異能学園のアークホルダー
光子妖精の戯れ(ライブ・コンサート)発動!
「いくわよ。私はランクCアーク、『光子妖精の戯れ(ライブ・コンサート)発動!』」
瞬間だった。消灯したかのようにこの場は暗闇に包まれる。しかし誰も消してはいない。
直後、三木島沙織がライトアップされていた。さらには、その服装までもが変わっていた。
さきほどまでの制服姿ではない。ふわりとしたスカートのライブ衣装。黄色と白のフリルにブーツ。白の長手袋はマイクを握り、髪型も派手な巻き髪に変わっていた。
一瞬での変身とその煌びやかさに今までで一番の歓声が沸き起こった。
ランクCアーク、光子妖精の戯れ。それは光を自在に操る能力だ。
暗闇にすることもライトアップもお手の物。さらに練度を高めれば自分の見た目も変えられる。自分の動きに合わせて光子を動かし、変身したように見せているのだ。
「さあ、盛り上がっていくわよ!」
三木島の宣言に合わせて曲が流れ始めた。彼女のデビュー曲だ。ここから夢を始める受験者に向けた応援曲。
色とりどりの照明が彼女を彩る。さらに彼女は八十人ばかりしかいないこの場に満席の映像を重ねた。
歌唱勝負でしかなかったこの場が一気に満員のコンサートだ。全員が蛍光のステッキを振り三木島は踊る。
光の中で、三木島のソロライブは輝いていた。
「すごい。これが三木島さんのライブ……」
そのあまりの規模と演出に姫宮も感嘆していた。これだけのことを一人で行っているのだ。すごいはずだ、まさにトップアイドル。アークを持ったアイドルが人気なのも頷ける。
「でも」
だが、同時に姫宮は悔しがっていた。彼女を羨望の眼差しで見ながら、強く両手を握る。
「歌も、ダンスも……私の方が上手い……!」
三木島のライブは最後まで興奮の中で終わった。三木島はアークを止め見た目も空間も元に戻るが観客からの熱い声援は止まらない。
三木島は小さく手を振って応えながら信也たちの方へ近づいてきた。
「どうだったかしら、私のライブは」
やり終えた達成感の余韻が抜けていないのか、三木島は上機嫌に話しかけてくる。背後ではまだ彼女に声援を送る者もいた。
「すごかったよ。光の演出やその多様さ。見ていて綺麗だった」
「ふっ」
「でも」
「?」
三木島から余裕の表情が消える。鋭い視線が信也に向けられるが、信也は目を逸らさなかった。そして、彼女に言った。
「あんたは張りぼてだ。歌もダンスも上手くない。それを異能(アーク)で誤魔化しているだけだ!」
「なんですって!?」
三木島が声を上げる。端整な顔には怒りが混じり睨みつけてくる。
それでも信也は退かない。人間の可能性を証明するために。
「これは歌唱勝負だ。聞かせてやるよ、本当の『歌』を! 俺はランクAアーク、『平行世界・自己投影』発動!」
無限の平行世界からもう一人の自分を選択し、見せつける、別の自分を。
「俺はパラレルワールドにパスゲートをセッティング! こい、トップシンガー!」
パラレル・フュージョンを発動したことにより信也の見た目が変わる。光を変えただけではない、正真正銘の変身だ。
それは、ごく普通の私服姿だった。
ランクAのアークに辺りは静まり返るが、同時に落胆したような声が囁かれている。
「なにをするかと思えば……。それがランクA?」
三木島からも声が掛けられる。小馬鹿にしたような表情だ。
「信也君、大丈夫なの? べつにいいんだよ、これはわたしの問題なんだから信也君がそこまですることないし、今ならわたしのダイナミックスペシャルデラックスボム土下座で――」
「大丈夫さ」
姫宮から掛けられる心配の声を、信也は優しく制した。
信也はスペースへと歩いていく。
「曲はどうするの? 言えばたいていの曲なら流れるわよ」
「いい」
「?」
「自分でやる。『この世界にはない曲だ』」
信也は歩きながら右腕を持ち上げた。すると平行世界と繋げた空間からギターが現れ、それを手に取った。初めて見るものだ。使い古されたそれには小さな傷が目立つ。
けれども分かる。手に馴染む。調律を繰り返し、何度も弦に触れた相棒。
信也は固定されたマイクの前に立ち、意識を集中し始めた。
そして歌うのだ。
知らない曲を。
そこに、全力の想いを込めて。
ギターを弾き始める。弦が鳴る。指が踊る。音が弾ける。
そこに乗せて声が流れる。それは見事な一致を聞かせた。
静かだけれど、熱い曲だった。何より歌い手の思いが歌に乗って伝わってくる。
それは視覚で伝わるものではない。人の心に直接届ける力があった。
照明どころかなにもない時代から歌は人類と共にある。
照明もない。マイクもない。
それでも歌は人を惹きつける。
