ぷかぷか孤島になっちゃった?

睡蓮

薬師ギルドの闇

 シャルルはブルーホースを飲んだあと「もう寝ます・・・」と言って寝てしまった。何が行けなかったのだろうか。

 とりあえずディアンヌが来るまですることがなくなったので明日の朝ごはんの準備をすることにした。マナ変換が復活したんだから朝ごはんは食べないとね。

「ふわぁぁぁ、おはようございますご主人様」

 シャルルはいつも通り盛大に寝癖をつけてベッドから起きてきた。

「おはよう、シャルル」

「あらまぁ、これはご主人様が?」

「そだよ」

 俺は結局一晩中朝ごはんの支度をしていた。そのうち9割が魔法の開発だった。いや、ミキサーの代わりになる魔法を作るのほんと疲れた。

 今日の朝食のメニューは焼いてない食パンにバターとジャム。そして時間の9割9分を食ったブルーベリースムージーだ。

 ブルーベリースムージーの作り方は簡単。凍らせたブルベリーとバナナ、そしてヨーグルト、蜂蜜をミキサーで混ぜ合わせるだけだ。まぁそのミキサー魔法に苦労したんですけどね!! なんで風ってちゃんと1箇所にまとまってくれないの!

 ちなみにブルーベリースムージーにはブルーホースを1滴だけ入れてる。理由はない。遊び心ってやつだ。

「とても美味しそうですね」

「ありがとう。俺はもう食べたからシャルルも食べちゃって。俺は半蔵とヤミにも朝ごはん届けてくるから。あとルーちゃんのやつもそこに置いてあるから起きたら食べさせてあげてね!」

「ありがとうございます、それではいただきます」

「どうぞー」

 俺はシャルルが朝食を口にしたのを見届けてから半蔵とヤミの部屋にも朝ごはんを届ける。
 これじゃ俺がメイドさんみたいだな。また今度マナ変換で執事用の服でも探してみるか。

 俺がヤミと半蔵に朝ごはんを届けたら、ちょうどディアンヌが戻ってきた。

「マスター、それでは出発しますよ」

「はーい。それじゃあいってきまーす」

「「いってらっしゃーい」」

 俺とディアンヌは半蔵とヤミに挨拶をしてから部屋を出る。一応シャルルにも俺が出かけることを伝えておいた。
 
 どうやら今から向かうところは薬師ギルドに加盟していない薬局らしい。そこの薬はよく効くし、値段も安いから近隣住民の信頼も厚く、何とか薬師ギルドからのちょっかいからも耐え忍んでいるらしい。
 そこに着くまでは数十分ぐらいかかるらしいので、俺はディアンヌにあのことについて聞いてみた。

「なぁ、ディアンヌ。俺が作った回復薬について何か知ってる?」

「いや、現物も見てないのに分かるわけないじゃないですか」

 確かに。俺はディアンヌに昨日作った失敗作の回復薬とブルーホースを手渡した。

「マ、マスター! これどうやって作ったんですか!!」

 なんかディアンヌが今まで見たことないぐらい興奮してる。
 
「えっ? そっちのグラデーションの方は普通に下級回復薬作ってたら出来て、そっちの青い方はそれを逆回しで作ったら出来たよ?」

「こ、これはですね、こちらが完全回復薬こちらが成長強制剤という名前です」

 まぁた物騒な名前つけてるなぁ。グラデーションの方が完全回復薬で真っ青な方が成長強制剤?

「まずは完全回復薬ですね! これは1滴垂らしただけであらゆる怪我や部位欠損を治します。さらに1瓶飲めばどんな呪いでも1発で解除できます!」

 うわっ! すっげぇ! 俺って製薬の才能あるじゃん!

「そして成長強制剤。これは魔物を無理矢理進化させる薬です。魔物によって進化するための量は変わりますがね」

「あぁ、だからルーちゃんに翼が生えたんだ!」

「えっ?」

 いやー、流石ルーちゃんだな! たった5本で進化しちゃうなんて伸び代たっぷりだな! 帰ったらスーちゃんにもたらふくブルーホースを飲ませてあげよう!

「ちょ、ちょっと待ってください? 今なんて言いました?」

「ん? だからルーちゃんは天才でー」

「いや! そんなこと言ってなかったでしょう!? ルプルにつ、翼が?」

「うん、そうだけどそれがどうかしたの?」

「は、早すぎる、、、」

「でしょー? やっぱりルーちゃんは天才なんだなーって!」

 ディアンヌが俺の様子を見て溜息をつく。なんだよ! 自分の可愛がってるペットが育ったら嬉しいだろ!

「まぁ、今は分からなくてもいいですが後々ルプルの手綱はマスターがしっかりと握らなければならないのですよ?」

 むーっ! そんなの分かってるよ! ペットのしたことは飼い主の責任だからね!

