異世界に飛ばされ、無事元いた世界に戻ったはいいが、別世界すぎて困ってます!

なたに

異世界に飛ばされ、無事元いた世界に戻ったはいいが、別世界すぎて困ってます!

 「勇者カイトよ。お主は何を望むか」
 「はい。わたしが望むのは────」
 俺はそこで言った。自分の本当に望むものを。それに誰もが驚き、涙した人までいた。
 俺は勇者カイト。魔王を討伐に成功した、元現役中学生の異世界召喚されてしまった者だ。


 イズール王国王都 酒場にて──
 「なんでだよ!」
 テーブルをバンっと叩く音と共に、大声を酒場に振動させた。
 テーブルには4人座っている。テーブルを叩く女と、筋肉ゴリゴリマッチョな男と、ボンキュンボンな女と、そしてビビりながら水を飲む俺。
 紹介しよう。俺の冒険者仲間だ。
 「うるさいぞハイカ。静かにしろ」
 「だってこいつがふざけたこと言いやがったから。って、オイロも言ってくれよこの馬鹿に」
 「ハイちゃん。いくらカイちゃんがいなくなるのが寂しいからって、元々決めていたことなのだから、今更」
 俺を狂犬のごとく睨みつけるハイカと、そのハイカを静めるオイロとボンキュンボンのワイナさん。
 俺はその光景を、肩を震わせながら見ている。
 「おいてめぇもなんか言えよ!なんであんなこと言った!?」
 「いやいやいや、そのために冒険者やってるって、お前にも説明したろ!」
 「あ!?年下の分際でタメとはいい度胸だなぁ!あぁ!?」
 テーブルを叩く音はさらに増していく。俺も少しイラッときて、抵抗するかのように、からのコップをテーブルに打ち付ける。
 周りの他のお客のことなんか気にせず、俺とハイカは睨み合う。それがどのような殺気に満ちた光景など知らずに。
 「そもそもお前のことを年上だと思ったことなど1度もない。俺が16でお前が17。1歳しか変わんねぇじゃねぇか」
 「1歳でも年上は年上だ!いいか!私は絶対に許さないからな!」
 「別にお前に許されなくても、俺は行くんだよ。お前の意見なんか聞いちゃいねぇよ」
 そんな二人の喧嘩を、傍から見ているオイロとワイナさんは、2人して大きなため息を零す。
 「ハイカ。一旦落ち着け。カイトの目的は知ってただろう。お前がそんなに吠えるのもわかる。俺も、できればこの関係でずっといたい」
 オイロは語りかけるような優しい口調で言う。
 オイロはいつもこうして、俺たちの喧嘩を仲裁してくれる。1番年上なのに、1番年下の俺に敬語は辞めてくれと、タメ口で話すことも許してくれた。
 俺たちのパーティーの兄貴的な存在でもあり、父親的な存在でもある。
 「でも・・・納得出来ねぇよ!なんでだよ!今まで一緒にいたのに、どうして」
 いつもは俺といがみ合う中であるハイカもこの様子だ。顔を顰めて下を向くハイカを見ると、俺はやっぱり仲間なんだなと再確認出来たような感じで少し嬉しい。
 「ごめん。みんな、俺はやっぱり行かなきゃ。やらなきゃいけない事があるんだ。こればかりは譲れないよ。俺はやっぱり───元の世界に帰る。」
 目頭が熱くなるのを感じる。心が痛い。心臓がいつもよりも早いスピードでポンプしているようだ。


 俺が異世界に召喚されたのは2年前のこと。俺が中学二年生ぐらいの頃だった。
 学校にはしっかりと通っていたが、部活にも委員会にも、親しい友達もいなかった俺は、いわゆるボッチ生活を送っていた。
 学校が終わったら直ぐに家に帰り、ゲームや漫画など、とにかく自堕落な生活をしていた。
 そんなある日のことだった。目を覚ますと、俺は全く見ず知らずの場所にいた。真緑の草原の上に立っていた。
 最初は夢の中だろうと思っていたが、どうやら違ったらしい。
 そこから何時間も歩いて、やっと人がいる街に着いた。
 その時に出会ったのが、こいつらだった。まだ初心者冒険者だというコイツらに、色々吹き込まれて、ノリのような感じで冒険者になってから、色々なことがあった。
 いつもゲームや漫画、妄想上の事だったことが、実際やっているのだから、中学二年という年頃だった俺は、当時は興奮しまくりだった。
 初めて見た魔法で鼻血を出した。初めて1人でゴブリンを倒した時は、汗びっしょりかきすぎで、そのまま倒れ込んだこともあった。
 いやいやと言いながらも頬を少し赤らめながら、一緒にハイカとワイナさんがいる風呂へ侵入しよう時だってあった。
 
