Messiah

嘉禄(かろく)

The raven which flapped the wings



私はあれから極秘に雛森を追っていた。
死ぬ気で見つけた、ただ一つの監視カメラに映りこんだ雛森はいつもと違う風に見えた。


「一体何を隠してるのよ、雛森…まさか…一嶋係長…?」


追っていて常々思っていたことがある。
誰にも気取られず動く、これはまるであの時の加々美くんだと。
バックに誰かいるのではないか、と。
それがあの人だとしたら…


「…嫌な予感がするわね、一刻も早く足取りを掴んで取り戻さないと」


そう呟いたら突然画面が切り替わった。
聞き覚えのある、人工的な声がする。


『百瀬さん、何を探してるの?』
「悠里くん…手伝ってくれるかしら?」


状況を話すと、悠里くんはすぐ行動に移してくれた。
そして雛森の現在地を映したマップを表示した。


「今は使われていない、浄水場…ありがとう、直ぐに向かうわ」
『どういたしまして』


梓音くんに出ることを伝えてそこに向かう。
到着しても、全く人の気配は無かった。


「雛森、どこに…?」


警戒しつつ進んでいくと、水の音が微かに聞こえた。
音を頼りに進むと、扉の下から水が流れてきている部屋を見つけた。
耳をすませても水の音しか聞こえない、誰もいないのかしら?

そう思い静かに扉を開けると、壁に雛森が寄りかかっていた。
酷く濡れているように見える、床には水に赤が滲んでいた。

任務だったことは掴んでいる。
つまり、この状況の意味するところは…任務の失敗。
達成目標が何だったかは知らない、でも失敗は明白だった。
恐らく、あの人は私が探ることすら想定内だろう。

そう思いながら雛森に近づくと、まだ微かに息があった。

まだ間に合う。

私は言い聞かせるように雛森を連れてチャーチに戻った。
でも、ドクター3から放たれた結果は…。


「薬物を大量に投与された形跡がある、腕を見れば分かるだろうが。加えてこの負傷だしな…一命は取り留めた、が昏睡状態にある。いつ目覚めるかは不明だ、目覚めるかどうかもな」
「…そう…」


メサイアになんと伝えればいいのだろう。
戻らない人を待ち続ける辛さは、私自身がよく知っている。


「…ねえ、ドクター3」
「なんだ」
「例の技術、完成したの?」
「…完成はした、まさか使うつもりじゃないだろうな」
「…私は、このまま目覚めないのを待つよりそっちの方がいいと思うの。本人には私から聞くわ」
「…仕方ない、分かった」


そして私は、雛森のメサイアの元を訪れた。
雛森の状態を伝えると、部屋を飛び出して病室に飛び込んだ。
眠る雛森を見て崩れ落ちた彼に、私は問いかけた。


「こんなことを言うのはなんだけれど…もし雛森が目覚めなかった時、肉体を共有する気は無い?」


その言葉を理解した彼は、驚いた目で私を見つめたのだった-



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