Messiah

嘉禄(かろく)

Suspicious white



…どうしよう、逃げてきちゃった。

昨日の夜雅志にあんなことをされて、黒咲さんが助けてくれた時には僕は意識無くて…あとでその事を聞かされた。
鏡を見ると首にくっきり跡が残っていて、怖かったことも思い出した。
そしたら、突然涙が溢れてきて止められなくなった。
雪斗さんが慰めてくれたのがよりそれを加速させた。

どうして僕を殺すの?
僕を嫌いになったの?
いらなくなったの?
…僕を捨てるの?

─僕には貴方しかいないのに

涙が出なくなった頃、雅志が目覚めたと聞いて雪斗さんのあとについていった。
正直すごく怖い。
雅志が変わっていたらどうしよう。
また僕を殺そうとするだろうか?

医務室に行くと、ちょうど拘束を解かれた雅志が起き上がって僕を見た。
雪斗さんと黒咲さんが何か話してるけど、僕はその間ずっと二人の後ろにいた。

雅志と目を合わせるのが怖い。
そこに何の感情もなかったらどうしよう。
あの優しさが嘘だったなんて思いたくない。

ぐるぐる考えていると、雅志が口を開いた。


「...颯空...ごめん...」


…ごめん?どういうこと?
何か事情があったとか言わないの?
どうしてそんなことになったか言ってくれないの?
…それじゃあ、本当に雅志は僕を殺すことを望んだの?

僕はまた泣きそうになって、慌てて医務室を飛び出した。

部屋に行く?
やだ、あそこは怖い。

誰かの部屋にお邪魔する?
ダメだ、迷惑かける。

そう思いながら行き着いたのは、礼拝堂だった。
とぼとぼ階段を降りて椅子に座る。
すると、霊たちが僕を気遣うように寄り添った。


「…大丈夫、ごめんね」


いつも僕の傍にいてくれる彼らには、心配かけたくなかったのにな…そう思っていると、一人が見慣れない霊を連れてきた。


「…それ、誰?」


よくない気配がする。
皆警戒しているけど、何故か追い払おうとはしなかった。
そして事の顛末を教えてくれた。


「…雅志の体を乗っ取った霊体?
確かに気配が…じゃあ僕の首を絞めたのは…君?」


勇気を出して問いかけると、その大柄な男の人はにやりと笑って良くない気配を放った。

これはまずい。

一気に周囲に黒い気が広がる。


「…欲しいのは、生気か…」


少しずつ力が吸われていく感覚がする。
それは決して気持ちいいものではなかった。

…少し考えれば分かったことだ。
雅志の体質を考えれば、起きてもおかしくはないことだった。
なのに僕は正常な判断を見誤った。
雅志がそんなことをしたショックで何も考えられなくなった。
その結果がこれだ。


「…馬鹿だな、僕…疑ってごめんね、雅志…」


思わず座り込んだ僕の目から一雫だけ零れ落ちた涙は、果たして誰の為の涙か─


「…ここで最後、なんて…嫌だなぁ…ねえ、最後の足掻きしていい?」


問いかけると、皆頷いてくれた。

─ありがとう、これで僕は消えてもいいや。

微笑むと、僕は皆の力を借りて全開の力を放った─



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