 そして月日がたち、街でそこそこ名の知れた冒険者パーティーとなり、とうとう魔王を倒した俺達は、晴れて勇者となったのだ。
 

 思い返せばいろんなことがありすぎた。元いた世界ではななしえないことが、この世界では当たり前に出来る。せっかく勇者という生業になったのだから、もっといろんなことが出来て、きっと世界も広がるだろう。わざわざ行きにくいあんな世界に・・・・・・。この世界でもっとみんなと居たい。遊んでいたい。モンスターを狩に行きたい。かっこいい装備を手に入れてモテモテになってハーレムだって作りたい。また女子風呂へ侵入して怒られたい。また笑い合いたい。
 だが変える必要がある。やらなきゃいけない事がある。だから俺は───
 「俺は元いた世界に帰るよ」 
 俺の本気の目に、頷くオイロとワイナさん。
 「お前の人生なんだ。好きにしろ。」
 「まぁ、寂しくはなるけどね。頑張りな」
 「ああ。ありがとう」
 俺の宣言を、笑いながらも、少し寂しそうな表情で答えた二人。ほんといい人達。正直帰りたくないよ。
 
 「私はまだ納得いかない。なんで2人はそんなに簡単に・・・・・・!」
 ハイカが泣き目で次の言葉を言おうとした瞬間───ワイナが言った。
 「簡単なんかじゃないよ。私もハイカと一緒。別れたくない。ずっと一緒にいたいよ、でも───」
 そう言いながら俺の顔を穏やかな笑顔で見つめた。
 「カイトが決めたことだから。私は何も言わない」
 そんな悲しそうな笑顔を向けられるともっと帰りたくなくなっちゃうだろ。やめてくれよホント。
   
 穏やかな顔で、穏やかな声で、ハイカの頭を撫でるワイナさん。前にもあったなこういうの。
 俺とハイカがくだらないことで喧嘩した時も、今みたいにハイカの頭を優しく撫でていた。そんなワイナさんのことがかっこよくて好きだった。 
 無駄に威勢が良くて意地っ張りでプライド高いハイカだって、いつも1番俺たちのことを理解してくれるオイロだって。俺はみんなが大切で大好きだ。
 
 「分かったわよ」
 ワイナさんに撫でられたがら、鼻をすするハイカが震え声出そう言った。
 「行ってきなさいよ。バカ」
 「ああ。行ってくる」
 涙を拭き取り、決意を固めた笑顔でハイカは俺と握手を交わした。
 これで俺はこの世界に未練はなくなった。


 次の日。俺は王城にて、50人に及ぶ最高職の魔法士によるゲートを前にして、冷や汗をかきながら1歩踏み出す勇気が出ないでいる。
 
「おいおい。さっさと行きなさいよ。覚悟決めたんでしょ。最後の最後までチキンカスなの?」
 「ぉぉぉぉお前!昨日はあんなに俺に帰って欲しくないと喚いてたくせになんだそれは!」
 「べ、別にそんなに喚いてないし!」
 王城の中で、俺とハイカのいつもの言い合いが起きた。
 やべー。正直やべー。ほんとに帰りたくない。てかなんで帰りたいの?馬鹿なの?俺、馬鹿なの?でも帰らないとだし。ああもう!早くしろよ俺!
 そんな自問自答のような会話を脳内で繰り広げる俺。冗談抜きでさっさと終わらせたいこの空気。
 ほら見ろ。王様なんて頬杖付きながらあくびしているよ。
 「じゃあなみんな。俺はお前らと一緒にさ過ごせて────」
 「カイト。それはもう5回も聞いたぞ。早く行け」
 そうだっけ?
 
 「ま、まぁとりあえずだな。俺がいなくなってもお前ら、元気にやれよ。喧嘩なんかすんじゃねぇぞ。特にハイカな。仮にも勇者なんだ。この世界のためにだな────」
 と、次の言葉を言おうとした瞬間、とてつもない衝撃が走る。
 
 それはハイカの拳だった。
 思いっきり腹にくらい、吹っ飛ぶ俺。そしてそのままゲートへ。
 「うぉぉいお前、何してくれとんじゃいあああああああああぁァァァァァァァ         」
 俺はゲートの中へ消え去った。
 
 「おいおい。派手にやったな」
 笑いながら言うオイロ。
 そんなオイロにハイカは悲しそうに、でも笑いながら
 「だって長いんだもん。こっちは覚悟決めたって言うのにさ。アイツ、全然覚悟決めてねーじゃんか」
 後半、震え声となったハイカに、ポンポンと頭を撫でるワイナさん。とうとう堪えきれなくなったハイカは王城にて
 「うわぁぁぁぁぁぁァァァん           」
 思いっきり泣いた。





 ゲートの中は暗かった。だが思っていたよりも早く光がやってきた。
 光は眩しく、まるで10年ぶりぐらいに光を直視したような感じがした。
 
 帰ってきたのだ。何年ぶりかの故郷に。

 

 目を開けた瞬間。俺の目に入ってきた光景。その光景に俺は一言。
 

 「は?」


 そんな間抜けな声を出した。

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