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異能学園のアークホルダー

奏せいや

これは、平凡なランクAが時代を変える物語――

 そんな信也に姫宮が叫ぶ。

「分からないよ! 分かるわけないじゃん! わたし信也君のこと好きだけど、まだ会って三日しか経ってないんだから!」

「ん……」

 姫宮の言う通りだ。信也は口を噤む。

「でもね、その三日間で知ったことあるよ。信也君は誰よりも人間の可能性を信じていて、絶対に諦めない人だって」

 姫宮の口調が穏やかに変わる。信也は座り込み、横目で姫宮を見上げた。

 その表情は、優しかった。

「信也君はなにに憧れたの? 錬司君に憧れたの? それとも絶対に諦めない人に憧れたの?」

「俺は……」

 視線を落とす。自分はなにに憧れたのか? それをもう一度思い出す。

「自分の夢を見失わないで!」

 叫ばれた言葉に信也は顔を上げた。そこで見る姫宮は笑っていた。

「わたしもね、アイドル部の入部試験の時諦めそうになっちゃった。でもね? 信也君がそばにいてくれた。わたしの夢を応援してくれた」

 彼女は明るい。どんな時だって。まるで誰にでも光を与えてくれる太陽のように。

「だから、今度はわたしが信也君の夢を応援してあげる!」

「応援?」

「うん!」

 姫宮は言う。笑顔で。

 誰からも愛される笑みで言う。

「アイドルはみんなを笑顔にするものだから」

 そう言うと姫宮は小走りで離れていった。立ち止まると足を肩幅に広げ表情に気合を入れる。

 そして歌い出した。信也を応援するために、精一杯の歌とダンスを披露する。

 愉快なリズムに体躍らせて。明るいビートに声弾ませて。時には声を張り上げて、時には腕を振り上げて。姫宮は体いっぱいにアピールしていた。自分の思いを表現するように。

 夢を実現するのは困難だ。並大抵のことじゃない。

 けれど、夢を追うのは楽しい。

 そして、夢を叶えた時は嬉しい。

 どんなに難しくても挑戦することに意味はある。

 姫宮の諦めないその姿勢に、なにより楽しそうなその顔に、信也はいつしか見入っていた。

 そして気づいたのだ。

「そうか……」

 姫宮の夢。それは誰のものでもない自分の夢だ。誰かになりたいわけじゃない。理想の自分になりたい。決して誰かの真似じゃない。

「そっか」

 信也は呟いた、感慨深く。まるで噛み締めるように。

 姫宮は自分の理想に向かって進んでいる。なら自分は? その夢は、いったいどこに向かっている?

「ねえ、信也君。ここで諦めるの?」

 姫宮が聞いてくる。ダンスは続いてる。

 信也は思い出していた。

 進路に迷った時、

 いじめに遭った時、

 信也は錬司に憧れた。

 夕焼けに照らされたあの横顔を覚えてる。

 まっすぐな眼差しで夢を語るあの瞳を覚えてる。

 どんな困難にも諦めず、己の道を貫く姿勢。

 それをかっこいいと思ったから。

 信也は、憧れた。

「わたしは諦めないよ、絶対に」

 憧れたのだ。

 諦めなければ道は開ける。己を信じる心、人間の可能性。

 今の姫宮と同じ、あの、まっすぐな眼差しに――

「分かったよ、俺」

 信也は姫宮に言った。

「俺は、自分の足で立っていなかったんだ。錬司という憧れに支えられてきただけなんだ」

 以前の自分を振り返る。自分の理想に走っているようで、その実それは錬司という憧れだった。

「俺はけっきょく空っぽのままだったんだな」

 自分ではなにも出来ないから他人に憧れた。自分では駄目だったから錬司になろうと思った。

 諦めていたのだ、自分の可能性を。

 幼稚な変身願望。自分なんかよりも他人になりたいという考え。

 まるで違う。錬司とは天と地だ。なんて皮肉だろう。錬司になろうと頑張れば頑張るほど錬司から遠のいていくなんて。

 信也は他人を求めた。

 錬司は、特別オリジナルを目指していたというのに――

「夢は見つかった?」

 姫宮はダンスを終え信也の正面に立っていた。少しの汗と荒い呼吸が残るが表情は明るい。

「ああ」

「聞かせてくれるかな? 信也君の夢」

 信也は一度視線を下げた。開いた自分の片手を見つめる。

「俺の夢は……」

 その手を握り締め、信也は顔を上げた。

 自分はなにを求めていたのか。人間の可能性、それは誰かになることじゃない。

「そんなの決まってる!」

 己の証明だ。

「俺の夢! それは、人間の可能性を証明することだ! 諦めなければ道は開ける。自分を信じる心、人間の可能性! 俺は、絶対に証明してみせる!」

 かつて憧れた夕日の横顔と同じように。今の信也は輝いていた。

「うん、がんばって」

「おう!」

 姫宮からの声援に力強く頷いた後信也は笑みを浮かべた。

「ありがとな、姫宮」

「いひひぃ。アイドルはみんなを笑顔にするのが仕事だからね!」

「そうだったな」

 彼女の底抜けの笑顔に苦笑した。そして胸の中でもう一度礼を言う。

(ありがとう、姫宮)

 信也は取り戻した。失った理想を。

 たとえ屈してしまってもそれは何度だって蘇る。

 可能性はあるのだから。

 誰にでも。

 なら諦めなければ叶うはず。

 道は開かれ達成しよう。

 信也は歩き出した。屋上の扉を開ける。

 さあ、その時だ。

 己の可能性を証明しよう。

 ロウランクの冷遇に屈した敗者よ歓喜するといい。

 生まれつきの才能に絶望する弱者よ喝采するといい。

 ランク至上主義の終わりの時だ。

 これは、平凡なランクAが時代を変える物語――

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