龍の魔道士
第三話 『魔法学校』
ーー迂闊だった。
リュウキは自身の行動を振り返り、嘆く。
当然だ。この世は弱肉強食。弱いものは強いものに淘汰されるべき種なのだから。
思えばあの時もそうだったのだろう。最初からリュウキに貸しを作り、その状況下において有利な対面を作る。勉強にはなったが、笑えない。
「ってんな顔すんなよ。ちょっとした世間話、ひいてはお前の話ってだけだ」
「はい?」
どぎつい要求をされると思ったが、全く違う言葉にリュウキは耳を疑う。そんなリュウキに店主は呆れ顔で、
「あのなぁ、んな俺だって鬼じゃねーんだし、ガキから金を巻き上げようなんて思ってねぇよ。遊び心だ。笑うんなら笑え」
そうは言われても釈然としない。やはり疑いたくなるという気持ち二割、せっかく貴重なシリアス顔をどうしてくれるのだという気持ちが八割で混ざり、リュウキは警戒心を逆立てる。
「んな硬くなんなよ。単なる興味だ。行商人が立ち並ぶこの通りで金無しなんて盗難にでもあったのかと思ってな」
その言葉と質問で多少リュウキの警戒心が薄まる。あんな言葉を言われた以上は警戒しておきたいが、助けてもらった相手を疑うこともしたくない。矛盾が生まれ、リュウキは内心で心を悩ませる。
だからこそ、ここは正直に答えて様子を見ようと、
「いや、俺文無しで知り合いもいなくてここがどこかもわからない一般市民です」
「それ一般市民って言うのか!?」
笑っていた顔が一転、心配を顔に浮かべた店主にリュウキの警戒心はゼロになる。様子見なんてしなくてもいいほどわかりやすい顔にリュウキは鼻白んでしまった。
「ちょっと色々あって、詳しいことはあんま詮索しないでいただきたくございます」
「はぁ、わーったよ。詮索はしねぇ。とりあえず、なんか気の毒だから色々教えといてやるよ。なんか質問はあるのか?」
体制を元に戻し、真っ直ぐにリュウキと向き合う店主。あまりにも優しすぎる態度に店主として大丈夫なのかと思いつつ、素直に甘えてしまうのが現代っ子リュウキだ。
「んじゃご質問をば。さっき言った通り俺ってば金もなければ知り合いをいないで場所もわからない。ってなると寝床の確保もできないし明日を見通すことも出来ないわけで……」
「なるほどなぁ……つっても、宿屋を借りようにも金がなかったら借りれねぇし、知り合いもいねぇから泊まることもできない。生憎うちも泊まらせれるほど設備整ってないしな……」
発言の中に店主の家に泊めてもらえそうな発言があり、リュウキは驚く。何もかもをしてもらっていたのに泊まるとなればリュウキの良心と罪悪感は異常にリュウキを蝕もうとするだろう。
そう思った時点で、店主の家に泊まることは絶対になしとする。
「とりあえず、場所がわかんないみたいだから地図は渡しとくわ」
「いや、何もそこまで……」
「予備があんだよ。心配すんな。いつか、お前が金持ちにでもなった時にうちの商品買いに来てくれたらいいからよ」
おざなりに返し歯を見せながら笑われてはもう何も言えない。ここでそれでもいりませんなんて言うとかえって迷惑だ。
「んじゃ、有難く……」
「おうよ」
奥にあった木箱を開き、何やら色々なものの中から取り出したのは細い巻物だった。
「これ広げればいい。この国の地図だから、大抵どこにでも行けるしわかるんで、次はさっき言ったことだが……」
まだ親身になってくれるというのだろうか。地図というアイテムを手に入れただけでもリュウキはかなり心強く思ったのに、次すらも考えてくれている。
「……あぁ、魔法学校とかいいかもな。あいや、ダメか……?」
「魔法学校!?」
学校という響きにリュウキは疑問を浮かべる。この文明レベルで学校があるということにリュウキは疑問が生まれたのだ。当然、この国の経済事情や発展度などは知らないので、見た目が中世ヨーロッパなだけであって文明レベルはかなり進んでいる線もありうるが。
さらには魔法の学校。高鳴る高揚は抑えられるはずもない。リュウキは是が非でも続きを促す。
