怪獣のラプソディ
5 シンジツ
「元気でね。また来るから、そのときは遊びに来てね。絶対だよ」
この言葉は今日で何回目でしょう。ラプソディはまたこくこくとうなずきます。
また撃たれてしまわないように、町の外までリンダが案内してくれているのです。
白いワンピースに肩くらいまである赤毛の彼女は、ステージのときの道化師の姿とは似ても似つかぬものでした。
きっと本当の彼女はとてもさみしがり屋で、でも普段は明るいフリをしているのでしょう。それこそ、作り物の笑みを浮かべている道化師のように。
見えなくなるまで手を振っていたリンダと別れたあと、ラプソディは久しぶりに森の近くの風景を見つめました。
空は今日も変わらない色で、そこには大きな翼を広げたトンビが悠々と飛んでいます。羽のついた帽子を被った吟遊詩人は、あのトンビを見上げながら笛を吹いていたに違いありません。今、彼はどこを旅しているのでしょう。
町はずれのおうちでは、今日も音楽が流れ続けています。アンナが窓辺で、長い髪を風にそよがせながら音楽を聴いているのでしょうか。会いに行きたいけれど、それではアンナにまた迷惑がかかってしまうので、気持ちをぐっと抑えてそっとおうちを通り過ぎました。
外はラプソディには広すぎました。人間の数の多さにびっくりもしたし、あちらもとても怖かったことでしょう。それに、銃で撃たれて怖い思いもしました。
もしかして、リンダの言うとおり捨てられたのでは……と嫌な考えが一瞬頭をよぎりましたが、すぐに首を振って打ち消して前へ進みます。
結局、何の手がかりもないままここに戻ってきてしまいました。生まれ育ったこの森に。
森は今日もあいかわらずです。が、ここはまだラプソディが住んでいた辺りではないので、あまり風景は見覚えがあるものではありませんでした。そのせいかまだ帰ってきたという実感がありません。
と、ここでたまたま横切ってきたシカと目が合いました。
「うわぁっ、ここにもいた!!」
シカはそう叫ぶと、ラプソディが呼び止める間もなくぴゅんっと方向を変えて走り去ってしまいました。
……ここにもってなんだろう?
シカが去って続いて聞こえたのはドスドスという大きな足音。最初は小さかったものが、段々と大きくはっきりとした音に変わっていきました。そして、茂みの中から勢いよく飛び出してきたモノ。
「くっそ! 見逃しちまったよ! せっかく今日の昼飯にしようと思っていたのに────」
ぶつぶつと呟く彼と、ぽかんと立ち尽くすラプソディの目が合いました。
その途端、お互いがお互いを指差したままの態勢で固まってしまいます。
「え……えっ?」
「あ、あれ……?」
ダミ声で二体が言います。
僕がもう一体いる…………
そこには、ラプソディによく似た姿の怪獣が立っていたのです。しかも声までそっくりです。
ですが、よく見れば彼にはラプソディには違った点がいくつかあります。まず、右目が潰れてしまっていること。それから、ラプソディよりもひとまわりかふたまわりほど大きいこと。
「オメエまさか……いや、嘘だろ……?」
ラプソディそっくりの怪獣はヘビのような金色の目を見開いて、しぼり出すような声をあげます。そして、きょとんとしているラプソディに向かってこんな言葉を口にしたのです。
「オメエ……オレの弟か?」
え? 思わず聞き返します。
「なんてこった、家族はみんな死んだものだと思ってたのに!」
ラプソディにはあの男だけが家族だと思っていましたから、彼の発言がまったく理解できませんでした。しかも、兄がいたなんて、記憶の片隅にも残っていません。そもそも、ラプソディ以外に同じ姿の怪獣がいたことさえ知らなかったのです。
それがいきなり、家族だなんて。兄だなんて。
「間違いねえ! やっぱりオレの弟だ。オメエはオレを知らねえだろうから、今からゆっくり話そうじゃねえか」
興奮した調子で怪獣は続けました。
ラプソディの兄だと名乗った怪獣の話によると、ラプソディとその兄は年の離れた兄弟のようでラプソディがタマゴだったときにはもう自分で動物を狩りに行ける年齢だったそうなのです。
その日、兄は今にも生まれそうなタマゴを温めている両親のために狩りに出かけようとしていました。
