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五導の賢者

アイクルーク

出会い



 眼が覚めると、身体の周りに柔らかい布の感触を感じる。
 あぁ、そう言えばサラの家に泊めてもらったんだっけ‥‥
 ぼんやりとした頭で昨日の出来事を思い出す。
 サラの家に行くと、疲れていた俺はすぐに今いる部屋に案内してもらった。
 この部屋を前に使っていたのは死んだ夫のようで、幾つか彼の遺品のようなものが残っている。
 そうしてもう一つ、大きな問題を思い出す。
 森にいた大量のオーク、さすがにあれは危ないよなぁ。


 思考が覚醒し始めてきたので、ベッドから降りると、近くに立てかけてあった刀を掴む。
 屋根のある所で寝たは三日か‥‥
 木で縁取られた窓からは太陽の光が容赦なく注いでくる。
 陽の高さから見て、七時くらいだろうか。
 まだ早すぎるような気もしたが、刀を片手に一階に降りる。


 家はほぼ全てが木製で、当然のごとく階段も木でできていた。
 この階段を降りる際にギィギィと音がなるため、下で朝食を作っていたサラがこちらの存在に気づく。


「あ、おはようございます」


 毎度毎度、律儀に礼をするサラに軽い会釈を返す。
 昨日、遅かったのに早起きだな‥‥


「おはよう、近くに井戸とかある?」


 この世界には顔を洗う習慣はないのだが、俺は昔からの癖で朝は顔を洗わないとどうもしっくりこない。
 普通は朝っぱらから何するんだと思うところだが、サラはそのような顔を一切せず、笑顔で教えてくれる。


「井戸は村の中心にありますが、汲み置きの水ならありますよ?」


 サラが指差す方には肩幅ほどもある大桶いっぱいに水が張ってあった。
 朝から汲んできたのか‥‥?


「少し使ってもいい?」


「どうぞ。少しと言わず、いくらでも使ってください」


 昨日から思うんだが、どうにもサラの扱い方がお客様扱いなんだよな。まぁ、しょうがないか。


「じゃあ、ありがたく」


 入り口の横に置いてある大桶の前まで移動すると、近くにあった小桶に水を半分ほどまで入れ、家の外に出る。


 外の空気は清々しく、雲一つない空で太陽が照っていた。
 田舎の朝は早いと言うが、想像以上に人が歩いており、近くに見える畑で農作業をしている人すらいた。


 早速、刀を近くに置くと小桶を両手で顔の高さまで持ち上げる。
 天を見上げてるように顔を上げると、桶に入った水を顔に向けてひっくり返す。
 桶から出てきた水が髪を含む顔全体を濡らし、一気に意識が覚醒する。


「ふぅー、気持ちいいな」


 濡れた前髪をかき上げながら、服の袖で顔を拭く。
 これは、顔を洗っていると言う表現で正しいのか?  まぁ、これが一番楽だからな。
 手に持っていた空の小桶を地面に下ろして、代わりに刀を拾う。
 さーてと、今日の修行を終わらせるか。
 刀を片手にいつもよりは少し軽めのトレーニングを始める。






 修行を終えて家の中に戻ると、テーブルの上には豪華な朝食が用意されており、すでにサラとエディが着席していた。
 まだ二人とも食べていないようで、どうやら俺が戻って来るのを待っていたらしい。


「ごめん、わざわざ待っててくれたの?」


 すぐにテーブルに用意されている席に座る。


「いえ、恩人であるレンさんを待つのは当然です」


 テーブルに並べられているのはバケットに入ったパン、大皿に盛り付けられているラビットの肉、それに採れたてであろう野菜。
 これは一般家庭の朝食では考えられないような豪華な食事だった。
 ちなみに、この世界での家庭料理は大皿に盛り付けられた料理をみんなで食べるスタイルが主流で、日本のように個別に食べたりはしない。


 きっと、感謝の気持ちを伝えようと頑張ったんだろうな‥‥ありがたく、いただこう。


「さぁ、レンさん。どうぞ、食べてください」


 これは‥‥挟んで食べるやつか。
 バケットに入っていたパンはロデブと言う種類で、半分に切ってから焼いて作られている。
 そのため、何かを挟めて食べる際に使われることが多く、この場合は肉と野菜を挟むのが正解だろう。


「ところで、リナの容体はどうなの?」


 パンに野菜を挟む片手間に訊いてみる。
 昨日の段階では足の骨は折れていたが、他に目立った外傷はなさそうだった。
 サラはわざわざ肉をパンに挟めている手を止めて答える。


