NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第149話 #9『セントレーヌの涙』




 バサァッ!!

「うえっく!げっほごっほ!!」ペッペッ


 砂の中から起き上がり、大量の砂を吐くアンジェラ。

 アンジェラは馬車が横転する直前に投げ出され、ひとり馬車から離れた所の砂浜に突き刺さっていた。

「くっっそ!!口の中も鎧の中も砂だらけだ!!」バサバサ


 鎧の間に詰まった砂を取り除き、髪の中にまで入り込んだ砂を両手で乱暴に掻き出す。


「痛ってぇなぁ〜もう!」

 アイテムバッグから回復薬の瓶を取り出すと、何と豪快にその回復薬でうがいをして口の中の砂を吐き出した。


「……で?どうなった??」キョロキョロ



 辺りを見回すと少し離れた場所でハックとカルガモットがディープ・ブルーと戦っている姿が見える。

「おし!あそこだな!!よっと!」

 回復薬の空き瓶を投げ捨て、剣に手を当てながら走り出すと…



「アンジー!!ちょっと!先にこっち来て!!」

「ん?なんだキャッシュグール?」


「手伝って欲しいの!助けて!!」



 タリエルに呼ばれたアンジェラは先に横転した馬車に向かう。



「あちゃー派手にコケたな。どうした?」

「馬車の下に漁師さんが何人か居るみたいなの!起こすの手伝って!」

「何!?わかった!行くぞッッ!!」

 無事だった何人かの漁師と協力して、馬車を起こそうとするがビクともしない。

「うぁぁっぐ!!クソッ!!」

「アンジー頑張って!!」


 流石のアンジェラでも、人力で馬車を起こす事は不可能だった。



「「うはぁっ!ダメだ!!」」


 一斉に手を離し、肩で息をつく漁師とアンジェラ。


「何か…なんかこう、バフをかけられる奴は居ないか??もう少しで起こせそうだぞ!」

「って言っても…」


 ハックは必死に戦っている。彼であれば、攻撃力を増すバフの1つでも魔法でかけられるだろう。


 しかし今はその余力が無い。むしろアンジェラだって、この状況を何とかして戦闘に加わらなければならないと焦る。

「おい!冒険者のねーちゃん!これはどうだ??」


 漁師の1人が液体の入った瓶を取り出す。

「これは??」

「酒だよ酒!漁師が航海中に気合い入れるための香辛料を使ってるんだ!」

「酒!?そいつはいい!!」

 漁師の腕からその瓶をひったくるアンジェラ。


 一気に飲み干すのかと思ったが、アンジェラはその瓶を見つめながら何かを考えていた。


「アンジーどうしたの!?早くしないと下の人潰れちゃうよ!」


「いや……まてよ?」


 ガサゴソとアイテムバッグから数種類の薬草を取り出す。その中には、ヒガンの里で貰った仙薬も含まれていた。


「……よし、コイツらを調合する!」

「「えぇぇ!?」」


 アンジェラが取り出した物のほとんどは、飲用として使えそうも無い劇薬に使う薬草だった。


「ちょっと!そんな事してどうするのよ!?」


「教わったんだ!ファステでスケアガーゴイルのマスターにお茶の作り方!!それを応用してみる!!」

「お茶って!それお酒でしょ!?」

「飲めればなんでも一緒だよ!!」


 タリエルと漁師達が止めるのも聞かずにアンジェラはそれらを次々に調合していき、最後に酒をドバッと掛けて混ぜ合わせる。


 辛味の薬草が多めに入っていたので、酒の色は真っ赤になってしまった。

「よし、飲む」

「だぁ!ちょっと待って!どう見てもそれヤバイってアンジー!!あぁ!!」


 なんの躊躇も無く、アンジェラはそれを飲み干した。











「………大丈夫?」







「うっ」




「ねぇ嘘でしょ!?」




「おっ」






「……えっ?」


「おおおっ!!」


 アンジェラの全身がどんどん真っ赤に染まって行く。いつぞやの地下格闘場でカルガモットに『怒りのぶどう酒』を飲まされた時の様なオーラが全身から吹き出した。



「ぐぉぉぉおああぁぁ!!」