ですが、動物たちのウワサではまた狩人がこの周辺をうろついているという話です。
狩人は動物に限らずこの凶暴な怪獣でさえも、銃で撃ってはキバやその固い皮を商人に売ってしまうという恐ろしい存在でした。
しかもその狩人たちがキバや皮が高く売れるのをいいことに、ただでさえ少なかった仲間もどんどん捕まえていき、彼らはその最後の生き残りだったのです。
兄にとっても狩人とは出くわしたくなかったので、いつもの場所からちょっと離れた所で狩りをしていました。頭の中に、いつもタマゴや両親の顔を浮かべて。
そして、両親やまだ見ぬ弟のためにシカや小さくて食べやすそうなスズメを捕って巣穴に帰ってくると……
兄はその目を疑いました。
巣穴の前で両親が死んでいるのです。腹を見ると銃弾の痕があり、あちこちで争ったような跡もあります。
兄が出かけている間に両親は狩人にやられてしまったのです。
……そうだ、タマゴは!? タマゴは無事か?
すぐに我に返った兄は急いで巣穴の中を覗きました。そして、言葉では表せないほどの絶望感と怒りに襲われました。
そこでたしかに生きていたはずの弟は、白い殻だけを残して消えてしまっていたのです。
おそらく────生まれたばかりの弟は狩人に持っていかれて、売られてしまったのでしょう。またはそれだけが目的だったのかもしれません。珍獣の赤ん坊は、キバと皮なんかよりもずっとずっと高価でしょうから。
それからというもの、たった一体残された兄は、生きている弟の存在も知らずに孤独に生きてきました。思い出すだけで心が壊れてしまいそうになるから、巣穴からなるべく遠ざかった森のはずれで。
それで十何年ぶりに、生き残りに、しかも死んだと思った弟に会えたときの驚きとそのあとの喜びはどれほどのものだったのでしょう。
「ほんとにオメエなんだよな!? オレは、オレは……」
兄は左の瞳を潤ませて、声を震わせていました。
一方、ラプソディはその横で複雑な気分でした。
彼にとっては、自分の家族はあの人間の男一人だけ。そして、まるで兄は……人間を心から嫌っているような言い方だったからです。仕方のないことなのかもしれませんが、これまで親切にしてくれた人間のことを考えると、どうしても少しだけ悲しいような気持ちになってしまうのです。
「なあ、一体お前は今までどこにいたんだ!? 人間のところか? かわいそうに……辛かっただろう?」
「ううん」
ラプソディはまっすぐに兄を見据えました。
「僕は……幸せだったよ。お父さんが、優しい人間たちが僕を愛してくれたから」
「なんだって?」
兄もラプソディを見ます。
「オメエは何を言ってるんだ? そのお父さんってまさか人間じゃないよな?」
「人間だよ」
「ウソだ! そんなのウソに決まってる!!」
兄が声高く吠え、遠巻きに様子をうかがっていた子ギツネをはじめとする動物たちが一斉に逃げていきました。
「オメエは人間共にだまされてるんだ! 何か思い当たる節とかないのか?」
『あんたは捨てられたんだよ』
ふいにリンダの言葉がよみがえります。
「そういえば……お父さんについてずっと気になることがあったんだ……」
「気になること?」
ラプソディはうなずきます。
男の事を何も知らない。そして、突然いなくなってしまったそのわけも。
ラプソディは兄に自分が父と慕っていた男についてすべてを語りました。男の特徴、言葉、思い出……なにもかも。
「ククッ……クックック」
話している最中、突然兄がキバを光らせながら笑い始めました。
「ど……どうしたの? 何か知ってるの?」
ラプソディが心配そうな面持ちでたずねると、
「やっぱりオレの思った通りだ! お前はやっぱりだまされてたんだ!!」
こう叫んだのです。
「え……なんで? なんで?」
「オメエのお父さんってのは赤い髭が特徴だって言ってたよな」
そう。あの男は赤い髭で、あとを追いかけたくなるような、そんな背中を持っていて……
「弟よ、よく聞け。オメエがずっとお父さんだと思ってた人間は────オレたちの仲間を捕まえて、そして両親を殺した忌まわしき狩人だっ!!」
ラプソディは、何も言えませんでした。
ウソだ。何かの間違いだ。だって、だってお父さんはそんなことする人間じゃない!
