ぷかぷか孤島になっちゃった?

睡蓮

第22話 あいつの帰還 1

 「ムリ!」


 「「えっ?」」


 海竜の答えに勇者と青髪は目を点にしている。一方俺は幻覚には微かな微笑みを浮かばせておいて自分は腹を抱えて笑っている。


 何が面白いかって? そりゃあ今まで散々迷惑かけてきてくれた奴らが切り札に(この状況を妥協すんの)ムリ! って言われてるんだぞ? 面白くないわけないよなぁ!!
 ざまぁぁぁぁぁぁぁぁあ!


 「どう考えても勝ち目がないからのぉ。そもそもこの空間まで連れてこられた時点であいつの独断場じゃよ。のう?」


 海竜が俺に同意を求めてきた。まぁその通りなんだが、如何せんタネをバラしたくはない。そんなこんなで返答に悩んでいると海竜が勝手に喋り出した。


 「まぁ、確かにタネを言うととかれてしまう可能性が高くなるから警戒するのも分かる。だが安心せい。こんな強力なスキルは七勇神のディースぐらいしか解けんわい。こんな阿呆どもに破れるスキルではないぞ。」


 「まぁ、破られても別に構わないんだけど保険ですね。というより、さっきから2人に対して当たりきつくありませんか?」


 「当たり前じゃ! こんな自ら墓場に足を突っ込むような真似させられたら誰だってキレるじゃろうが!!!」


 まぁ、確かに向こうの仲間につくのなら帰す義理もないしなぁ。


 「全く、若かりし頃のワシを叱ってやりたいわ。」


 海竜が遠い目をする。あぁ、この人も苦労してんだなぁ。


 「しかし、契約は契約じゃ。これに背けばワシの命はない。戦って死ぬか、戦わずして死ぬか。2つに1つ。ならば戦うしかないじゃろうよ。」


 海竜はそう言うと俺に向かって頭から突っ込んでくる。俺は奇術の世界で予め仕込んでおいた効果を発動する。1秒を1分に引き伸ばされた海竜はのろのろと俺に襲いかかってくる。


 「フッ!」


 俺はそれを避け、海竜の顔面にキックをする。俺の力は元々強くないが、海竜にとっては60倍速のキックである。海竜はゆっくりとした動きでぶっ飛んでいく。


 パリーン。


 その瞬間何かが割れる音がした。すると海竜のぶっ飛ぶスピードはさっきの60倍の速度になり、水しぶきを立てながらぶっ飛んでいく。
  

 「え、嘘だろ?」


 俺は思わず声を出してしまった。
 そう、あの割れる音は俺の奇術の世界で作り出した空間が割れる音だったのだ。


 誰だ。誰が俺のスキルを破った? そんなことを考えている時間はなかった。元の時間に戻った瞬間、勇者が俺に向かって斬撃を放っていた。


 俺は紙一重でそれを避ける。青髪は魔法を発動していたが、俺には効かないのでスルー。俺にぶつかった瞬間魔法は力を無くし消えていく。俺は指輪に魔力を込め爪を形作る。その爪で船を切断。繰糸で木の繊維を使い、俺の懐に飛び込んできた勇者を捕縛。ついでに青髪も捕縛する。


 俺は一旦勇者と距離をとり、割れた音のした方を千里眼で観察する。そこには見知った顔があった。そう、ディースである。




 「あんにゃろぉぉぉぉぉ! ふっざけんな!! タイミング悪すぎんだろ!!!」
 

 俺は思いっきり叫んで、八つ当たりというより制裁としてディースに追尾する氷塊を魔法で作り出し、投げつける。


 「このっ! このっ! いっつも! いっつも! 俺の! 邪魔に! なること! ばっかり! しやがって! 〇ね!!」


 この追尾式氷塊。面白いのが割れてもなお3時間は追尾するところでディースは頑張って割ったりして防ごうとするのだが、その度にディースに向かっていく氷の数が増えていって面白い。しまいにはディースは頭を隠してうつ伏せてしまった。流石に可哀想なので魔法を解く。


 それと同時に海竜が復帰し、襲いかかってくる。流石にこの状態で海竜を相手に戦うのは分が悪いので爪で鱗をはぎ、肉を露出させて繰糸で筋繊維の操作権を得て、無理やり落ち着かす。


 「さぁて、ディース。お前だけは許さねぇからな。」


 俺の怒りの矛先は完全にディースへと移行。勇者と青髪は繰糸で強化した木の繊維から逃れられないだろうし、海竜は筋肉自体を俺に操作されているので動けない。つまり、ブリクスト大皇国とは一時停戦。俺はディースへのお仕置きへと移る。


 俺は繰糸で自分の髪を伸ばし、強度を高め、ディースの乗っている船を無理矢理こっちの方へと引き摺り込む。 


 「ディーーースゥゥ、お前、自分のやったこと分かってんのかぁ?」


 船に乗っている精霊たちは自分の操作を無視して勝手に動く船にてんやわんや。ディースはそれを知らんぷり。・・・飯抜きで海に出したのはディースへの罰じゃなくて精霊たちへの八つ当たりになってしまっていたらしい。


 裸眼でも見える距離に入り、俺を見つけたディースは俺に向かってタックルを繰り出す。しかし、俺はそれをまたもや繰糸でディースの髪を船に固定し防ぐ。


 「なにするんです!! 感動の再開じゃないですか!!」


 ディースは俺の元に着くなり愚痴り出した。


 「そもそもなんですか! 食料なしに何日も漁に出させるなんて!! 犯罪奴隷でもこんなきつい労働しませんよ!!」


 「うっせぇ!! お前のせいでこのくそ野郎どもに仕掛けた罠がぶち壊しじゃねぇか! なんで俺のスキルで作った空間ぶち壊したんだよ!!」


 そう問い詰めるとディースは泣き出してこういった。


 「だって! だって、だって! 仕方ないじゃないですかぁ!! お腹空いたんですよぉ!! 分かりますか? 理解できますか!? 食料なしで10数日間海にほっぽり出された私の気持ちがぁあ!!!!!!!」


 「飯なら船の上に魚があんだろ?」


 「魚? 有りますよ! いっぱいありますよ!! でも誰が捌くんですか!! 私、刃物持ってないんですよ!? 精霊さん達はすっごい律儀にこれはハルさんに届けるんだ!って張り切ってましたし!」


 oh……。それは誤算だったじぇ……。ちょっとぐらい分けるとおもったら全く分けないとは。精霊さんも徹底してるな!


 「まぁ、流刑って言ってたからどっかの訳分からん島に置いてこようと思ったけど流石に可哀想でな。こんなところでゆるしてやってくれ。」


 ソラがいつの間にか俺の横に浮かんでいた。厳しい! 精霊たちって意外と厳しい!


 そんなこんなで帰ってきたディース。そこに飛んでくるのはやはり勇者と青髪からの罵詈雑言であった。



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