NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第143話 #3『セントレーヌの涙』



「なるほど…それで、どうなったんだ??」

「うむ、周辺に異状が無いか確認してから船内の探索に入ろうとしたのだが…その時、船の中から『アイツ』が現れた。」


 皆は遠くの海で石化を繰り返すモンスターを見つめる。

「あまりに突然だったので、完全に奇襲を食らってしまった。…が、ナユ殿が身を呈して助けてくれた。」

「ナユルメツは??どこ行ったんだ!?」

「奴の攻撃から庇ってくれたのだが、その代わり肉体を破壊されてしまった。今は海の底だ。」


「「「なんだって!?」」」


 それを聞いて焦る3人。

「沈み際に、時間さえ経てば肉体を取り戻せるという事を言っていた。ナユ殿なら自力で何とかするだろう。」


「そ、そうか。しかし…」


 カルガモットは腕を組んで渋い顔をする。アンジェラも同じだった。


「このパーティーで最も強いメンバーと言われたら、間違いなくあの魔人ナユルメツだ。それを一撃で葬るとは…」

「勝てる見込み…あるか?この勝負?」

「クッ……素手の凶戦士ベア・セルクや女忍者が入れば何とかなったかも知れないが…こんな時に使い捨て出来るニセ勇者は何処に行ったんだ!!」

 カルガモットが悔しがる。

 確かに、カルガモットとアンジェラがいくら接近戦に長けていても、相手が悪かった。タリエルはまだ投擲系の武器技術を習得中ではあるが、たとえそれが完璧にこなせていたとしても距離が足りない。そして遠距離攻撃に秀でている頼みの綱のハックは身体が動かない。



「む、無理だよ……あんなの勝てっこ無いよ!!」


 リトルがそう叫ぶと、カルガモットは怒りを顕にする。

「簡単に、強敵が現れたからと言って匙を投げる者が、勇者を名乗る資格等無いッッ!!」

「だ!だって!!」ビクッ

「もういい、少年。お前は帰れ。」



 実際、リトルが役に立てることは無かった。カルガモットが帰れと言ったのは、この戦いに巻き込ませない為のせめてもの情けだと、その場にいた誰もがわかっていた。



「………だが、仕方が無い。今回ばかりは私も剣を納めなくてはならない。」

 湾内を見て、カルガモットは剣を仕舞う。


「カルガモット殿!一体どうするつもりだ!?」

「なに、逃げると言っている訳では無い。『武器を持ち変える』だけだ。」


 そう言うとカルガモットは、馬車に積まれた資材箱を漁る。馬車の修復用に取っておいた素材アイテムである『木材』を取り出す。


「カモ領主、それで何するの?」


「…誰か、アイテム作成のスキルに長けている者は居るか?」


「「えぇ?」」


 カルガモットはテキパキと手を動かし、木材を使って…



 『木の槍』を作り出した。



「ど、どうするのよそんなFランクでもかなり下級の武器!」

 タリエルが心配そうに見つめる。


「見てて下さいチリードルさん。少し離れて…」


 そう言うとカルガモットは木の槍を装備すると、岬に向け駆け上がり、そこから更に助走を付ける。



「そぉぉい、でりゃぁぁあ!!」


ビュンッ!!