「うお、急に元気になったな。ああ、魔法学校の奴らならあんまりそーゆーのも気にしないし、騎士様とかに聞くよりは魔道士様に聞いた方がいいだろ」
そう言われてリュウキは店主の手をガシッと掴む。いきなりの奇行に店主は驚くが、リュウキはそんなこと気にしない。
魔法学校。そんな神秘の単語、しかもそこならリュウキを暖かく受け入れてくれるかもしれないのだ。幼い頃からゲームは大抵魔法使い系ばかりを好んでいたリュウキにとって、このチャンスはまたとない機会。
「店主さんありがとう……いつかこの店で杖とか買うよ」
もう魔法使いになった気分でいるリュウキ。しかし、店主はあまりの唐突さにそれにつっこむことは出来ない。
「お、おお……頑張れ?」
「てなわけで行ってきます! あ、これあげますね。多分この世に普及してないレア物。その名も五百円 ︎」
リュウキは財布から光り輝く五百円玉を取り出し、それを店主の手に勢いよく叩きつけた。
店主も珍しいものに目の色を変える。怪しいものと捕えられてしまうのだろうが、今のリュウキに対してそんな考えは浮かばないのだろう。
「それじゃあ、次会う時は杖を買いますね!」
「お、おう。頑張れよ」
同じ言葉を二度続けられてリュウキは苦笑。地図を片手に勢いよく階段を降りてドアを開き、武器屋を後にした。
「あ……今日は入学できないことを言うの忘れてた……!! 早く伝えに行かねぇと!!」
五百円玉を表裏にくるくると回していた店主の顔が青ざめる。椅子を引き、リュウキを追いかけようとするが、
「おっちゃーん、この商品くれー!」
店に来た客によって中断されることとなったのである。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「魔法学校……魔法学校かぁ……」
大きな地図を両手に広げ、リュウキはブツブツと笑みをこぼしながら呟いていた。
地図はとても正確であり、最初は場所もわからなかったリュウキだが、広いところに出て場所の目星がつき、今は魔法学校に向けて前進中だ。
「やっぱあの店主さんサイコーだわ。金稼げるようになったら一番高いのを釣りはと取っときなってやりてぇ」
小さな野望を胸に秘め、リュウキは進む。金を稼ぐことは出来ずとも、学校であれば学校内に泊まることも出来るのであろう。学校に通いつつバイトの要領でどこかで働けば、なるべく生活は出来るようになる。
「それにしても広いな。もうすぐ着くんだろうけど、かなり歩いたし」
地図の通りに進んでいるのだが、予想をはるかに上回る時間のかかり様だ。広すぎるこの敷地に、この国の国王の内政は大丈夫なのだろうかと余計な心配が浮かぶほどに。
「ん?柵?」
黒塗の柵が視界に入り込み、リュウキは疑問を発す。地図によるとこの近辺が魔法学校ということなので、まさかと思い首をさらに右前の方へと傾ける。
そして目撃したのは、
「で、でっけぇー!?」
視線の先にあるのは白色で出来たレンガ作りの建物。しかし、この広さは武器屋と比にならないほど広い。学校というよりもはやこれは城だ。
「いくら何でもデカすぎるだろ……この国って金持ちしかいないのか……? 平民以下はお立ち寄り禁止かよ……」
変なことをぼやき、リュウキは歩みを進める。
歩を進めることで分かったことは、魔法学校は目測でリュウキの通っていた学校の四倍……いやそれ以上はあるということだ。
庭はしっかりと世話をされているようで、咲き誇る花々がとても美しい。色合いも考えられており、それだけで見ているものを落ち着かせる作用が働きそうだ。
噴水がある広場はグラウンドの三倍ほどある。門は開いており、聞いたところ門の奥にある城風の建物へ真っ直ぐ進めばいいようだ。
   と、門の近くまで歩いて彼の表情が変わった。理由は門の真正面に少女が立っていたからだ。
   少女はリュウキの視線に気づくとゆっくりとこちらを向いた。
リュウキは自身の行動を振り返り、嘆く。
