異能学園のアークホルダー

奏せいや

俺は、絶対に諦めねえ

 そして、誰かが言うのだ。

「諦めよう」

 誰かが言うのだ。

「諦めるしかないんだ。仕方がないよ」

 誰かが言うのだ。

「僕たちはランクFなんだから」

 誰かが言うのだ。

「アークは成長しないんだから仕方がない」

 誰かが言うのだ。

「努力するなんて無駄なことは止めよう。現実を受け入れて生きるのが賢い方法さ」

 誰かが言うのだ。


「諦めよう」

 誰かが言うのだ。

 諦めよう。

 仕方がないと。

 だが、

 しかし、

 だとしても、

「俺は諦めねえ! 俺は絶対に諦めねえぞ!」

 彼だけは、諦めなかった。

 その姿勢をみなは愚かだと冷ややかだった。何故なら無駄だから。異能(アーク)は成長しないのに、今更どうしろと?

 だから言う。

 誰かが言うのだ。

「あいつは馬鹿だ」

 誰かが言うのだ。

「無理に決まっているのに」

 誰かが言うのだ。

「さっさと諦めればいいのに」

 誰かが言うのだ。

「物分かりが悪いやつだ」

 ランクが絶対の学園でランクFとなれば出来損ないのレッテルだ。おまけにそれが一生続く。どうしようもない。初めから詰んでいるのだ。

 しかし、では諦めるか?

 他人から駄目だと言われたら。

 現実が壁となって塞がったなら。

 たとえばおとぎ話の勇者が、そんな状況で諦めるのか?

(ふざけんな)

 そう、諦めない。たとえどんな不利な状況でも。

 獅子王錬司は諦めない。

 己のランクは最下位のF。

 ゆえに、それはどん底からの反抗だった。

「俺は、絶対に諦めねえ」

 ここから、獅子王錬司の覚醒が始まった。

 アークアカデミアの授業には行っていない。その代わり彼は特訓した。

 朝も昼も夜も深夜も。

 誰よりも、彼はアークを磨き上げていった。

 自分を信じて。誰に否定されても自分だけは自分を信じた。

(俺ならやれる)

 誰しもが言った。

 教師が駄目だと。

 クラスメイトが駄目だと。

 研究員ですら駄目だと言った。

 アークは成長しない。マルチアークは不可能。現実もが壁となって塞がってくる。

 それでも、

 獅子王錬司は諦めない。

 諦めなければ道は開ける。特別だと信じる心、己の証明。

 自分は特別だと、自分だけは信じていたから。

 その執念、自分は特別だと信じる想いは、ついに彼を昇華した。

「……できた」

 額に玉のような汗を浮かべて、錬司は深夜の校庭に一人立っていた。

「ふふ、はは、あっははははは」

 手に入れた。ものにした。達成したのだ。喜びが全身を貫く。これで自分は認められる。六十八時間の不眠の特訓の末に、獅子王錬司は証明してみせた。

 己の可能性を。

 そして。

「おい」

 後日、錬司は研究所の一室を開けた。

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