 なんと、カルガモットは岬から湾内の中心に向けて、木の槍を『投擲』した。物凄い勢いで槍は飛んで行き、モンスターの頭部に突き刺さる。


「すっご!!やるなぁカモ!!」
「ここから当てられるのっ!?」


 アンジェラとタリエルが関心する。カルガモットは手首をクルクル回して手応えを感じていた。



「さぁ…攻撃手段は見つかった!皆!大急ぎで『槍』を作ってくれ!!」


「「おぉー!!!」」

 アンジェラとタリエル、そしてカルガモットが即席の武器を作り始めた。





 岬から1度離れた一行は、大慌てで木材の調達を繰り返す。

 タリエルは他のメンバーよりもアイテム作成スキルに長けていたので、タリエルが槍を作る事になった。アンジェラは斧を装備し、片っ端から木を切り倒す。

 しかし海岸の周辺には余り木は自生しておらず、直ぐに材料不足になっていた。


 皆が慌ただしく準備している中、リトルは1人オタオタと右往左往している。

 冒険者ですら無いリトルは、アイテム作成スキルすら持って居なかったのだ。


「何をしているッ!!」

 カルガモットがリトルに喝を飛ばす。

「戦えない者は帰れ!!居ても邪魔になるだけだッ!!」



「で、でもっ!!!オレだって!!」

「うるさい!貴様に何が出来ると言うのだッ!?」


「うっ……くっ!!」

 悔しがった所でリトルに出来る事は無い。その隣を、斧を背負ったアンジェラが小脇に丸太を担いで通り過ぎる。

「カモの言う事を聞け、小僧。」

「でもっ!」

 リトルの言葉を最後まで聞く事無くアンジェラは通り過ぎる。

「おいカルガモット!ここは木材が少ない、少し離れるが向こうに竹林を見つけた。竹の槍でも大丈夫か!?」

「槍のカテゴリーであれば問題無い!頼むぞ戦士アンジェラよッ!!」

 カルガモットは顔も向けずにそう答えて、持ち運ばれた丸太を木材に変える。


「……っ!!チックショォオ!!
覚えてろよォ!!」ダッ


 リトルは泣きながら走り去ってしまった。



 その後ろ姿を、不憫そうに見つめるタリエル。

 彼女は余り戦闘の面ではパーティーの役に立てる機会が少なかったので、リトル少年のやるせなさが良く分かった。


「…チリードルさん。これは彼の為でもある。戦闘に参加出来なければ、この場から一刻も早く逃げるべきだ。」


「……分かってる。わかってるわよォ!!」


 タリエルまでもが悔しい気持ちになりながら、黙々と木の槍を作成して行った。







 あれから小一時間程経ち、辺りはゆっくりと夕暮れに近付く。


 海岸のあちこちには木や竹で出来た槍が突き立てられており、その先端にカルガモットがいた。


 海洋のモンスターはと言うと、そろそろ石化の動き封じが限界を迎えていた。


「……よし、奴の石化が完全に解けたら攻撃開始の合図とする。良いな?」

「「おうっ!」」

「戦士アンジェラは相手の魔法攻撃を陽動してくれ。斬撃は繰り出さなくて良いので、とにかく奴の周りをうろちょろして欲しい。」


「よっしゃ!!」

「チリードルさんは、まだ制作途中の槍をどんどん仕上げて行って、均等に配分して欲しい。配置場所はそちらにおまかせする。」

「任しとけぇっ!」


「今の所、奴に決定打を打つ算段は経っていないが…弱点を見極めて、効果的な手段をその場で選ぶ。では…」


 海の中心から人魚達の悲鳴が聞こえ、一目散に逃げて行った。セイレーンの唄がついに効かなくなった様だ。


「行くぞぉ!!」





 動き出したモンスター目掛け、カルガモットの第1投目が放たれる。


 槍はタコモンスターの左のこめかみ辺りに突き刺さり、血が出ている様に見られた。


「くっ…!!この距離で木の槍ならば流石に2桁ダメージが関の山か。しかし手数さえ撃てば弱らせるのは充分可能だっ!」


 即席のカルガモット砲台が、次々に槍を放って行った。











「うぅ…クソッ!やはり動かん。何故だ?」


 ハックは1人、海岸よりももっと後方に下げられた馬車の中に横たわっていた。

 ちょうど馬車が隠れるぐらいの岩場の後ろに配置された為、海岸の様子はそこから伺う事は出来ない。

 …最も、身体の動かせないハックには例え岩場が無くともそれを見る事は不可能だった。


「何故だ…?あの時、船の破片が飛んできた時、残骸の他に船の中の色々な物も一緒に投げつけられたが……」


 ハックには思い当たる節が無かった。何故なら、真正面から残骸を投げつけられたので、別段首や背中等の人体の大事な急所にはダメージを負っていないのだ。