当然だ。この世は弱肉強食。弱いものは強いものに淘汰されるべき種なのだから。
思えばあの時もそうだったのだろう。最初からリュウキに貸しを作り、その状況下において有利な対面を作る。勉強にはなったが、笑えない。
「ってんな顔すんなよ。ちょっとした世間話、ひいてはお前の話ってだけだ」
「はい?」
どぎつい要求をされると思ったが、全く違う言葉にリュウキは耳を疑う。そんなリュウキに店主は呆れ顔で、
「あのなぁ、んな俺だって鬼じゃねーんだし、ガキから金を巻き上げようなんて思ってねぇよ。遊び心だ。笑うんなら笑え」
そうは言われても釈然としない。やはり疑いたくなるという気持ち二割、せっかく貴重なシリアス顔をどうしてくれるのだという気持ちが八割で混ざり、リュウキは警戒心を逆立てる。
「んな硬くなんなよ。単なる興味だ。行商人が立ち並ぶこの通りで金無しなんて盗難にでもあったのかと思ってな」
その言葉と質問で多少リュウキの警戒心が薄まる。あんな言葉を言われた以上は警戒しておきたいが、助けてもらった相手を疑うこともしたくない。矛盾が生まれ、リュウキは内心で心を悩ませる。
だからこそ、ここは正直に答えて様子を見ようと、
「いや、俺文無しで知り合いもいなくてここがどこかもわからない一般市民です」
「それ一般市民って言うのか!?」
笑っていた顔が一転、心配を顔に浮かべた店主にリュウキの警戒心はゼロになる。様子見なんてしなくてもいいほどわかりやすい顔にリュウキは鼻白んでしまった。
「ちょっと色々あって、詳しいことはあんま詮索しないでいただきたくございます」
「はぁ、わーったよ。詮索はしねぇ。とりあえず、なんか気の毒だから色々教えといてやるよ。なんか質問はあるのか?」
体制を元に戻し、真っ直ぐにリュウキと向き合う店主。あまりにも優しすぎる態度に店主として大丈夫なのかと思いつつ、素直に甘えてしまうのが現代っ子リュウキだ。
「んじゃご質問をば。さっき言った通り俺ってば金もなければ知り合いをいないで場所もわからない。ってなると寝床の確保もできないし明日を見通すことも出来ないわけで……」
「なるほどなぁ……つっても、宿屋を借りようにも金がなかったら借りれねぇし、知り合いもいねぇから泊まることもできない。生憎うちも泊まらせれるほど設備整ってないしな……」
発言の中に店主の家に泊めてもらえそうな発言があり、リュウキは驚く。何もかもをしてもらっていたのに泊まるとなればリュウキの良心と罪悪感は異常にリュウキを蝕もうとするだろう。
そう思った時点で、店主の家に泊まることは絶対になしとする。
「とりあえず、場所がわかんないみたいだから地図は渡しとくわ」
「いや、何もそこまで……」
「予備があんだよ。心配すんな。いつか、お前が金持ちにでもなった時にうちの商品買いに来てくれたらいいからよ」
おざなりに返し歯を見せながら笑われてはもう何も言えない。ここでそれでもいりませんなんて言うとかえって迷惑だ。
「んじゃ、有難く……」
「おうよ」
奥にあった木箱を開き、何やら色々なものの中から取り出したのは細い巻物だった。
「これ広げればいい。この国の地図だから、大抵どこにでも行けるしわかるんで、次はさっき言ったことだが……」
まだ親身になってくれるというのだろうか。地図というアイテムを手に入れただけでもリュウキはかなり心強く思ったのに、次すらも考えてくれている。
「……あぁ、魔法学校とかいいかもな。あいや、ダメか……?」
「魔法学校!?」
学校という響きにリュウキは疑問を浮かべる。この文明レベルで学校があるということにリュウキは疑問が生まれたのだ。当然、この国の経済事情や発展度などは知らないので、見た目が中世ヨーロッパなだけであって文明レベルはかなり進んでいる線もありうるが。
さらには魔法の学校。高鳴る高揚は抑えられるはずもない。リュウキは是が非でも続きを促す。
