異能学園のアークホルダー

奏せいや

自分の夢諦めて普通に生きるのが賢いっていうなら俺はずっとバカでいい!

 錬司が喋る。はじめは落ち着いていた口調に次第に熱がこもる。

「生まれた時から自分は特別だと思ってた。自分は他人とは違う特別ななにかがあるんだって、そう思ってた。

 ガキだと笑うか? いいぜ。俺だってなんでこんなことを思うのか分からねえ。

 でもさ、男の子なんだ。大なり小なり、同じこと思ったことあるだろう?」

 信也は内心頷いた。思春期の男子なら、バカみたいな、けれど自分はすごいんだっていう楽しい妄想に耽ること、一度や二度はあるだろう。

 それは信也も錬司も同じこと。みんな、同じこと。

「そうさ、誰だって同じなんだよ。ああなりたい、こうしたいっていうささやかな夢の一つや二つ誰だってあるだろう?

  大きな夢を見たことはないか? プロ野球選手にミュージシャン。これをやりたいという誰にも負けない情熱を持ったことは?

 ならそれを目指せばいいじゃねえか。一度きりの人生、好きに使わなきゃ損だぜ。

 だっていうのに誰かが言うんだ、諦めよう、仕方がないって。それでも諦めないと今度は頑固だ偏屈だ自己ちゅーだ好き放題言ってくる。

 ったく、てめえら何様だよってな。そして一人、また一人と諦めていく。

 それが正しい選択なんだと信じてさ。でも思うんだよ、諦めた先になにがある?

 そこに求める理想があるのか? な? 分かるだろ? ないんだよ! そこには夢も理想も!」

 錬司は叫んだ。世の中で当たり前に起きている、その愚かさを嘆いた。

 人は夢を見る。なにかを目指す。

 けれど現実とは窮屈だ、自分の道を進もうと思った時にはすでに誰かの敷地内で勝手には通れない。

 多くの曲がり角に行き止まり。まっすぐ進みたいのに進んだ時には右往左往の迷宮だ。ついには出口がなにかも分からなくなる。

 他人の言葉と現実の壁に惑わされて。

 そして、人は諦める。

 そこにはなにもないのに、何故、人はそれを正しいと思うのだろう。

 夢を追うことが、理想を実現しようとすることがまるで間違っていると言わんばかり。多少現実と摩擦があるというだけで、もしくは他人とは違うというだけで簡単に言うのだ、諦めろと。

 そんな中で彼は違った。錬司は思いを語る。熱い想いを話す。

「身の丈にあった目標? 現実を受け止めるのが賢い選択?

  ハッ! くだらねえ、自分の人生、自分の好きなように生きてなにが悪い?

 自分が求めるものを求めてなにが悪い!? そんなの無理だ、できるわけない? 賢くなれ大人になれだ?

 ふざっけんな! 自分の夢諦めて普通に生きるのが賢いっていうなら俺はずっとバカでいい! 俺はなあ!」

 錬司の思いが流れ込んでくる。

 自分は特別なのだ。

 諦めたお前らとは違う。

 俺は――

「てめえら『諦めた人間テンプレ』共とは違うんだよぉおおお!」

 それは魂の叫びだ。錬司が抱く、激情の咆哮だ。

「俺はお前らとは違う。俺は俺、特別なんだ。見くびってんじゃねえぞクソ野郎。ランクF?

 だからどうした関係ねえ。そんなことで簡単に諦められる性分ならなぁ、初めからアークアカデミアなんて目指してねえんだよ」

 正真正銘、それが獅子王錬司という男だった。生まれた時から自分は特別で、現実との摩擦に苦しんできた。

 でも、彼は諦めなかった。

 獅子王錬司という男を見れば分かる。

 夢を持て。そして諦めるな。

 他人も現実も関係ない。

 自分の夢を求めてみせろ。

 それだけで、それだけのことがどれだけ偉大か。

 諦めない。それは、誰にも出来て全員が出来ない特別なのだ。

 獅子王錬司は、まさしく特別だった。

「それが俺がハイランクを狩る理由さ。俺は証明したいんだ、俺が特別だっていうことを。それを阻むというのならランクなんてぶっ壊してやる。信也、お前もだ」

「ああいいぜ。望むところだよ錬司」

 錬司からの言葉に信也も応える。瞳には戦意が宿りやる気と共に相手を見る。

「姫宮、離れててくれ」

「うん、分かった。がんばってね」

「おう」

 背後にいる姫宮に振り返ることなく信也は言う。姫宮は小走りで離れていった。

 思い出話はここでお終い。二人は対峙する。そのままゆっくりと歩き出した。距離がみるみると近づいていく。

 ここからは、決着の時だ。

 相手と。なにより自分自身の!

「俺は人間の可能性を証明するために」

「俺は自分を証明するために」

 さあ。

「「ランク至上主義なんてぶっ壊そう」」

 そのために。

「「お前を倒す」」

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