「まっ、その意識があるならいいでしょう。ほら着きましたよ。あと、この中ではさっきの薬の話は絶対にしないでください。分かりましたね?」

「はーーい」

 俺の適当な返事に呆れながらディアンヌは古ぼけた薬局へと足を踏み入れる。

「あら、いらっしゃい。見ない顔だね。こんな古ぼけた薬屋になんのようだい?」

 そこに居たのは優しそうなお婆さんだった。結構なお年を召していることは分かるがその足取りはハッキリとしていて背筋もシャンと伸びている。

「さぁ、マスター。要件を自分で話すんですよ」

 そう言って俺の背中を押すディアンヌ。俺はお得意の人見知りを発動する。強制発動なんですけどね。
 しかし、おばあさんにはそんなこと筒抜けだったようで向こうから声をかけてきてくれた。

「おやおや? お嬢ちゃんが私にようかね。どれ、話してご覧。私が出来ることなら手伝ってあげるよ」

 何このお婆さん。すっごく優しい! そりゃ近隣住民の信頼も得られるよね。

「あ、あの、、、薬師ギルドについて教えて頂きたいんですけど・・・」

 するとお婆さんはふぅーと息を漏らし、語り始めた。

「薬師ギルドもね私がいる時はいや、とある人物がトップにたっている時はちゃんとした組織だったんだよ。そうだね。500年前ぐらいまでは人々のために働くギルドだったんじゃないかな?」

 はぇ? このお婆さん何年生きてるんだよ! そこ結構気になるよ?

「だがとある男が薬師ギルドのトップから抜けてから狂っちまったんだ。
 まぁ薬師ギルドの歴史には興味が無さそうだから省くけど、今では薬師は世襲制が基本になってきている。まぁ、とんでもない金持ちの息子なら薬師として一流になれるけどね」

 おばあさんは続ける。

「まぁ外面的には世襲制じゃないんだけどね。薬師ギルドはランクによって回復薬のランクが決まるようになってんだよ。
 だからいくら有能なFランクが物凄い薬を作ったとしてもそれは下級回復薬としか判断されないんだよ」

 うわぁ、なにそれ。そんなんしたら皆下級回復薬しか買わないんじゃないの? いや、でも上が居るってことは下もいるってことか。

「そして、ランクアップ方法。これは実力でもなんでもない、ただ多くの回復薬を納品するだけさ。
 この多くの回復薬を納品するってのがミソでね、この納品する回復薬は別に購入してもいいんだよ。
 そして薬師ギルドではBランク以上のランクを持つ薬師は無料で回復薬を貰えるっていう決まりがあるんだよ。」

 なるほど、だから有名な薬師の子供は薬師として一流になれるってわけか。でもそれなら他の人もいっぱい作れば大成できるんじゃ?

「そして、ここが厄介なんだが。お嬢ちゃん、CランクからBランクに上がるまでに何個の回復薬が必要だと思う?」

 うーん。でもCからBなんだから結構いるんじゃないかな? 

「せ、1000個ぐらい?」

「カッハッハッ! そうさね。その三乗だよ。」

 えーっと、1000×1000×1000だから・・・

 えっ? 1000000000じゅうおく個?

「そうっ! 10億個さ! さて、お嬢ちゃん。回復薬1個作るのに何分かかると思う?」

 えーっと、俺は10秒で出来たし、シャルルも一瞬で作ってたけど普通の人なら、、、うーん。

「5分ぐらい?」

「そりゃ腕利きの薬師ならそんぐらいだろうね。でも、cランク程度の薬師なら15分はかかるね。さぁて問題さ。15分×1000000000は何日?」

 15,000,000,000150億分を60で割って、さらにそれを60で割ると、、、

 約4,200,000420万日。
 年に直すと約11,506年、、、

「分かったかい? 一般人が真面目に薬師になるなんて不可能なんだよ」

「でも! 他の人の回復薬を買えば! cランクに行くまでに多少はお金がかかってるはずだし!」

「そうだね、でも薬を高く買って貰えるのはAランク以上の薬師だけなんだよ。だから自分の生活で精一杯さ」

 確かに内部は腐り切ってるな。でもその制度を実現するには下が居ないと成り立たないじゃないか! そうだ! 下級回復薬って需要も高そうなのになんで?

「そう、気づいたようだね。どうやってギルドを回してるのかって疑問に思ったろ? そんなの簡単さ。民衆だよ。民衆に法外な値段で薬を売りつけるんだよ。
 それに下級回復薬なんて作ってる人はほとんど居ないから中級回復薬以上を買わされる場合がほとんどさ。
 でも等級は作る人によって決められてるからそれが優秀な回復薬かどうかは運なのさ」

 う、うわぁ。これは嫌われますわ。でもやっぱり人の病気や怪我を治す薬ってのは人々にとって必要なものだから潰すに潰せないのか。

 でもひとつ疑問があるぞ。薬草にも等級があった。あれはなんの意味が?俺が質問をぶつけるとおばあさんはちゃんと答えてくれた。

「あぁ、上級薬草や中級薬草が何に使われてるか知りたいのかい? そりゃあお国に卸すための薬に使われてんだよ。
 民衆にはやっすい下級薬草とヒカリゴケで作った回復薬しか売らないが国にはバンバン効果の高い薬を卸すんだよ。だから国は薬師ギルドを潰す気はないのさ」

 う、うおぉ、相当クズの癖にやる事やってんのがまた憎いな!

「聞きたいことは全部わかったろ? なら今日は帰りな。お嬢ちゃん達もやることがあるのだろう? 私はいつでもここに居るから何か分からないことがあったら聞きに来るといいよ」

「うん、ありがとうございます!」

「では行きましょうか、マスター」

 俺達は古ぼけた薬屋を後にして一旦宿屋へと向かった。

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