異能学園のアークホルダー

奏せいや

よう。久しぶりだな、信也

「どこだ、どこにいるッ」

 信也は夕焼けの駅前を走り回っていた。黒の外套と巨大な帽子姿に奇異の目で見られながらも信也は忙しなく辺りを探していた。

 しかしどれだけ探してみても見つからない。そもそもジャッジメントの犯人がどんな姿をしているのか分からない。

 信也は一度立ち止まり目を瞑った。

(気を鎮めろ。集中すれば人探しくらい今の俺なら出来るはず)

 激しい呼吸を落ち着ける。頭の裏側にジャッジメントのことを思い浮かべ静かに念じていく。精神を統一させ己の気と世界を重ねる。

 信也は瞼を開いた。

「こっちか!」

 感じ取った道しるべに従い信也は再び走った。

 走り続けた先、たどり着いたのは路地裏だった。建物の影に隠れここは薄暗い。

 しかし、そこには誰もいなかった。けれど感じているのだ。ここにジャッジメントがいることを。見えないが確かにここにいると感じている。

「ジャッジメントぉお!」

 信也は叫んだ。見えない犯人に対して。

 すると気配が動いた。走り出したようだ。

「逃がすかよ!」

 その後を信也は追いかけた。見えない犯人との逃走劇。しかし見逃さない、信也は逃してなるものかと必死に追いかけた。

 そして、そんな信也を追跡している者たちがいた。

「対象走行を再開、三時の方向です」

『対象が追いかけている目標はいるか?』

 周囲のビル屋上に配置された男たちが信也を見下ろしていた。アークアカデミアが所有する実働部隊。

 有事の際は彼らが出動し鎮圧に当たる。その内の一人へインカムを通し牧野が指示を飛ばす。

「いえ、確認できません。しかし誰かを追いかけているように見えます」

『サーモグラフィで確認しろ』

「了解、サーモグラフィに切り替えます。……確認しました。対象の進行先に目視不可の熱源を発見」

 部隊からの報告に牧野は顎に手を添えた。街道の一角で停車している白のワゴン車に牧野は待機しており、彼女以外にも数人の実働部隊が座っている。

「やはり光学迷彩。しかし光の操作だけでは説明がつかない」

 犯人の姿が見えないという現象。

 いくつか理由は予想できるがその中の一つが光学迷彩だった。光を屈折させ自分の姿を消すというものだ。

 三木島沙織のアーク『光学妖精の悪戯ライブ・コンサート』なら同じことができるだろう。

 しかしそれだけではない。ジャッジメントが見せた複数の現象、その謎が未だに分からない。

「監視を続行、随時報告するように」

『了解』

 牧野たちアークアカデミアもジャッジメントを追っていた。

 そんな中、一足早く信也は犯人を追いつめた。

 そこは廃墟ビルの二階だった。壁も床もコンクリートが剥き出しで破れたビニールがカーテンのように周辺にぶら下がっている。部屋はなく柱だけがフロアに残された薄暗い場所。

 その中央に信也は立っていた。気配は目の前にいる。エレメント・ロードは魔法、元素の使い手だ。そのためこの空間内で起こっていることは把握している。

「いるんだろジャッジメント。姿を見せろよ」

 たとえば、目の前で光が不自然な屈折をしていること。それだけでなく音波も止まっていること。それにより姿も音も消していた。

 ジャッジメントの能力の一つが隠ぺいだ。これにより奇襲から周囲への人たちに悟られることなく襲撃を行なっていた。

 追い詰めた。審判者ジャッジメント事件の犯人が、目の前にいる。

 信也は虚空を睨みつける。同時に頭の中から聞こえる自分の声を押し殺した。

(違う、違うはずだ。そんなはずはッ)

 否定する。何度も何度も。

 目の前の敵に対して、信也は祈るように睨み続ける。

 その、時だった。

『よう。久しぶりだな、信也』

「え?」

 なつかしい声が聞こえてきた。

 目の前で光の屈折が解かれていく。蜃気楼のような透明のもやが発生したかと思うと、みるみると一人の輪郭を露わしていく。

 それは黒のコートにジーパンを履いた少年だった。顔は白のファーがついたフードを目深に被っているため判別ができない。

 そのフードに、少年の手が当てられた。

「そんな……」

 そして、フードが外された。

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