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第159話 #3『初級忍者最終試練』(サイカ、マリーナsub)




 今から約1ヶ月前に、ヒガンの里に無事に到着したサイカとマリーナ。


 その次の日から、ニンジャとしての過酷な修行が始まった。
 
 まずは初歩的な武器の扱い方。次にモンスターとの対峙した時の対処法。ニンジャとしての基礎体術。

 目まぐるしく変わる毎日の修行に、マリーナはがむしゃらに邁進して行った。

 ただ、何をやるにも全くの未経験であるマリーナにとってはむしろ好都合だ。何にも染まっていないと言う事は、反対に何にでも染まりやすいと言う事。スルスルと覚えて行き、あっという間に一端の駆け出し冒険者並の戦闘力までに到達する事が出来た。これも、勇者○○に着いてきて色々な物事を経験していたお陰に他ならなかった。



 3週間目に突入したある日、いつもに比べては軽めの修行内容を終えてマリーナはひとり、長老の館に呼ばれる。


「さて、マリーナちゃん」

「はい!長老さま!」


 里の者達ともすっかり打ち解けたマリーナ。当初はスイエンが里以外の者にニンジャの修行は受けさせたくないと突っぱねて居たものの、サイカが義理の娘として連れて来たマリーナを長老がいたく可愛がり、里の公認となったのだ。


「ついに明日から、初級の最終試練が行われる。今日の修行はこれくらいにして、明日からの山篭りに備えなさい」

「最終試練……一体どんな内容なのですか?」

「それは、明日になってのお楽しみじゃ。そうそう、教育師範のサイカには試験が始まるまでは会えぬのでな」

「え!?サイカ師匠に?は、はい」


 修行中、サイカはマリーナの教育師範として、寝食を共に付きっきりで監督を務めてくれた。里に着いてから辛い時も、苦しい時も、後ろで支えてくれたサイカに急に会えないと言われるのは、なんだか不安な感覚がした。


 マリーナが不安な顔をしているのに長老は気付き、アドバイスを与える。


「なぁに、今まで学んだ全てを活かせば、最終試練には無事に合格することが出来る。明日からは数日山に入る事になるので、そのつもりでいるようにな」

「分かりました!」

「よろしい、では下がっておれ」

「はっ!!」シュッ



 初歩的な体術を身に付けたマリーナは瞬間的に移動する技術を身に付けた。それを見て長老は満足そうに髭を触る。


「うぅむ。流石はサイカの教え子」


 館の窓から、夜空に輝く星の様に流れ続ける更新プログラムの羅列を見て、長老は思う。


「サイカの娘、ユイは産まれてすぐに天に登った。そして、その後に彼女の元へ来たマリーナちゃん」


 悲しそうな目をする長老。


「生まれ変わり……と、思うのはおこがましいのだろうが…運命であるのは変わりないのだろうな」


 この先の2人の行く末を案じて、長老は最終試練が無事に終わる事を願った。









──翌日


 コウロン山の中腹にある祠。その大きな鳥居の前に、マリーナは居た。


 祠では長老とスイエンが初級忍術の最終試練を行う為の儀式を行っている。ヒガンの里に眠る先人の英霊に、安全祈願をするのだ。



「………よろしい。願いは聞き入れられた。これより、初級忍者最終試練を執り行う」

「ハイッ!!」


 マリーナは気合いの入った返事をした。一通り山篭りに必要な資材はカバンに詰め込んできた。後は出された課題にポテンシャルを注ぎ込むだけ。マリーナの瞳には決意が込められていた。


「ではまず始める前に、遵守しなければならない事項を説明する。スイエンよ」

「はっ」


 長老に促され、いつもより厳しい表情のスイエンがマリーナの前に1歩出る。


「試練を目指す者は何人足りとも、鳥居より前に出たならば、試練が終わるまで鳥居の下に降りてはならない。試練を打破する覚悟がある者だけが鳥居を潜れ」


「………。」スゥッ



 無言のまま、大きく深呼吸をして、マリーナは鳥居を潜った。


「………よろしい、覚悟のある者よ。その覚悟に見合った良き戦いぶりを見せることを期待する」

「……はい」


 スイエンは、最終試練を戦いと言った。試練の内容は戦闘だなと、マリーナは頭の中で当たりを付けていた。



「では、『最終試練の対峙者』よ、前に出よ」


 長老のその言葉を受けて、スイエンの表情が変わった。いつもよりも鋭い目付きになり、マリーナの前に立つ。マリーナは、スイエンが相手だと試練が始まる前から思っていた。


 何故なら、スイエンだけはマリーナが修行を始める事に異議を唱えていたし、彼が自分の技術レベルを推し量るのは当然の事だろうと考えていた。

 しかし、想像はしていても緊張は緩まない。何故なら、現段階で里の最強ニンジャが試練の相手である。下手をすれば、大怪我所で終わらないかもしれないからだ。


 額から一雫の汗が流れ落ちる。


 マリーナは精一杯全力で尽くす事を誓うために、スイエンと握手をしようとする。




…が。


「……何をしている?」

「………え?」



 スイエンはマリーナが出した手を握る事はなかった。


 失礼な人だな、と、マリーナが思った瞬間。







  ……ぞるり



「ひいっ!?」




 何か、まるで『鎌』の様な……


 歪に湾曲した刃物、見るだけで背筋が凍るような殺しの武器。



 そんな物が、自分の後ろ側から首筋に宛てがわれる。まさにそのような幻覚さえ見せる恐ろしい殺気をマリーナは感じ、一瞬で動けなくなった。





「……ねぇ、マリーナ?あなた……鳥居をくぐったのよねぇ?そんな呑気で大丈夫??」


 全く気配など感じなかった。いつ現れたのか全く分からない。


 だが、実際にそれは訪れた。明確な死すら感じる殺気を放って、『対峙者』はすぐ後ろに出現した。




 マリーナはギュッと目を瞑りたくなるのを、ぐっと堪えた。そして、その聞いたことある声の主を、確認したくは無いが見るしか無かった。



 ゆっくりと振り返る。



 後ろに居たのは、シノビとして完全武装した、『現役時代のままのサイカ』だった。





第159話 END

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