実際何もされなかったし、むしろたくさんの愛情を注いでくれた。動物には嫌われてたけど、森について動物たちよりも詳しくて……あれ? でも、狩人は銃を持っているけどお父さんはそんな物……あれ?
よみがえるのは生まれたばかりの記憶。白いカラを破って出てきたラプソディにたしかにあの男は────銃を向けていた。
ラプソディの顔を冷たい何かが濡らしていきます。
「安心しろ。あの狩人はもうずっと昔に死んだ」
「……ウソ」
「ウソじゃない。アイツはずっと昔この森でぽっくり死んだんだぜ。今までしてきたことのバチが当たったんだ!」
そう、男が来ないと思っていたのは、そのとき彼が死んでしまっていたから。
本当に、本当に、ラプソディは彼を何も知らなかったのです。あんなにも側にいたというのに。
「大丈夫だ。オメエにはオレが────」
思わずラプソディは兄を押しのけて走りだしました。
生まれて初めて、森全体に轟くような猛獣の声をあげて、大きな口を開けて。そして目には大粒の涙を浮かべて。
「……オレも今、オメエをだましてしまった。許してくれ……」
潰れた右の目に手を当てながら弟を悲しげな目で見送る兄にも、茂みの中でずっと様子を見ていた影にもラプソディが気づくことはありませんでした。
この言葉は今日で何回目でしょう。ラプソディはまたこくこくとうなずきます。
また撃たれてしまわないように、町の外までリンダが案内してくれているのです。
白いワンピースに肩くらいまである赤毛の彼女は、ステージのときの道化師の姿とは似ても似つかぬものでした。
きっと本当の彼女はとてもさみしがり屋で、でも普段は明るいフリをしているのでしょう。それこそ、作り物の笑みを浮かべている道化師のように。
見えなくなるまで手を振っていたリンダと別れたあと、ラプソディは久しぶりに森の近くの風景を見つめました。
空は今日も変わらない色で、そこには大きな翼を広げたトンビが悠々と飛んでいます。羽のついた帽子を被った吟遊詩人は、あのトンビを見上げながら笛を吹いていたに違いありません。今、彼はどこを旅しているのでしょう。
町はずれのおうちでは、今日も音楽が流れ続けています。アンナが窓辺で、長い髪を風にそよがせながら音楽を聴いているのでしょうか。会いに行きたいけれど、それではアンナにまた迷惑がかかってしまうので、気持ちをぐっと抑えてそっとおうちを通り過ぎました。
外はラプソディには広すぎました。人間の数の多さにびっくりもしたし、あちらもとても怖かったことでしょう。それに、銃で撃たれて怖い思いもしました。
もしかして、リンダの言うとおり捨てられたのでは……と嫌な考えが一瞬頭をよぎりましたが、すぐに首を振って打ち消して前へ進みます。
結局、何の手がかりもないままここに戻ってきてしまいました。生まれ育ったこの森に。
森は今日もあいかわらずです。が、ここはまだラプソディが住んでいた辺りではないので、あまり風景は見覚えがあるものではありませんでした。そのせいかまだ帰ってきたという実感がありません。
と、ここでたまたま横切ってきたシカと目が合いました。
「うわぁっ、ここにもいた!!」
シカはそう叫ぶと、ラプソディが呼び止める間もなくぴゅんっと方向を変えて走り去ってしまいました。
……ここにもってなんだろう?
