異能学園のアークホルダー
はっ、お前ランクFみたいだな
それから研究所を後にして行くあてもなく駅前を歩いていた。顔は下を向き、職を失ったサラリーマンのように背を丸めて歩く。
するとビル壁面に設置されていた巨大パネルから伝わってきた映像に足が止まった。
「異能に興味はありませんか? あなたの人生を変えるかもしれないあなただけのアーク。夢と希望溢れるアークアカデミアはあなたの新たな人生を応援します! 今ならモニターの向こうにいる仮面の男ストラップがもらえるよ!」
「…………」
錬司は、再び歩き始めた。
第一アークアカデミアの入学式は第二、第三よりも早い。晴れ渡る青空に暖かい陽光、咲き誇る桃色の花弁が新入生を歓迎している。
しかし、錬司の表情は優れなかった。
入学式が終わり教室で待機している時だった。
「おい」
「あ?」
頬杖をつきながら机に座っていた錬司に数人の男子が声をかけてきた。
錬司は覚えていなかったが、全員同じ中学の生徒だった。
その中にいる小柄な少年が言ってきた。
「はっ、お前ランクFみたいだな」
辺りから「くくく」と笑う声が聞こえてくる。
「中学時代あんなに特別特別言ってたお前がランクFかよ。みじめになったな錬司君」
「ああ? 誰がみじめだって? それに誰だお前」
「なっ! お前こそ誰に口きいてんだランクFが!」
錬司は何気なく言ったつもりだったが相手は顔を赤くして怒鳴っていた。
「うるせえな。だったらてめえのランクはいくつなんだよ」
「ふん。よくぞ聞いた。僕のランクはEだ!」
「同じじゃねえか」
「同じじゃない!」
声をかけてきた少年は地団太を踏んで抗議してきた。
「いいか! 僕はな、秒速二メートルの風を起こせるんだぞ! すごいんだぞ!」
「扇風機と同じくらいか、夏に便利だな」
「夏に便利とか言うな!」
「分かった分かった、秋には秋刀魚を焼くときに便利そうだな」
「だから便利とか言うな! すごいと言え!」
「はあ? なにこいつ……」
「このぉ~、ランクFのくせして馬鹿にするなぁ!」
すると少年は頬杖をついていた錬司の頬をいきなり殴りつけたのだ。
殴られたことに錬司の顔が傾く。しかし、ゆっくりと元に戻して少年を見上げた。
「あ?」
「ひぃ!」
錬司は立ち上がる。自分よりも背の低い少年を見下ろした。
「てめえ、やってくれたな。俺が不良全員ボコにしたの知ってんだろ?」
「ひぃいい!」
錬司の凄みのある眼光に少年は悲鳴を上げていた。
「おい、なにしてるんだそこ」
そこへ教師がやってきた。すかさず少年が助けを求める。
「先生! ランクFが暴力を振るってくるんです!」
「はあ? ふざけんな! 殴ったのはてめえの方じゃねえかッ」
錬司は反論するが教師は冷たい目で錬司を見てくる。
「おいそこのお前、ちょっと職員室に来い」
「ちょっと待てや! なんで俺が悪いことになってんだ? そもそもあいつが――」
「いいからさっさと来い。――ランクFが」
「…………」
錬司はなにも言えなかった。
知ったのだ。
ここは、ランクが絶対の場所なのだと。
「ねえ知ってる? あの錬司だけどランクFだって」「マジかよ、いい気味だぜ」「あいつムカついてたんだよね、俺はお前たちとは違うとか何様? みたいな」「あいつがランクFで超すっきりしたぜ」
それからも錬司の陰口は囁かれていた。まるでフタが外れたように今までの栄光の裏で妬んでいた思いが話されている。
(ふざけんな)
錬司もそれは耳にしていた。
しかし蔑まれていたのは錬司だけではない。ランクFの者ならそれは誰しもがそうだった。
みなから出来損ないと言われ、冷遇され、差別される。
ランクFに未来はない。アークは成長しないのだから。かつては夢と希望に瞳を輝かせていた者たちもアカデミアの現実に目を覚ます。