「特に問題もなさそうで、このまま安静にして様子を見ようと思います」


 足の骨折だけなら一ヶ月もあれば治るだろ。


「そっか。よかったな、エディ」


 今日の食事がよほど嬉しいのか、エディは声をかけられたことにすら気付かずにパンを頬張っていた。


「ちょっと、エディ。話しかけられてるわよ」


 サラの呼びかけでようやく顔をこちらに向けるエディ。
 俺はその様子を見ながら笑顔を浮かべていた。


「ところで、サラ。ちょっと話題が変わるんだけどあの大量のオークって元からいたの?」


 二十近くいたオーク。オークは四、五体で群れる種族のはずだ。
 さすがにあの数は多すぎる。


「いいえ、この森にオークなんていませんでした」


 いなかった‥‥となると種族単位の大移動とか、か。


「その件なんですけど、一度村長にあって話してみようと思います。最近、オークが増えているのは知っていたんですけど、あんなにいるなんて‥‥」


「村長?  この村には傭兵とかいないのか?」


 傭兵は金で雇われて魔物と戦う者達のことで、ベテランの域に達したハンターがなることが多い。
 大概はどの村にも一人はおり、常日頃から村を守っている。


「いることには、いるんですけど、今は買い出しの護衛で不在なんです。後、五日もあれば戻って来るはずなんですけど」


 五日、か。
 遅すぎるな。
 仮にあのオーク達が食料不足で森に流れてきたとしたら、この村は格好の餌食だ。
 深く考え込んでいると、サラが心配そうな目でこちらを見ていた。


「どうか、しましたか?」


「ああ、なんでもないよ。その‥‥村長の所に行く時、俺もついて行っていいか?」


 そう言うとサラは少し不思議そうに首を傾げる。


「えぇ、構いませんけど、何をしに行くんですか?」


 ここで怖がらせるのも、まずいしな。


「ちょっと、仕事をしようと思ってな」








 和やかなまま朝食を終えると、今日はパン屋をやらないそうなので子供二人を家に置いて村長の家へと向かった。


「村長ってどんな人なんだ?」


 畑と畑の間に土でできている道を歩きながら、ふと気になってサラに訊く。


「どんな人、ですか?  そうですね‥‥立派な人ですよ。この孤立した村をしっかりとまとめている、素晴らしい人です」


 サラは少し悩んでから、穏やかな口調で説明する。
 サラの説明する様子を見る限り、村人達から相当の信頼を集めていることがわかった。
 市民から税金を巻き上げるだけの貴族とは大違いだな。
 王都にいた貴族達を思い出したので、この村の村長のと比べて鼻で笑う。
 突然の笑ったことに驚いたのか、サラは困ったように視線をチラチラ向けてくる。


「いい、村長なんだな」


 自分の村の村長が褒められて嬉しいのか、サラは満面の笑みになる。


 適当に雑談しながら歩いていると、村長の家らしき場所に着く。
 想像していたような豪邸とは違い、そこいら辺にある普通の家を少しだけ大きくしただけに見えた。
 自分の富を自慢するような像がなければ庭すらない。
 これが‥‥村一の家、か。


「ここが村長の家です」


 そう言うと、サラは扉の前に立ち何度かノックする。
 奥から物音が聞こえてしばらくすると、七十程のおじいさんが扉を開け、扉の隙間からその顔をのぞかせた。


「誰じゃ?」


 男にしては高く、ゆっくりとしたテンポの声だった。


「あ、サラです。少し、お話ししたいことがあるんですけど」


 サラの名前を聞くと、扉を完全に開けその姿を現わす。
 杖を持った、七十歳ほどのお爺ちゃん。
 すっかり色の抜け落ちた白髪と伸びた髭、優しそうな人相は想像通りだった。


「サラか。その、後ろにいる者は?」


 村長はそう言って視線をこちらに向けてくる。


「あ、彼は──」


「レン、と申します。旅のハンターをやっててこの村に立ち寄りました」


 サラに紹介されるより早く、名前を名乗った。


「まぁ、こんな所で立ち話もなんですから、中に入ってくだされ」


 そう言って、村長は家の中へと入って行く。
 ついて来い、ってことか。
 サラの後ろに並んで、土足のまま村長の家へと入る。
 この世界では家の中で靴を脱ぐと言う文化はなく、靴を脱ぐのはベットの上くらい。


 家の中はサラの家とさほど変わらない質素な造りだった。
 置かれている物も、貴族のように高級な美術品を置いたりはされておらず、生活に必要そうな物だけが置かれている。


