだよなぁ。
 なんつーか、綺麗な景色とか見ても共感できる人がいないと空しいんだよ。
 普通の貴族なら百パーセント断るとこだが‥‥
 ラノンは少し悩んでから、後ろに向いて護衛達の顔を見る。
 グレイスを除く二人が黙って頷くと、ラノンは再びこちらを見ると、俺の目の前まで歩く。


「えぇ、もちろんいいですよ。レンさん程の人がいれば道中も心強いです。これから、よろしくお願いします」


 ラノンはそう言って手を差し出してくる。
 細くて白い腕に、透き通るような綺麗な肌。
 旅をしてきたはずなのに爪が汚れいる様子は一切なかった。
 さすが貴族。
 旅中でも手入れは怠らないのか。
 と、感心しつつも優しくその手を握って握手をする。


「こちらこそ、よろしく」


 うぉ、手冷えな。
 握った感触に女性特有の柔らかさを感じる。
 日頃から刀を握り固くなった自分の手との差を思い知った。
 握手をしながら数秒間、見つめ合っているとなんだか恥ずかしくなり手を離して二、三歩後ずさる。
 そんな様子をラノンはまじまじと見ていた。


「そ、それで?  いつ出発なの?」


 俺は照れ隠しにそんな質問ぶつける。
 ただ目が合っただけで‥‥なに緊張してんだよ、俺。


「えーと、出発は明日の朝です。詳しいことについては‥‥」


 ラノンの後ろから護衛の一人が前に出て来る。
 青の短髪に優男のような気の抜けたような顔つきだが、どこからか思慮深さが伝わってくる。
 この男が旅のまとめ役だな。
 常に笑顔でいながらも、しっかりとこちらを観察していた。
 装備品は腰にぶら下げている両刃の片手剣に全身にまとった上質そうなレザーアーマー、剣による一撃なら余裕で受け切れるように見える。
 おそらくは盾でも持ち、身を呈してラノンを守る盾となる役割だろう。


「よろしくお願いします、レンさん。僕はアドネス・ティーラスト、ラノンの護衛の一人で旅の日程を決めています」


 アドネスは律儀に深々と礼をする。
 その際、全身にまとったレザーアーマーからガチャガチャと音がなっていた。


「あぁ、よろしく」


 一応、軽く頭を下げる。


「それでは、私達は宿に戻っています」


 俺がラノンがわざわざを断ってからその場から離れていくのを尻目に入れていると、アドネスが軽く咳払いをする。


「それでは、荷物分担から始めましょうか」










 ってな、わけでラノン達と一緒に旅をすることになった。
 ぼんやりと歩いているうちに目的地の宿屋に辿り着く。
 宿屋の前は馬車などが止めれるような広い空間があり、やや重そうな荷物を持った護衛達と森の中で持っていた大杖を持ったラノンがいた。
 やっぱり、荷物は多めか。
 分量的には俺の荷物の五、六倍くらいはあるだろう。
 それをグレイスとアドネスを中心に分担している。


「あっ、レンさん。おはようございます」


 こちらに気がついたラノンが挨拶をしてくる。


「あぁ、おはよ。準備はできてるのか?」


 周りをかるく見渡すが馬車が用意されているようにも見えない。
 貴族は移動の際のほとんどが馬車を使うはずなのだが‥‥


「私達は、徒歩で旅をしているので馬車はありませんよ」


 ラノンは俺の心の内を見透かしたかのように説明をする。
 それを聞いて思わず感心の声を上げてしまう。


「へぇー」


 徒歩の旅となると一週間宿無しなんてざらにあることで、王都で豪勢な生活をしている貴族に耐えられものではないと思うんだが。
 目の前にいるラノンはそれに耐えている。
 俺の中でのラノンの評価がまた一つ上がった。


「私達の準備はできています。レンさんは?」


「もちろんできてる」


 昨日の話し合いで決まった俺の荷物は単純なものだった。
 いつも通りの荷物。
 一人でも生きていけるような荷物を持ってくることで、ラノン達に頼るようなことをなくす。
 俺の持っている袋の中に入っているのは一週間分程の食料と二日分の水、それに狩りなどにも使える万能ナイフが一本に、防水耐火性のある黒のマントが一枚。
 マントは寝る時に体を温めるのに使ったり、雨を防ぐのに使ったりと、旅の必需品だ。
 あとは‥‥手に持っている刀のクインテットくらいか。
 まぁ、旅の荷物としてはかなり少ないほうだろう。


「それでは、しばらくの間よろしくお願いします」


 ラノンの天使ような笑顔が向けられる。
 あ〜、美人だ。
 やっぱり、旅には花がないとなぁ。


「俺の方こそよろしく。それじゃあ、行きますか」


 俺は先陣を切って歩こうとするとグレイスが立ち塞がる。


「てめぇが仕切ってんじゃねえよ」


 こいつもいるんだったか。


「すまん、すまん。お先にどうぞ」


 前を歩くようにジェスチャーをする。
 いつもグレイスが斥候を勤めているのか、当たり前のように一番前を歩く。


「さぁ、行きましょうか」


 アドネスが肩をポンと叩き、横を通り抜ける。
 その後ろをラノンともう一人の護衛がついていく。
 このメンツと旅をするのは正解だったか、不正解だったか‥‥


 まぁ、どっちにしろ賑やかな旅になりそうだ。





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