 まさに湧き上がるパワーを抑えきれないといった表情で、叫び声を上げるアンジェラ。ドン引きする漁師達を跳ね除けて、1人横転した馬車に手をかける。


「ふんぬぅぅうぐぅぅうう!!」

 グラッ…


「す、凄い!アンジー頑張って!」

 見ていた漁師からも歓声が沸き起こる。

 しかし、少し動いた所で馬車はまだまだ起き上がらない。


「ぬぅぅぅぐぅぅあああ!!」



ガラ…

 グラグラッッ


 アンジェラの腕や顔には、太い血管が浮き出ている。目は完全に血走っていて、鼻からは鼻血が垂れていた。



「るぅぅうりぃぃやぁぁあ!!」



ガオンッ
ドダァァン!!


 なんとついにアンジェラは1人で馬車を起こしてしまった。


「すごーい!!流石アンジー!!」


 タリエルはキャッキャと喜ぶ。馬車の下敷きになっていた3人の漁師が這い出て来る。



「す、すげぇな冒険者って奴は…」

「ありがとう!助かったよ!!」


「うっへへ、なーに、どうって事……ねーよ……」ドターン!



 全力を使い果たしたのか、それとも先程飲んだ酒の効果が切れたのか…

 アンジェラは倒れてしまった。


「お!おいおい大丈夫か!?」


 先程助けた漁師に、今度はアンジェラが介抱されてしまう。


「……ん?あっ!!」


 そしてタリエルは、馬車の下敷きになっていたもうひとつの物を見つけた。











「ぐっ…はぁ、はぁ、はぁ……」

「ゴホッ!ハァハァ」


 ディープ・ブルーと接近戦をしてるハックとカルガモットは消耗していた。


 ディープ・ブルーは最後の悪あがきに、身体中に生えている小さなトゲを飛ばす攻撃をしてきた。


 しかもそれをカウンター代わりに、攻撃されたタイミングで飛ばしてくる。1本2本なら何とか回避出来るものの、全身から飛ばしてくるので払い落とすのにも限界がある。


 なおかつ、カルガモットが攻撃するとハックの方にもトゲを飛ばしてきた。これでカルガモットも迂闊に攻撃が出来なくなっていた。


「はぁ、はぁ。錬金術師、あの『羽』のスキルはまだ使えるのか?」


「うむ…あと1回。それも1秒程度なら展開可能だと思う。魔法にしたら1回分は効果を上乗せして放てるだろう。だが…」


 カルガモットもハックも分かっていた。今のディープ・ブルーに一体どの魔法を放つべきか?そこに頭を悩ませていた。



「うかうかしていると奴も新たな攻撃手段に「危ないッ!」」



 ディープ・ブルーの額に生えた新たな黄色いトゲ。そのトゲから稲妻魔法を放ってきた。カルガモットはハックを庇い、直撃を受けてしまう。




「グアァッ!!くっ!ヤツめもう魔法を使えるまで回復したのかッ!!」


「カルガモット殿!大丈夫か!?」

「この程度のダメージならまだ戦える!しかし…時間が足りないな。どうする…ん?」



 遠くから聞こえる、何かの音。



ドシン…

 ドシン…


「来たぞ…チャンスだ!!」

「あぁ!それまでは持ち堪えて見せるッ!」


 再び戦意を取り戻す2人。遠くからこちらに近付いてくる、『最大のチャンス』を狙って。












「ふぅ、やっと上陸出来たわね」



 岬の上から、その姿を見て一安心するリディ。


 『アンコラー・ディ・ラクリマ』を放った衝撃で足場が崩れて海に落ちてしまったのだが、自力で浜まで戻って来られた。



 ─ウィンダム・ウィズダムが、肩にセントレーヌの涙を担いで歩いて来る。ディープ・ブルーを目指して。


「…まぁ、極力はNPC達に自己解決させるべきなんだろうけど」


 ゆっくりと、柔らかい砂浜を歩き続けるウィンダム・ウィズダム。


「今回ばかりは私としても見過ごす訳にはいかないからね。頼むわよ」




\ゴーン/


 鐘の音のような音を響かせて、一切の迷い無く、最短距離で歩みを進めるその巨躯の重戦士は、武器の射程圏内に入るその時を待ってただひたすら歩き続けた。



第149話 END

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