「咄嗟に腕で庇ったはものの、良く見えなかったが黒く大きい塊のような物が飛んで来て、それがぶつかった途端に気が一瞬遠のいた。……羽が解除されたのはその時だろう。」



 そこまでは明確に覚えているが、その後が思い出せない。一瞬の出来事の後にハックは墜落し海に落ちた。



 ─その時




ドスン…

 ドスン……


「ハッ!?」


 何かは分からないが、『巨大な何か』がこちらに近づいて来る音がする。それは明らかに人が歩く様な音では無かった。


「し、しまった!海のモンスターに気を取られて、野生のモンスターの事を失念していた!!」



 ドスン…

  ドスン……


「どうするっ!?この近くには誰も……」

 たとえそれが低級なモンスターであっても、今のハックに取っては死活問題だ。

 指先1つ動かせないハックは、その音が近づいて来る方向を見る事すら出来ない。




 ドスンッ

  ドスンッ


\ゴーン/


「き、来たッ!!」


 まるで『鐘の音の様な鳴き声』を上げて、その何者かは馬車を覗き込む。










「……ねぇ、何やってるの?」

「うわぁぁぁ!!……あ?その声は……リディか!?」




 近づいて来た足音…『ウィンダム・ウィズダム』から飛び降りたリディ(蕗華)が、ハックの顔を覗き込んだ。


「何だか海の方が騒がしいみたいだけど…ねぇ、またあなた達ひと騒動起こしてるんじゃ…」

「リディ殿!助けてくれ!!」

「何よ急に助けてなんて…なんでこっちを見ないのよ?」

「か、身体が動かせない!!もしかしたら打ち所が悪かったかも知れないのだ」

 それを聞いて、リディはため息を付く。


「……あのね、ゲーム世界の住人であるアナタに打ち所なんてある訳無いでしょう?どうしたの?」


「う、海の中から現れたモンスターが…そうだ!皆は無事か!?」

「みんな?近くには誰も居ないわ。この馬車の現在位置を追ってここに来たんだけど…」

 リディは注意深く辺りを見回したが、誰も何も見つからなかった。


「この岩場の後ろにある海に居るはずだ!済まないが、連れて行ってくれないか!?」


「……あのねぇ、何回も言ったけどあんまり私を宛に「頼むッ!!」」



 ハックが余りの剣幕でそう言ったので、リディはたじろいだ。

「……わ、分かったわよ。連れてけばいいんでしょ?」

 ヒョイとウィンダム・ウィズダムが先程までリディが乗っていた肩にハックを担ぐと、海岸に向けて歩き始める。



─ ─ ─ ─



「久しくアナタ達と行動して無かったけど、一体何があったのよ?」

「我々にも分からない。海の中を探索していると見た事の無いモンスターが現れて…」

「はぁ!?海の中ぁ??そんな所探索出来るようにこのゲームは出来て無い……あ、いた!」





 リディがカルガモットとタリエルを見つける。


「なんなのこれどうしたの!?海の上がゴミだらけじゃない!!」


 すると、今度はカルガモットが『何も無い』海に向けて槍を放つ。それを見てリディが止めにかかる。



「ちょっと!!何やってるのよ!!海に物を投げないでちょうだい!!後からそのアイテムデータ削除するの私なのよ!!」


「うぉ!!こ、これはリディ氏!いつの間にこちらに!?」

「魔女っ子!!コイツなんなのよ!!」

 カルガモットは驚いて、タリエルは怒っている。リディには何が何だか分からなかった。


 そこに、瓦礫の破片を飛び渡ってアンジェラが帰ってくる。


「ダメだアイツ!!海に潜って出てこなく…リディ!!」

 驚いた後、アンジェラは久しぶりに友達に会えて安堵の表情をする。


「潜るって?何が居るのよ?」


「タコ!」「タコだタコ!!」「タコみたいなモンスター!」「謎の海洋生物が…」



「だぁ〜っ!!ちょっと!一変に話されても訳が分からな……」



 ザパァン!!




ギュォォオオオォォオオ!!!





 カルガモット達の攻撃が止んだので、海洋モンスターが海面に浮上した。


「で、出た!アレよアレ!!魔女っ子……えっ」




 そのモンスターを見て、恐ろしい程に驚いているのはリディだ。




「……うそ。………なん、で?…え??」


「リディ、知っているのか??」

 ウィンダム・ウィズダムに担がれたハックがリディに聞く。





「なんで……『ディープ・ブルー』が……どうして居るの!?削除した筈なのに!?アレは存在しないモンスターよっ!!」


「「「な、なんだと!?」」」




第143話 END

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