Messiah

嘉禄(かろく)

Snow of the loss



俺は一人、与えられた病室のベッドに身体を起こして何をするでもなく壁を見つめていた。
いや、傍から見れば壁を見つめているだろうが俺の目は壁を捉えてはいなかった。

自分の中を探っていた、何かを忘れている気がして。

目を覚ましてから、ここはチャーチという場所だと説明された。
それから会いに来る人全員が俺の事を知っている風だった。
だけど、俺は未だに一切を思い出すことが出来ていない。

大事な誰かがいたことを微かに覚えている。
それは恐らく、前谷尋と呼ばれている人だということも。
俺達は仲が良いメサイア、だということは聞いた。
チャーチの鉄の掟と共に。
でも、それを聞いても記憶は呼び起こされない。
まるで、霧の中をただ一人彷徨っている感覚。
胸に大きな穴が空いたかのような喪失感。

それは時折俺の精神を苦しめた。

思い出したい、思い出せない。
思い出さなければ、この感覚からは逃れられない。
俺は誰だ、ここで何をした?
何があって俺は何を失った?

息が止まる、考えれば考えるほど。
でも、助けを求められる人間は…今の俺にはいなかった-



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