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第166話 #10ep『初級忍者最終試練』(サイカ、マリーナsub)



「そっそれから!?ねーねー!!それからどーなったのっ!」


 船の客室で話すサイカとマリーナの間を忙しなく往復しながら、タリエルが二人に問い詰める。


「えーっとねぇ…あ、そうそうハック君から手紙貰ってたのを思い出して、それをマリーナちゃんに見せたの」

「ん……あ!そうだ、自分で書いていて忘れていたな」


 ハックはファステの街を出発する前に、サイカ達とヤンドに向けて迎えに行くと言う内容の手紙を送っていた。

「あの手紙を受け取ったから、尚更マリーナちゃんの修行を早める必要があったのよ。だから、最終試練と言う形にして、半ば強行だったのよ?」

 サイカも大変だったと身振りで表現する。


「………ん?まて、我々が里に着いた時には10日程会えないと言われたがつまり…」

「そ、正解よカモ君。まさに最終試練の真っ最中だったの。もし1回で合格出来なければ、続いて2回3回と試練を行うつもりだったのだけれど、流石のマリーナちゃんだったわ」

「え、えへへぇ〜ありがとうございます」

 素直にサイカに褒められたので、思わずマリーナの顔も笑みがこぼれてしまう。

「しかしまぁ、あれだけの短期間でここまで戦闘スキルも磨けたのだし、マリーナ嬢は中々に成長を遂げたのだな」

「はいっ!ハック先生の教えのおかげです!!」


 ハックにも褒められてマリーナはさらにご機嫌だ。


「ねーねー!!だから試練終わった後どーなったのさ!」

 タリエルはマリーナ達の物語がどう締めくくられたのか気になって仕方がない。

「一度里に降りてから、里の人達に癒しの施術を受けたの。その後荷物を纏めて出発したのだけど…」

「すっごい事があったんですよ!」


 サイカとマリーナの2人は嬉々としてある出来事を話した。それは、マリーナが試練の際に使っていた拠点の事だ。

 マリーナは里を出発するに当たって、1つ心残りがあったのだ。それは、以前に誰かが作ったとされるあの小さな洞窟をそのまま放置して来てしまっていた事だ。

「たったの1週間程度でしたけど、あの場所を綺麗に片付けてから皆さんの元に行きたかったんです。お陰様で無事に試練を突破出来たと言うお礼の意味も込めて」


 海側の街に行くには、里まで降りてしまってから出発するとかなりの遠回りになる。しかし忍者の修行を受けた今の2人なら、コウロン山を峠越えすれば1日もかからずに抜けられる。

 ならばついでにと、サイカを案内して洞窟を片付けてから向こう側に降りて行こうとマリーナが提案したのだ。

「本当に驚いたのよ。まさかマリーナちゃんがあの場所で練成していたなんて……私、探しても見つけられない場所だったから」


「「「え?どういう事?」」」

「マリーナちゃんが使っていた洞窟…あれは、シゲアキさんが若い頃初級を取る時に使っていた場所だったのよ」


「「「………えええっ!?!?」」」


「里のあちこちに仏像やお地蔵様が置かれていたのは皆さんもう知ってますよね?」

「ん?気にして見なかったが、確かに里には石像が多く置かれていたな?」


 皆はあまり気に止めていなかったが、田畑のあった地域や、集落の密集している街角など、確かに里にはいくつかの地蔵が祀られていた。


「あれは…長老様が全て作られたのよ」

「あんな量を!?1人で!?」

「まぁ、半分は趣味みたいな物らしいけどね。昔から凶作が続いていたから、土地の神様に豊作を願って作られたそうなのよ」

 タリエルはサイカの話を聞いて驚いていた。ハックやカルガモット達も同様である。


「それと…亡くなられたシゲアキ氏とどう繋がるのだ?」


 カルガモットがシンプルな質問を投げ掛ける。


「実はね、シゲアキさんの初級試練。長老様が担当してたんだけど、その内容が地蔵作りだったのよ」

「じ、地蔵だと!?何故にまた?」

「思うに…普段から料理の事ばかり考えていて、忍者としての修行に集中出来なかった息子の事を思って、半ば神頼み的な意味も含めてそのような試験にしたんじゃないかなって思っているわ」

「成程な、そういう事だったのか」

「ん!?」


 サラリとそう言われたが、ハックはある事実に驚きを隠せなかった。


「し、シゲアキ殿は、長老のご子息だったのかっ!?!?」

「「「…………あっ!?」」」

「「え?」」


 ハック達がその事実に驚くのは当然だが、マリーナとサイカの2人もキョトンとしている。


「あれ?!言ってませんでしたっけ?」

「いやいや初耳だぞ!?」

「だってほら、シゲアキさん若い頃からいつも長老様に似て身長の事をからかわれて…」


 そう言ってサイカは遺影を取り出して皆に見せるが、シゲアキの写真は1人しか写っておらず、比較するものが何も写っていなかった。長老はタリエルと大差無い程の身長しか無かったのだが、どうもシゲアキも背の低い人物だったらしい。


