Messiah

嘉禄(かろく)

Farthest Restaurant



ある日、俺が珍しくオフで朝陽がいなかった時に幸樹がふと問いかけてきた。


「…ねえ、結月」
「なに?」


幸樹の方を向くと、やけに真剣な顔をしていた。
それに合わせて俺は起き上がって真面目に聞くことにする。


「…あの、結月天国見たよね?」
「見たね」
「…どんなところなの?」


どんなところ、か…
俺は少し考えて答えを出した。


「…何も無いのに、懐かしいところかな。
ああ、人はみんなここに還ってくるんだなーって思う場所。
…でも、天国に行く前に不思議な場所を通ったな」
「不思議な場所?なにそれ?」


その質問に、俺は記憶を引っ張り出した。
生きてる今になっては朧気で、思い出すのに少し時間を要した。


「えーっと…レストランなんだよ。
けど、注文は出来なくて…選べるのは、最後の晩餐を共に過ごせる人だけ。
しかも、選べる人は既に死んでいなければならない、ただ一人だけっていう条件つき」
「死んでいる人でなければならない…結月は誰を選んだの?」


…わかってないで言ってんのか、俺が選びたいのなんて一人だろ。
内心溜息をついて答えた。


「俺が選ぶのなんて一人だろ?
そいつまだ死んでないから、誰も選ばなかったよ」
「…死んでない人?誰?」
「お前だよ馬鹿」
「…僕?」


幸樹は驚いたようで目を白黒させた。
ほんっとにこいつは…。


「もしまた俺が先に死んで、あの場所を通っても誰も選ばない。
幸樹が死んだ時は、俺を選べよ?
大丈夫、朝陽長生きすんだろーし」
「…そうかな…でも朝陽置いてきたくないな…」
「なら長生きしろよ」
「…うん、頑張る」


幸樹の質問の意図はわからない。
あの場所がなんだったかも俺には分からない。
それでも、あの場所で選びたいのは幸樹一択だなと改めて思った─



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