詩集

あぷるえ

詩集「過去作」

影は私に問いかける
おまえは今幸せか?
私は口をつぐむ
幸せなのかどうか自分ではわからないから
影はさらに問いかける
幸せじゃないのなら変わってやろうか?
私は迷うことなく断った
なるほど、おまえは幸せか
そういって影は消えていった

右ポケットに手を入れると、古びたおもちゃが入ってた
古びたおもちゃを手のひらにのせてみると、小さい頃を思い出す
左ポケットに手を入れると、新しいおもちゃが入ってた
新しいおもちゃを手のひらにのせてみると、なぜだか嬉しくなる
二つのおもちゃを、それぞれのポケットに戻すと心のポケットが重くなった

夢の中で会った女の子に恋をした
いつもにこにこして、僕のことを励ましてくれる
あるとき彼女は消えてしまった
それでも、僕はいつかまた会えると信じていた
あるとき彼女は消えてしまった
彼女の顔も、笑い声も、すべてがわからなくなった
あるとき彼女は消えてしまった
そもそも女の子などいたのだろうか

あの子は私のやることをつまらないとわめき散らした
あの子は私のやることをおもしろいと褒め散らかした
あの子は私のやることに特に興味も示さなかった
結局、私のやることはどうなんだろうか
私は私のやることの価値を知らなかった

月の光にナイフが照らされる
赤く染まったナイフは柔らかいものを切り裂いてゆく
そのたびに真っ赤に染まっていって
気づくとイチゴジャムがこぼれていた


少女はお月様に問う
お月様、なぜあなたは姿を変えてしまうのと
お月様は静かに微笑んで言った
私が姿を変えるのは人を楽しませるためよ
少女は首をかしげ、目をこすると
明かりの中に消えていった
 
満月の夜、男女二人は酒を飲み合った
女が問う
月と団子どちらをとるか
男は迷うことなく団子と答えた
女は理由を問う
手に入れやすいし、お月様は大きすぎる
そういって、男は酒を飲み干した

菜の花が揺れ、霞が深く
おぼろ月はただ朧気に
ただその美しさに目を奪われれば
酒がこぼれゆく

明るい太陽は
あるときは人に好かれ
あるときは人に嫌われる
人という生物は
なぜこうも我が儘なのだろう
そんな疑問も雨に消える

自転車で坂を下る
左右の道には稲があり
私の進みに合わせてさーっと揺れる
この瞬間ときを味わうことはもうできない
翌年にはもう稲はなく、田んぼすらなかった
ただ、子供のはしゃぐ声だけが聞こえてきた

弟が死んだ
大っ嫌いでいつもけんかばかりして、
ばかだ消えろだシネだ
本気で言ってたつもりだったのに
こうやっていざいなくなったとたんに何も考えられなくなった
考えられないまま私は静かに手を合わせて涙を流した

何気なく家を出て
何気なく歩いて
何気なく挨拶して
何気なく考え込んでたら
何気なくトラックが突っ込んできて
何気なく死んでいた


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