シカが去って続いて聞こえたのはドスドスという大きな足音。最初は小さかったものが、段々と大きくはっきりとした音に変わっていきました。そして、茂みの中から勢いよく飛び出してきたモノ。
「くっそ! 見逃しちまったよ! せっかく今日の昼飯にしようと思っていたのに────」
ぶつぶつと呟く彼と、ぽかんと立ち尽くすラプソディの目が合いました。
その途端、お互いがお互いを指差したままの態勢で固まってしまいます。
「え……えっ?」
「あ、あれ……?」
ダミ声で二体が言います。
僕がもう一体いる…………
そこには、ラプソディによく似た姿の怪獣が立っていたのです。しかも声までそっくりです。
ですが、よく見れば彼にはラプソディには違った点がいくつかあります。まず、右目が潰れてしまっていること。それから、ラプソディよりもひとまわりかふたまわりほど大きいこと。
「オメエまさか……いや、嘘だろ……?」
ラプソディそっくりの怪獣はヘビのような金色の目を見開いて、しぼり出すような声をあげます。そして、きょとんとしているラプソディに向かってこんな言葉を口にしたのです。
「オメエ……オレの弟か?」
え? 思わず聞き返します。
「なんてこった、家族はみんな死んだものだと思ってたのに!」
ラプソディにはあの男だけが家族だと思っていましたから、彼の発言がまったく理解できませんでした。しかも、兄がいたなんて、記憶の片隅にも残っていません。そもそも、ラプソディ以外に同じ姿の怪獣がいたことさえ知らなかったのです。
それがいきなり、家族だなんて。兄だなんて。
「間違いねえ! やっぱりオレの弟だ。オメエはオレを知らねえだろうから、今からゆっくり話そうじゃねえか」
興奮した調子で怪獣は続けました。
ラプソディの兄だと名乗った怪獣の話によると、ラプソディとその兄は年の離れた兄弟のようでラプソディがタマゴだったときにはもう自分で動物を狩りに行ける年齢だったそうなのです。
その日、兄は今にも生まれそうなタマゴを温めている両親のために狩りに出かけようとしていました。
ですが、動物たちのウワサではまた狩人がこの周辺をうろついているという話です。
狩人は動物に限らずこの凶暴な怪獣でさえも、銃で撃ってはキバやその固い皮を商人に売ってしまうという恐ろしい存在でした。
しかもその狩人たちがキバや皮が高く売れるのをいいことに、ただでさえ少なかった仲間もどんどん捕まえていき、彼らはその最後の生き残りだったのです。
兄にとっても狩人とは出くわしたくなかったので、いつもの場所からちょっと離れた所で狩りをしていました。頭の中に、いつもタマゴや両親の顔を浮かべて。
そして、両親やまだ見ぬ弟のためにシカや小さくて食べやすそうなスズメを捕って巣穴に帰ってくると……
兄はその目を疑いました。
巣穴の前で両親が死んでいるのです。腹を見ると銃弾の痕があり、あちこちで争ったような跡もあります。
兄が出かけている間に両親は狩人にやられてしまったのです。
……そうだ、タマゴは!? タマゴは無事か?
