終末デイズ〜終末まで残り24時間〜

HaL

後藤 慎二の章:9

この世界は汚れすぎていた。
十数年前にこの港に来た時には透き通っていた海水も、今では薄黒く濁っており、海面を浮遊している人工物がこの海が人間の手によって汚していることを物語っている。
堤防に腰掛けた俺は少女を隣に座らせる。
ただただ少女は海を。
その先にある沈むことのない夕陽を見つめていた。
この少女は今どんなことを考えているのだろう。
自分が思い描いていた海と、現実で見せられたこの海との違いにただただ戸惑っているのか。
はたまたこの少女はその海に同情しているのか。
あるいは何も考えていないのか。
少女はただただ何かを見つめていた。
俺は車の中から引っ張り出した(何故車内にあったのかは分からない)ウクレレを胸の前に抱くように構えて即興のフレーズを弾き語る。
何も考えていない訳ではなかった。
でも何かを考えていた訳でもなかった。
俺がこの少女と出会い、少しの間であっても一緒にいることで何かを考えることはしていた。
ただ俺はその時の記憶が一切ない。
覚えていたのは俺が歌を歌い続けていたということである。
それ以外は何も覚えていないし、
何も感じなかった。
ひとしきり歌い終えると俺は少女が俺の肩に体重を預けて眠っていることに気づく。
波の音と拙い俺の演奏が子守唄になったのだろう。
いい夢見ろよ。
俺は落ちることなき夕陽を。
週末を告げる存在を目にしながら。
少女の安泰を祈った。


世界終末最後の日。
俺は不幸な少女と過ごすことにした。
いや、正確には不幸"だった"であろう。
男の欲望が渦巻くあの地獄からこの少女は抜け出すことができたのだから。
今ではこの少女は可愛らしい寝息をたてながら終末を迎えようとしている。
全く、呑気なものだ。
俺も、こいつも。
ポロロンという優しい音色がより一層の悲壮感を掻き立てる。
決して童貞を捨てることが出来なかったからではなく、この少女にもっとマシな海を見せられなかったことだ。
もう少し早く俺が来ていたら。
いや、結局俺はそのまま少女を放っておいただろう。
何も見なかったことにして、
いつものスリ稼業に移っていただろう。
地表から一筋の光が放たれて消えていたが、俺がそれに気づくことはなかった。
少女を支えるような形で俺もまたそっと目を閉じて、眠りについた。

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