 客間に通されると、横長な木製の椅子に座るよう促された。
 村長もどこかからか木のコップに入った水を持ってくると、自分も反対側にある椅子へと座る。


「それで、何の用じゃ?」


 サラがこちらに身を向けてくる。
 自分から話していいのか、と遠慮しているのだろう。
 上下反対にした手をサラに向け、先に言うように伝える。


「それでは、先に私の方から」


 意図をしっかりと理解したようで、サラは村長に話を始める。


「最近、オークが近くの森に増えていると言ってましたよね?」


 前々から思っていたがサラの話し方って、丁寧で不快感を感じさせない話し方だ。
 なんて言うのか、ちゃんと誠意が伝わってくるんだよなぁ。


「そうじゃ。本来この森にはいないはずのオークが見かけられておる」


 オークはゲームとは違い、それなりの戦闘力を持っている。
 この村の人が全員で束になっても、一体倒せるかどうか。
 そんな魔物が村の近くにいるというだけで、村人にとって十分な恐怖だろう。


「その件なんですが、先日、私の子供達がオークに襲われまして‥‥」


 村長はサラが話している最中、身を乗り出してサラの両肩を掴む。


「なんと!!  それで子供達はどうした?  無事か!?」


 村長の優しそうな形相が一気怖いものへと変わる。
 サラはいきなり肩を掴まれて、かなり戸惑っていた。


「はい‥‥二人とも生きてます。少し、怪我はしましたが、すぐに治ると思います」


「そうか、それはよかったの」


 村長は子供の無事を聞くと、安心したようで両手を離して椅子に座りなおす。
 すごい‥‥な。豹変しすぎて、少し鳥肌がたった。


「それで‥‥森の中で見たんですけど、二十近くのオーク森にいたんです」


 村長の顔がまたしても変わり、目を見開き口を半開きにしていた。
 衝撃のあまり声も出せないのか、しばらくの間黙り込む。
 オーク二十体となると、村の一つが滅ぼされてもおかしくないレベルの戦力だ。
 早急に対処しないと、この村が消える。


「それは、いつの話じゃ?」


 ようやく冷静さを取り戻した村長は一字一句聞き逃さないように集中してサラの話を聞く。


「昨日の夜です」


「むぅ‥‥」


 村長は髭をいじりながら考え込むが、少ししてから視線を向けてくる。


「レン殿はどう言った用件だ?」


 客の前で考えるのは失礼と考えたのか、村長は完全に思考を切り替えている。
 村の存亡がかかっているにも関わらずすぐに切り替えれるあたり、素直にすごいと思う。
 普通の人なら、俺の話を聞いている余裕とか生まれないだろうしな。


「まぁ、今話してたことについてなんですけど──」


 コンコン


 入り口の扉を誰かが叩いている。
 おそらく、来訪者だろうな。
 村長は一言断りを入れると、玄関へと向かう。
 それにしてもタイミングの悪いことだ。
 サラがこちらをじっと見ていた。


「どうしたんだ?」


 俺の顔に何か付いてたか?


「いえ、何を話そうとしていたのかな、と思いまして」


 そこか‥‥できればサラが帰ってから話したかったんだけどな〜。


「んー、まぁ色々とな」


 適当に誤魔化すとテーブルに用意されたコップの水を口に含む。
 そうこうしている間に村長が部屋に戻って来るが、その後ろには見知らぬ人物が二人ついてきていた。
 一人は美しく整えられた銀髪をなびかせ歩く女性と、一際大きな槍を持った金髪の男。
 身なりからして‥‥あの銀髪は貴族だ。
 もう一人は、護衛だろうな。


「サラ、もう用事が済んだなら帰った方がいい」


 サラに小さく耳打ちをすると、少し悩んでから村長に頭を下げて部屋から出て行く。


「話の途中ですまなかったの、レン」


 村長は二人に椅子を持ってくると、軽く礼をして座る。


「そこの二人は誰ですか?」


 金髪の男からおもむろに睨みつけられる。
 その鋭い眼光には完全に敵意がこめられていた。
 おー、怖い。
 初対面なのにあんなに敵意を向けるか、普通?


「王都から来た貴族じゃ」




 銀髪の女性はこちらを見て、軽くお辞儀をする。
 その動作にも洗練された美を感じ、品を感じた。


「私はラノン=ゼルファーノと言います。ベルーガに向かう途中、ここに立ち寄りました」


 腰まで伸びた美しい銀髪に空のように青く透き通った瞳。
 旅をしているとは思えないほどの白く美しい肌。
 少し垂れた目と、優しさを感じる口元から全体的におっとりした雰囲気を感じる。
 歳は同じくらいだろうか。
 服装は白と淡い紫色を基調としたもので、ドレスを動きやすく改良したようなものだ。
 まぁ、一言で言うならおしとやか系美人。
 今まで会った人の中でも一位じゃないかと言うレベルの美人で目を合わせているだけで心臓が高鳴っていた。
 俺は中学生かよ、っての。
 そうは思いつつも、ラノンとは視線を合わせられなかった。


「隣にいるのがグレイス、私の護衛の一人です」


 男にしては少し長い金髪が左目を覆っており、鋭い目つきを隠している。
 とは言っても、右目は隠せていないので十分怖い。
 槍を扱っているからか二十代前後にも関わらず、全体的にガタイがよく背も高かった。
 服は黒と赤で統一されており、どこかホストのような雰囲気を醸し出す。
 こいつ、常に周りを警戒してラノンを守っているな。


 村長とラノン、グレイスの目線を感じた。
 次は俺の番か‥‥


「えーと、レンと言います。旅のハンターをやっててこの村にはたまたま立ち寄りました」


 こんなもんでいいだろ。
 って言うか、何で俺を同席させたんだ?


