ホワイト~Contract of her and a dragon~

鹿島みよ

序章 プロローグ

 真っ白な世界には、真っ白な二つの存在。
 小さな白と大きな白。その二つだけが、この世界には存在していた。

「もうすぐだね」

 と小さな白が言った。
 とても喜んでいるように、それでも辛そうに、なんだか切なそうに、やけに悲しそうに、でもやっぱり幸せそうな、そんな声音で彼女は言った。
 その線の様に細い声に応じる大きな白はゆっくりと瞳を閉ざす。

 ——そうね……。でも、貴女はそれでもいいの? 後悔していない?

 大きな白にそう問われ、小さな白は優しく首を振った。

「後悔なんてしてないよ。後悔なんて、したらいけない。わたしはママに救われて、今こうして幸せでいられるから……だから、後悔なんてしちゃいけないの」

 全部、ママのおかげだよ。

 小さな白はそう続けて、大きな白の顔に手を伸ばすと、自分の頬を優しく擦り合わせる。そうしていると、自然と涙が目元から流れ落ちていった。
 小さな白が目を閉じながら言葉を落とす。

「——ありがとう」

 真っ白な世界には、真っ白な二つの存在。
 小さな白と大きな白。その二つだけが、この世界には存在していた。
 しかし、そんな世界でさえもうすぐ終わってしまう。
 こんな小さな幸せでさえも、終わってしまう。

 でも、それでも、これは仕方のないことなのだ。当たり前のことなのだ。
 幸せの後に待つのは、幸せであるはずがないのだ。

 きっとそうだ。
 わたしは幸せを手にしてしまったのだから、こうなってしまうのもしょうがない。
 
 小さな白は、自分に言い聞かせるように大きな白を抱きしめる。

 ——それでもわたしは……。
 ――今は、幸せだ。

 自らに言い聞かせてから、再び涙を一粒だけこぼす。


 もうすぐに、幸せは白へと変わり果てる。

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