人の心を、魅了する。
瞬間だった。消灯したかのようにこの場は暗闇に包まれる。しかし誰も消してはいない。
直後、三木島沙織がライトアップされていた。さらには、その服装までもが変わっていた。
さきほどまでの制服姿ではない。ふわりとしたスカートのライブ衣装。黄色と白のフリルにブーツ。白の長手袋はマイクを握り、髪型も派手な巻き髪に変わっていた。
一瞬での変身とその煌びやかさに今までで一番の歓声が沸き起こった。
ランクCアーク、光子妖精の戯れ。それは光を自在に操る能力だ。
暗闇にすることもライトアップもお手の物。さらに練度を高めれば自分の見た目も変えられる。自分の動きに合わせて光子を動かし、変身したように見せているのだ。
「さあ、盛り上がっていくわよ!」
三木島の宣言に合わせて曲が流れ始めた。彼女のデビュー曲だ。ここから夢を始める受験者に向けた応援曲。
色とりどりの照明が彼女を彩る。さらに彼女は八十人ばかりしかいないこの場に満席の映像を重ねた。
歌唱勝負でしかなかったこの場が一気に満員のコンサートだ。全員が蛍光のステッキを振り三木島は踊る。
光の中で、三木島のソロライブは輝いていた。
「すごい。これが三木島さんのライブ……」
そのあまりの規模と演出に姫宮も感嘆していた。これだけのことを一人で行っているのだ。すごいはずだ、まさにトップアイドル。アークを持ったアイドルが人気なのも頷ける。
「でも」
だが、同時に姫宮は悔しがっていた。彼女を羨望の眼差しで見ながら、強く両手を握る。
「歌も、ダンスも……私の方が上手い……!」
三木島のライブは最後まで興奮の中で終わった。三木島はアークを止め見た目も空間も元に戻るが観客からの熱い声援は止まらない。
三木島は小さく手を振って応えながら信也たちの方へ近づいてきた。
「どうだったかしら、私のライブは」
やり終えた達成感の余韻が抜けていないのか、三木島は上機嫌に話しかけてくる。背後ではまだ彼女に声援を送る者もいた。
「すごかったよ。光の演出やその多様さ。見ていて綺麗だった」
「ふっ」
「でも」
「?」
三木島から余裕の表情が消える。鋭い視線が信也に向けられるが、信也は目を逸らさなかった。そして、彼女に言った。
「あんたは張りぼてだ。歌もダンスも上手くない。それを異能(アーク)で誤魔化しているだけだ!」
「なんですって!?」
三木島が声を上げる。端整な顔には怒りが混じり睨みつけてくる。
それでも信也は退かない。人間の可能性を証明するために。
「これは歌唱勝負だ。聞かせてやるよ、本当の『歌』を! 俺はランクAアーク、『平行世界・自己投影』発動!」
無限の平行世界からもう一人の自分を選択し、見せつける、別の自分を。
「俺はパラレルワールドにパスゲートをセッティング! こい、トップシンガー!」
パラレル・フュージョンを発動したことにより信也の見た目が変わる。光を変えただけではない、正真正銘の変身だ。
それは、ごく普通の私服姿だった。
ランクAのアークに辺りは静まり返るが、同時に落胆したような声が囁かれている。
「なにをするかと思えば……。それがランクA?」
三木島からも声が掛けられる。小馬鹿にしたような表情だ。
「信也君、大丈夫なの? べつにいいんだよ、これはわたしの問題なんだから信也君がそこまですることないし、今ならわたしのダイナミックスペシャルデラックスボム土下座で――」
「大丈夫さ」
姫宮から掛けられる心配の声を、信也は優しく制した。
信也はスペースへと歩いていく。
「曲はどうするの? 言えばたいていの曲なら流れるわよ」
「いい」
「?」
「自分でやる。『この世界にはない曲だ』」
信也は歩きながら右腕を持ち上げた。すると平行世界と繋げた空間からギターが現れ、それを手に取った。初めて見るものだ。使い古されたそれには小さな傷が目立つ。
けれども分かる。手に馴染む。調律を繰り返し、何度も弦に触れた相棒。
信也は固定されたマイクの前に立ち、意識を集中し始めた。
そして歌うのだ。
知らない曲を。
そこに、全力の想いを込めて。
ギターを弾き始める。弦が鳴る。指が踊る。音が弾ける。
そこに乗せて声が流れる。それは見事な一致を聞かせた。
静かだけれど、熱い曲だった。何より歌い手の思いが歌に乗って伝わってくる。
それは視覚で伝わるものではない。人の心に直接届ける力があった。
照明どころかなにもない時代から歌は人類と共にある。
照明もない。マイクもない。
それでも歌は人を惹きつける。
人の心を、魅了する。
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