「レン、さっきの話の続きをしてくれないか?」


 村長は真面目は表情で言う。
 ‥‥オーク討伐の話を聞かせるのか?


「えーと、森の中にいるオークの件なんですけど、その討伐を俺に依頼してもらえませんか?」


 オーク二十体の討伐はその危険に見合った額‥‥つまり、かなりの大金が支払われるはずだ。
 当分は金の心配をせずに済む。


「一人で行く気か?」


 このレベルの依頼を一人で達成できる者は、世にそう多くはいないだろう。
 村長はそんな無謀な俺を止めようとしているのか。


「まぁ、誰かいるに越したことはないんですけど‥‥」


 本音は一人で十分なんだけど、そんなこと言っても信じないだろうしな。
 と、そこで村長はラノンの方に顔を向ける。
 ラノンも話をしっかりと聞いていたようでこちらを見ていた。
 やっぱり美人だなぁ。


「そういうわけなんですけど、ラノン様。どうか、この者に力を貸してはくださらないでしょうか?」


 村長は深く頭を下げる。
 ‥‥俺のことを考えて、話を聞かせたのか。
 ラノンが口を開こうとした時、隣にいたグレイスが立ち上がり、こちらを睨みつける。


「それは無理な相談だな。魔物を狩るのはあんたらハンターの仕事だろ?  何で俺らが手伝わなきゃなんねぇんだよ」


 喧嘩腰のグレイスは槍を持つと、その底で床を強く叩く。
 こいつ‥‥
 自然と近くに置いてあった刀に手を伸ばす。


「それともなんだ?  ハンターはオーク一体すら一人で狩れないのか?」


 俺の中で何が切れた。
 こいつのハンターを馬鹿にしたような態度が、王都にいる貴族達と被ったのだろう。
 俺が刀を掴むと、グレイスは手に持っていた槍を振りかぶる。
 やばっ、こいつ‥‥速ぇ!!


「チッ‥‥」


 グレイスの槍は俺に届くすんでのところで刀の鞘に阻まれる。
 俺は手に持った刀を抜く暇もなく、ガードせざるを得なかった‥‥
 王都中を探してもこいつレベルはそうそういない。
 ラノンは、かなり上流の貴族か?


「グレイス、何をやっているのです!!」


 ラノンが叱咤すると、グレイスの槍に込められていた力が抜け、槍先が下される。
 グレイスは相変わらず、鋭い目つきでこちらを睨んでおり、殺気立っていた。
 やっぱ‥‥貴族って、こんなもんだよな。
 結局はどいつもこいつも自分のことしか考えてない、クズ野郎ばっか。
 もう‥‥うんざりだ。
 嫌気のさした俺は椅子から立ち上がると村長の方を向く。


「村長、この依頼は俺一人でやります。すぐに終わらせますので、報酬を用意しておいてください」


 俺はグレイスを通り過ぎざまに睨みつけると、そのまま村長の家を後にする。






 レンのいなくなった部屋でラノンがため息を漏らす。


「グレイス、少し言い過ぎじゃありませんか?」


 グレイスは自分の非を認める気はなく、そっぽ向いていた。


「はっ、あいつはハンターなんだろ?  なら、オークの一体ごときでビビっててどうすんだよ」


「それでも、彼らだって平和のために戦っているのよ。それを‥‥」


 レンに申し訳ないことをしたとラノンが頭を抱える。
 そこで村長がボソッと呟く。


「グレイス殿は勘違いしているようですが、今森の中にいるオークは二十体ほどらしいですぞ」


 二十体、その単語に二人の動きがピタッと止まる。


「オーク‥‥二十体だと?  そんなの‥‥一人で相手取れる数じゃないだろ!!」


 グレイスは動揺を隠せずにいた。
 オーク二十体を一人で倒せる者なんてほとんどいない。
 レンがそれ程の実力者なわけがない。


「行きましょう。このままじゃ、彼が死んでしまいます」


 ラノンはグレイスの目を見て言う。


「チィ‥‥わかったよ」


 グレイスは槍を背負い入り口から出て行く。


「村長さん、お騒がせしました」


 ラノンはそう礼を言うと、二人はレンの後を追って森へと向かう。



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