すぐに我に返った兄は急いで巣穴の中を覗きました。そして、言葉では表せないほどの絶望感と怒りに襲われました。
そこでたしかに生きていたはずの弟は、白い殻だけを残して消えてしまっていたのです。
おそらく────生まれたばかりの弟は狩人に持っていかれて、売られてしまったのでしょう。またはそれだけが目的だったのかもしれません。珍獣の赤ん坊は、キバと皮なんかよりもずっとずっと高価でしょうから。
それからというもの、たった一体残された兄は、生きている弟の存在も知らずに孤独に生きてきました。思い出すだけで心が壊れてしまいそうになるから、巣穴からなるべく遠ざかった森のはずれで。
それで十何年ぶりに、生き残りに、しかも死んだと思った弟に会えたときの驚きとそのあとの喜びはどれほどのものだったのでしょう。
「ほんとにオメエなんだよな!? オレは、オレは……」
兄は左の瞳を潤ませて、声を震わせていました。
一方、ラプソディはその横で複雑な気分でした。
彼にとっては、自分の家族はあの人間の男一人だけ。そして、まるで兄は……人間を心から嫌っているような言い方だったからです。仕方のないことなのかもしれませんが、これまで親切にしてくれた人間のことを考えると、どうしても少しだけ悲しいような気持ちになってしまうのです。
「なあ、一体お前は今までどこにいたんだ!? 人間のところか? かわいそうに……辛かっただろう?」
「ううん」
ラプソディはまっすぐに兄を見据えました。
「僕は……幸せだったよ。お父さんが、優しい人間たちが僕を愛してくれたから」
「なんだって?」
兄もラプソディを見ます。
「オメエは何を言ってるんだ? そのお父さんってまさか人間じゃないよな?」
「人間だよ」
「ウソだ! そんなのウソに決まってる!!」
兄が声高く吠え、遠巻きに様子をうかがっていた子ギツネをはじめとする動物たちが一斉に逃げていきました。
「オメエは人間共にだまされてるんだ! 何か思い当たる節とかないのか?」
『あんたは捨てられたんだよ』
ふいにリンダの言葉がよみがえります。
「そういえば……お父さんについてずっと気になることがあったんだ……」
「気になること?」
ラプソディはうなずきます。
男の事を何も知らない。そして、突然いなくなってしまったそのわけも。
ラプソディは兄に自分が父と慕っていた男についてすべてを語りました。男の特徴、言葉、思い出……なにもかも。
「ククッ……クックック」
話している最中、突然兄がキバを光らせながら笑い始めました。
「ど……どうしたの? 何か知ってるの?」
ラプソディが心配そうな面持ちでたずねると、
「やっぱりオレの思った通りだ! お前はやっぱりだまされてたんだ!!」
こう叫んだのです。
「え……なんで? なんで?」
「オメエのお父さんってのは赤い髭が特徴だって言ってたよな」
そう。あの男は赤い髭で、あとを追いかけたくなるような、そんな背中を持っていて……
「弟よ、よく聞け。オメエがずっとお父さんだと思ってた人間は────オレたちの仲間を捕まえて、そして両親を殺した忌まわしき狩人だっ!!」
ラプソディは、何も言えませんでした。
ウソだ。何かの間違いだ。だって、だってお父さんはそんなことする人間じゃない!
実際何もされなかったし、むしろたくさんの愛情を注いでくれた。動物には嫌われてたけど、森について動物たちよりも詳しくて……あれ? でも、狩人は銃を持っているけどお父さんはそんな物……あれ?
よみがえるのは生まれたばかりの記憶。白いカラを破って出てきたラプソディにたしかにあの男は────銃を向けていた。
ラプソディの顔を冷たい何かが濡らしていきます。
「安心しろ。あの狩人はもうずっと昔に死んだ」
「……ウソ」
「ウソじゃない。アイツはずっと昔この森でぽっくり死んだんだぜ。今までしてきたことのバチが当たったんだ!」
そう、男が来ないと思っていたのは、そのとき彼が死んでしまっていたから。
本当に、本当に、ラプソディは彼を何も知らなかったのです。あんなにも側にいたというのに。
「大丈夫だ。オメエにはオレが────」
思わずラプソディは兄を押しのけて走りだしました。
生まれて初めて、森全体に轟くような猛獣の声をあげて、大きな口を開けて。そして目には大粒の涙を浮かべて。
「……オレも今、オメエをだましてしまった。許してくれ……」
潰れた右の目に手を当てながら弟を悲しげな目で見送る兄にも、茂みの中でずっと様子を見ていた影にもラプソディが気づくことはありませんでした。
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