NIGHTMARE in Church

嘉禄(かろく)

Baby bird of the darkness 1


『どう、そろそろ決心はついたぁ?』
「…またお前か、しつこいぞ」


一週間ほど前から、俺にこうして語りかけてくる声がある。
初めは無視していた、幻聴かとも思っていた。
けどそうでもないらしい、姿は見えずとも確かに近くに何らかの気配があった。
反応を返してやったのは気まぐれだ。
けどいい加減しつこい。
存在が謎だ、けど今のところ害がある訳でもないので邪険にする意味もない。
やめさせようとしたところで相手の実体が無いので不可能に等しい。
なので今は諦めの境地に至っている訳だ。
…ただ、本音が掴めない言葉の中に一つだけ不可解な提案をしてくる。
毎回のことだ。


『ねえ、なんでこんなに熱烈にラブコールしてるのに靡かないの?
雛森雪、君は悪夢を見たはずだ。
…君だけの皇帝に捨てられた時に』


その言葉を聞いて、俺は初めて顔色を変えた。


「…お前、何者だ?」
『ずーっと言ってんじゃん、ナイトメアだよ?
君を勧誘しにきた、ね。
やーっとマトモな反応してくれた、待ち侘びたよー。
やっぱり九条律のことまだ大事なんだ?』
「…今のメサイアは尋だ、あいつの隣にいることに変わりはない…これからも。
けど律のことも忘れない、それだけだ。
お前が律を呼ぶな、癪に障る」


俺が正面を向いたまま牽制をするように目を細めると、くすくすと笑う気配が伝わった。


『任務の途中で突然撃たれてー、捨てられて何が何だか分からないまま五年間眠ってー、その間君は何を見た?
…虚無を漂い、気づけばあの日に戻っている。律に殺されて、彼が遠ざかる。伸ばす手は届くはずもなく力を失って落ちる。
そしてまた虚無を漂う、その繰り返しを何百何千と繰り返したはずだ。
よく狂わなかったねぇ、賞賛に値するよ。』
「…黙れ」


俺でも驚くほどの声が出た、我ながら威圧と殺気に溢れた声だった。
けど相手は特に臆した様子もなかった。


『わー怖い。
…その悪夢を見てさえ狂わなかった君は、僕らの元に来る素質がある。
雛森雪、僕の手を取りなよ。
君のいる場所はチャーチじゃない』


空中から手が伸びてくる、俺はそれに驚かず一瞥して振り払った。


「…真っ平ごめんだ」
『…仕方ないなー、強制手段取らせてもらうよ。君みたいなイケメンにはこの手は使いたくなかったんだけど…』


その手が俺に伸ばされ、俺の視界を暗闇が包む。
俺の体が暗闇に融けるような感覚に襲われながらも、抗うことが出来ず俺は意識を手放した─

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