NIGHTMARE in Church

嘉禄(かろく)

Put an end to NIGHTMARE

…涼の声が聞こえる。
懐かしい温もりが俺を包む。

…おかしいな、涼がいるはずはないのに。
死ぬ前に神が用意してくれた、プレゼントだったりして…なんて、俺らしくもないか。
まあ、幻だろうがなんだろうが存在を感じられただけ良しとしよう。


そして俺は暗闇に意識を沈めた…はずだったのに、ふと意識が浮上する。
まず薬の匂いがした、次いで嗅ぎなれた懐かしい匂いがする。
嗅覚の次に聴覚が解放されたように音が飛び込んできた。
聞き慣れた落ち着く低い声が聞こえる。誰かと話しているのか…?

身体は気怠いけど、力は入ったので少し動かしてみた。
うん、問題なく動く。

すると、俺の動きに気づいたのか誰かが俺を呼んだ。


「…いつき?」


それに呼び覚まされるように、意識が徐々に覚醒していく。
目を開くと、見慣れたメサイアの顔があった。
涼にしては珍しく、心配そうに見下ろしている。
その横では百瀬さんがほっとした表情をしていた。


「…涼…」
「目が覚めて良かった、気分はどうだ?」
「…怠い」
「私は目覚めたことを雪斗くんと一嶋さんに伝えてくるわね」
「お願いします」


涼が答えると百瀬さんは頷いて出ていった。
それをぼんやり眺めたあと涼に目を戻す。


「…俺、捕まってたはずじゃ…?」
「そうだ。それをなんとなく感じ取った俺がチャーチに連絡をして情報を手に入れて助けに行った。
…肝が冷えたどこの話じゃない、傷は深い上に複数の毒物を使われておまけに精神まで侵されてたんだからな。まだ全快には程遠い、雪斗から安静にしてろとのお達しだ」


…そっか、涼が来てくれた…俺を助けに来てくれた…それを知って、俺はふと微笑んだ。


「…期待はしてなかった、来てくれるとは思ってなかった。
でも、ありがとう涼」
「メサイアだろ、助けるのは当たり前だ。礼なんて言うな。
で、何を悩んでたんだ?百瀬代理から聞いたぞ」
「…ああ、ちょっと疲れてさ」


俺は涼に全てを伝えた。
涼は黙って聞いてくれた。
話し終えると、涼は俺の髪を撫でながらこう言った。


「…確かに考えていることは同じだ。けどな、そう絶望視することもないんじゃないか?
…メサイアは枷だ、けど同時に俺にとっては生きる意味だ」
「…生きる、意味…?」


俺の問いかけに涼は頷いて続ける。


「お前はメサイアの重みに潰されかけているみたいだ。
なら考えを転換してみろ、俺はお前がいるから狂わずにいられる。
お前がいるから生きて再び会いたいと願う。
だから加々美いつきという人間は俺の生きる意味だ」


…俺は、マイナス面に考えすぎていたかもしれない。
涼と会えない日々、終わりの見えない任務、周囲を包む鉄の匂いというついてまわる悪夢…それは確かに耐え難い。
けど、世界のどこかに涼がいるから戦える。
涼がいるから会いたいと思う。
有賀涼は、俺の生きる意味だ。

なら、俺は自分で作り出した悪夢に終止符を打とう。
どんなに血を浴びても、どんなに暑さや寒さに身体を傷めても…生きて涼と会う、違う空の下にいても魂は共にある。
それだけで、共に戦っていると思えた。


「…涼にしては珍しくくさい台詞だな」
「なんだ、人が折角言ってやったのに」
「冗談だって。…本当にありがとう、涼」


名前を呼んで笑いかけると、涼も俺に分かるレベルで笑い返してくれた。
…相変わらず笑うのが下手だ、でも変わらなくて安心した。


悪夢はもう見ないだろう、お前が…俺のメサイア、有賀涼がいる限り。

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