するとビル壁面に設置されていた巨大パネルから伝わってきた映像に足が止まった。
「異能に興味はありませんか? あなたの人生を変えるかもしれないあなただけのアーク。夢と希望溢れるアークアカデミアはあなたの新たな人生を応援します! 今ならモニターの向こうにいる仮面の男ストラップがもらえるよ!」
「…………」
錬司は、再び歩き始めた。
第一アークアカデミアの入学式は第二、第三よりも早い。晴れ渡る青空に暖かい陽光、咲き誇る桃色の花弁が新入生を歓迎している。
しかし、錬司の表情は優れなかった。
入学式が終わり教室で待機している時だった。
「おい」
「あ?」
頬杖をつきながら机に座っていた錬司に数人の男子が声をかけてきた。
錬司は覚えていなかったが、全員同じ中学の生徒だった。
その中にいる小柄な少年が言ってきた。
「はっ、お前ランクFみたいだな」
辺りから「くくく」と笑う声が聞こえてくる。
「中学時代あんなに特別特別言ってたお前がランクFかよ。みじめになったな錬司君」
「ああ? 誰がみじめだって? それに誰だお前」
「なっ! お前こそ誰に口きいてんだランクFが!」
錬司は何気なく言ったつもりだったが相手は顔を赤くして怒鳴っていた。
「うるせえな。だったらてめえのランクはいくつなんだよ」
「ふん。よくぞ聞いた。僕のランクはEだ!」
「同じじゃねえか」
「同じじゃない!」
声をかけてきた少年は地団太を踏んで抗議してきた。
「いいか! 僕はな、秒速二メートルの風を起こせるんだぞ! すごいんだぞ!」
「扇風機と同じくらいか、夏に便利だな」
「夏に便利とか言うな!」
「分かった分かった、秋には秋刀魚を焼くときに便利そうだな」
「だから便利とか言うな! すごいと言え!」
「はあ? なにこいつ……」
「このぉ~、ランクFのくせして馬鹿にするなぁ!」
すると少年は頬杖をついていた錬司の頬をいきなり殴りつけたのだ。
殴られたことに錬司の顔が傾く。しかし、ゆっくりと元に戻して少年を見上げた。
「あ?」
「ひぃ!」
錬司は立ち上がる。自分よりも背の低い少年を見下ろした。
「てめえ、やってくれたな。俺が不良全員ボコにしたの知ってんだろ?」
「ひぃいい!」
錬司の凄みのある眼光に少年は悲鳴を上げていた。
「おい、なにしてるんだそこ」
そこへ教師がやってきた。すかさず少年が助けを求める。
「先生! ランクFが暴力を振るってくるんです!」
「はあ? ふざけんな! 殴ったのはてめえの方じゃねえかッ」
錬司は反論するが教師は冷たい目で錬司を見てくる。
「おいそこのお前、ちょっと職員室に来い」
「ちょっと待てや! なんで俺が悪いことになってんだ? そもそもあいつが――」
「いいからさっさと来い。――ランクFが」
「…………」
錬司はなにも言えなかった。
知ったのだ。
ここは、ランクが絶対の場所なのだと。
「ねえ知ってる? あの錬司だけどランクFだって」「マジかよ、いい気味だぜ」「あいつムカついてたんだよね、俺はお前たちとは違うとか何様? みたいな」「あいつがランクFで超すっきりしたぜ」
それからも錬司の陰口は囁かれていた。まるでフタが外れたように今までの栄光の裏で妬んでいた思いが話されている。
(ふざけんな)
錬司もそれは耳にしていた。
しかし蔑まれていたのは錬司だけではない。ランクFの者ならそれは誰しもがそうだった。
みなから出来損ないと言われ、冷遇され、差別される。
ランクFに未来はない。アークは成長しないのだから。かつては夢と希望に瞳を輝かせていた者たちもアカデミアの現実に目を覚ます。
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