ALONE 一人ぼっちの夜に

空ゾンビ

1.孤独な少年

 海沿いにある小さなこの町には、まるで絵本から飛び出してきたかのような洋館がある。町に住む人なら誰もが羨む大きな洋館が。
 見た目だけじゃない。中には世界中から集まった宝物でいっぱいだ。長い廊下でおいかけっこもできるし、かくれんぼをすれば一日かけたって終わらないだろう────そんな相手、いやしないけど。


 着ていたジャケットの価値も知らないで、少年はそれをソファに脱ぎ捨てる。
 その少年……アーロンは洋館にたった一人で住んでいた。
 パチパチと弾ける暖炉の火をうつろな目で見つめながら、彼は今日のお客様とのやり取りを振り返ってみる。









(こんにちは、アーロンちゃん。寒いけど元気かい)
(はい、おかげさまで。お気遣いありがとうございます)
(今日のごはんはシチューにしようね。いい子だから、できるまで待ってておくれ)
(はい、わかりました)
(お父さんもお母さんもいないのに、坊やは偉いわね)
(いえ、慣れてるので)




 やけに大人びた口調だが、彼は十歳にも満たない。一人で生きていくにはまだあまりにも幼く、こうして近所の人達がわざわざ世話を焼きに来るのだ。
 けれど、彼は知っている。彼女らは決して親切心で世話をしているわけではなく、両親がいないのをいいことに財産目当てでぼくに近づいてるんだ、と。


 この人達は優しい人のふりをした偽善者。世の中ただより怖い物なんかありはしない、というのがお父さんの口癖だったから、代償のない善意と形のない物────例えば口約束や心といったものは信じないことにしたのだ。実際、両親がいなくなって給料の貰えなくなった使用人達はぼくを放って宝を持ち逃げしていった。


 それからだ、近所の人が彼の元に来るようになったのは。
 そのうちの一人、隣人のレイチェルおばさんはいつもごはんを作ってくれるのだが、時々有名な職人が作った食器棚の方を見ているときがある。その中には、彼の父親が世界のどこかで手に入れてきた銀食器がたくさん入っていたから、それを見ているに違いないとすぐ察しがついた。


(お父さんは……どこであんな物を手に入れてきたんだろうね?)


 お父さんは立派な商人だったそうだ。あらゆる人脈やルートを駆使して世界各国から珍しい宝を取り寄せ、それはそれは繁盛したらしい。お母さんも良家のお嬢様だった。
 その両親は何年も前に、乗っていた船が嵐で沈没して死んだみたいだけど。


 全部、アーロンが近所の人達から聞いた噂である。
 が、大してお世話にもなっていない上に子どもをほったらかした挙句勝手に死んだのだから、彼には何の感情も湧かなかった。同情する人々を鬱陶しいとすら思った。


(さあ……ぼくにはわかりかねます。あれが欲しいのなら、お譲りしますよ。ただで)
(え、でも……本当にいいのかい、アーロンちゃん)
(構いませんよ。物の価値なんてぼくにはわからないので)


 さり気なくみんな宝の話を持ちかける。そうすれば、こんな感じで勝手にくれると確信しているから。


 金や銀の装飾が施された宝剣、十何カラットのダイヤのネックレス、有名な画家が遺した落書きみたいな抽象画────全て、彼は惜しがらずにあげてきた。
 それは、宝に全く価値を感じなかったというのもあるが……少なくともこうして宝物を譲り続ける限り、彼の周りに人はいなくならないとわかっていたからだ。









「はっくしゅ」


 急に冷え込んできて思わずくしゃみをした。暖炉の前でうとうとしていて、火が小さくなっているのに気づかなかったようだ。


 みんなはぼくの家族を褒める。ぼくを見捨てた奴らなんかどうだっていいのに、ぼくの気も知らないで変に同情したりする。ただ宝が欲しいだけのくせに、ぼくの事なんか本当はどうだっていいくせに。
 ぼくは知ってるんだ。陰でぼくのアーロンという名前をもじって、ALONE孤独と呼んでいる事も────使用人達はずっと陰でそう呼び、ぼくを嘲っていたから。


 でも何故だか、彼はたとえ周りがうわべだけだとわかっていてもなお、彼らを繋ぎとめておきたかった。

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