「あら?そういえばそうね?」


 改めてサイカも写真をまじまじと見つめる。


「確かに長老様は背が低い人だと思っていたが…」

「シゲアキさんに会ったことなんて無いから分からなかったよ!スイエンさん見てたせいで勝手に高身長イケメン忍者に脳内変換されてたよ〜」

「確かに、そんなイメージだった」


 タリエルとアンジェラがそう言うと、他の皆も確かにと頷く。


「私は昔から知っていましたけど…例えば、良く身長の事で幼なじみのスイエンさんと比較されてたって話を聞いていましたので…」

「なるほど!つまり長老殿から見るとマリーナ嬢は育ての孫?に、当たるのか。これはややこしいな」

「そういえば長老、マリーナ『ちゃん』って呼んでた」

「おぉ、流石だなアンジェラ殿。その点に気付くとは」

「別にこのくらい普通だしっ!!」フンスッ


 後出しではあったがハックに褒められてアンジェラも上機嫌になった。


「して女忍者サイカよ。シゲアキ氏の訓練場所を見つけられなかったと言うのは?」

「前に里に来た時は身重の身だったし、今回もマリーナちゃんに付きっきりだったからね。一応そう言う場所があるって言うのは知っていたけど、具体的な位置までは把握出来て居なかったの」

「だから、サイカさんをあの洞窟の場所まで連れて行った時に……突然、泣き崩れてしまって」


 サイカはもう一度遺影を取り出し、涙を浮かべながら話す。

「私が…育ての娘に敵として対峙しなければならない立場にあるのを、きっと不憫に思ってくれたのよ、シゲアキさん。マリーナちゃんを…守ってくれていたのね。あなた」

「わ〜〜!すごーいこんな話聞いたら感動して泣いちゃうよ〜」ウルウル

「確かに奇跡としか言い様の無い話だな」

「洞窟にあった小さなお地蔵様は、サイカさんから是非と言う事で貰ってきました」


 そう言うとマリーナは荷物から地蔵を取り出して皆に見せる。握りこぶし程度の大きさだが、優しい顔をしていた。

 すると突然、今度はサイカが泣きながら吹き出し始めた。


「ぷっ…ごめんなさい。どうしても思い出しちゃうわ。洞窟脇の岩壁に作られてた他の仏像とは全然違う顔つきだから」

「え?どーゆー事?」

「ほら、シゲアキさんって少し見栄っ張りな所があるでしょう?長老様から仏像作りなんて出題されたものだから、わざと大きい物を作ろうとしてたみたいなんだけど……と、届かないから…肩より上の部分がかなり雑な作りで…うふふ、あはははは。この小さいお地蔵様だけが……丁寧な作り込みなのよ!」

「「「ぷっ…あっはっはっは!」」」


 皆、涙を溜めて笑った。とても美しい話に大いに感動し、泣いて笑った。


 シゲアキと言う、既に亡くなっていてこの先絶対に会えない人物。だが、彼が居なければ、ここに居る皆がこのようにして笑い合う事は無かった。十数年に遡る、彼と彼等の冒険者パーティが残した功績が無ければ、今のこのパーティは編成されていなかっただろう。


 古い、懐かしい友人の様な感覚で、彼の遺影を皆で見ていた。



「さて、船がこのまま予定通りに進めば、ついに明日の朝には我々の最後の仲間であるヤンド殿の寺院に到着する」

「元気にしてるかな〜。ヤンド、マルたんに負けないぐらいスケベーだから、けしからん〜とか言って変な事してなきゃ良いけど」

「ヤンド……どれだけ強くなっているのか、会うのがとても楽しみだ!」

「ソラスタでの一戦でも痛感したが、やはり規格外の戦闘力を持つ戦士ヤンドの存在はかなり大きい」

「早くヤンドさんに会ってお礼言いたいです。ソロパーティの時の話のおかげで最終試練がかなり助かりました」

「うふっ、ヤンド君、ちゃんとご飯食べてるかな。1人で無理して無ければ良いけど」


 皆が口々にヤンドを思い彼を心配する。そして、ヤンドと合流したならばその時、ようやく勇者○○を探す旅に出発出来るのだ。



 彼等の冒険は、まだまだ続く。



第166話 サイカ、マリーナsub END






楽しみにして頂いた皆様、この話を書くだけに10ヶ月以上掛かってしまった事を、深くお詫び申し上げます。補助席

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