異能学園のアークホルダー

奏せいや

俺でも、なれるかな?

『うるせえ! どこが違うんだよ、お前がこいつを殴った、違うのか?』

「え?」

 その時だった、聞こえた音声に信也はハッとした。それは自分だけでなく、この場にいる全員だった。

 錬司を除いて。

『ああそうさ! 俺が殴った。だからなんだ? 訴えても無駄さ、俺の父親は警視長官だぞ? どんな問題だってもみ消してくれるさ。それに、俺になにかしてみろ。お前に地獄見せてやる』

 音声はここで止められた。信也も、周二も、会長も唖然としていた。

 そんな中、錬司だけが普段通りに振る舞っている。

「俺になにかしてみろ~、お前に地獄見せてやる~。おーコワ、そんなじゃ見せてもらおうか」

 錬司はポケットからボイスレコーダーを取り出し、ひらひらと見せびらかしていた。

「といっても、俺が地獄に落ちるはずの事件が『そもそも存在しなかった』、とお前らが言うなら事情も変わってくるんだろうけどな~」

 錬司の言葉の後、会長はがっくりと顔を下ろした。

(すげえ……)

 信也は前に一歩出ている錬司を見る。こうなることを見込んで初めからボイスレコーダーを入れていたのだ。

「錬司、ありがとうな」

 事件はそもそも存在しなかった。そう決着してから初めて二人きりとなり、信也と錬司は放課後の教室に残っていた。窓際の机に座り空を見上げる。

「俺にはなにも出来なかった。錬司は当たり前のようにやってるのに、カッコ悪いよな」

 信也は気恥ずかしくなり床に視線を映した。机に腰掛けた足をぶらつかせる。

「アホか」

 そんな信也に、錬司は夕焼けの空を見上げながら言い切った。

「俺は特別なんだよ。お前と一緒にすんな」

「はは……そうだよな……」

 信也は諦観に染まった愛想笑いで応える。そう、違うのだ。自分と獅子王錬司では違い過ぎる。人間としての格というのを感じてしまうのだ。

 だけど。

「なあ」

 いや、だからこそなのか。

「俺でも、なれるかな?」

「あ?」

 望んでしまうのだ。

「俺も、錬司にようになれるかな?」

 自分でもなりたいと。獅子王錬司のような特別に。

 信也の願いを聞いてどう思ったか、呆れるか、嘲るか。信也は言った後で不安になった。もしかしたら怒られるかもしれない、俺と一緒になるなんて図に乗るなと。

 錬司が振り向く。信也は唾をのみ込んだ。

 次の瞬間、錬司が答えた。

「知るかんなもん、やってみれば分かることだろ?」

「!?」

 その言葉は、信也の意識を鈍器のように殴りつけた。

 そうか、やれば分かるのか。

 その当たり前、けれど信也にとっては心臓を撃ち抜く銃弾にも等しかった。

 そう、やってみればいい。目指してみればいい。出来る出来ないは関係ない。無限の可能性を信じて、己の理想に近づいていけばいい。

(なりたい、俺も錬司のような特別に)

 憧れは夢になった。

 いつか、いつの日か、自分も錬司のような特別に。

 諦めなければ道は開ける。自分を信じる心、人間の可能性。

 神崎信也は、特別になるためにアークアカデミアを目指したのだった。



 ビリリリリリリリリ――……ピタ。

「う~ん……」

 信也はベットの上で寝返りを打った。まだ眠気の残る意識でなんとか音源を特定しボタンを押す。

「はぁ……夢か」

 なつかしい夢だった。転校してしまう錬司がまだ中学校にいたころ。信也の憧れの人は夢の中でも輝いていた。

 昨日の自分を思い出す。人間の可能性をクラスから否定されて、なにも言い返せない自分。

「錬司……まだまだお前に届くのは先になりそうだよ……」

 彼なら、いったいどうしていたのだろう。

 そんなことを考えながら信也はベットから起きた。

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