「うお、急に元気になったな。ああ、魔法学校の奴らならあんまりそーゆーのも気にしないし、騎士様とかに聞くよりは魔道士様に聞いた方がいいだろ」
そう言われてリュウキは店主の手をガシッと掴む。いきなりの奇行に店主は驚くが、リュウキはそんなこと気にしない。
魔法学校。そんな神秘の単語、しかもそこならリュウキを暖かく受け入れてくれるかもしれないのだ。幼い頃からゲームは大抵魔法使い系ばかりを好んでいたリュウキにとって、このチャンスはまたとない機会。
「店主さんありがとう……いつかこの店で杖とか買うよ」
もう魔法使いになった気分でいるリュウキ。しかし、店主はあまりの唐突さにそれにつっこむことは出来ない。
「お、おお……頑張れ?」
「てなわけで行ってきます! あ、これあげますね。多分この世に普及してないレア物。その名も五百円 ︎」
リュウキは財布から光り輝く五百円玉を取り出し、それを店主の手に勢いよく叩きつけた。
店主も珍しいものに目の色を変える。怪しいものと捕えられてしまうのだろうが、今のリュウキに対してそんな考えは浮かばないのだろう。
「それじゃあ、次会う時は杖を買いますね!」
「お、おう。頑張れよ」
同じ言葉を二度続けられてリュウキは苦笑。地図を片手に勢いよく階段を降りてドアを開き、武器屋を後にした。
「あ……今日は入学できないことを言うの忘れてた……!! 早く伝えに行かねぇと!!」
五百円玉を表裏にくるくると回していた店主の顔が青ざめる。椅子を引き、リュウキを追いかけようとするが、
「おっちゃーん、この商品くれー!」
店に来た客によって中断されることとなったのである。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「魔法学校……魔法学校かぁ……」
大きな地図を両手に広げ、リュウキはブツブツと笑みをこぼしながら呟いていた。
地図はとても正確であり、最初は場所もわからなかったリュウキだが、広いところに出て場所の目星がつき、今は魔法学校に向けて前進中だ。
「やっぱあの店主さんサイコーだわ。金稼げるようになったら一番高いのを釣りはと取っときなってやりてぇ」
小さな野望を胸に秘め、リュウキは進む。金を稼ぐことは出来ずとも、学校であれば学校内に泊まることも出来るのであろう。学校に通いつつバイトの要領でどこかで働けば、なるべく生活は出来るようになる。
「それにしても広いな。もうすぐ着くんだろうけど、かなり歩いたし」
地図の通りに進んでいるのだが、予想をはるかに上回る時間のかかり様だ。広すぎるこの敷地に、この国の国王の内政は大丈夫なのだろうかと余計な心配が浮かぶほどに。
「ん?柵?」
黒塗の柵が視界に入り込み、リュウキは疑問を発す。地図によるとこの近辺が魔法学校ということなので、まさかと思い首をさらに右前の方へと傾ける。
そして目撃したのは、
「で、でっけぇー!?」
視線の先にあるのは白色で出来たレンガ作りの建物。しかし、この広さは武器屋と比にならないほど広い。学校というよりもはやこれは城だ。
「いくら何でもデカすぎるだろ……この国って金持ちしかいないのか……? 平民以下はお立ち寄り禁止かよ……」
変なことをぼやき、リュウキは歩みを進める。
歩を進めることで分かったことは、魔法学校は目測でリュウキの通っていた学校の四倍……いやそれ以上はあるということだ。
庭はしっかりと世話をされているようで、咲き誇る花々がとても美しい。色合いも考えられており、それだけで見ているものを落ち着かせる作用が働きそうだ。
噴水がある広場はグラウンドの三倍ほどある。門は開いており、聞いたところ門の奥にある城風の建物へ真っ直ぐ進めばいいようだ。
   と、門の近くまで歩いて彼の表情が変わった。理由は門の真正面に少女が立っていたからだ。
   少女はリュウキの視線に気づくとゆっくりとこちらを向いた。
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