NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第142話 #2『セントレーヌの涙』




 湾内に突如現れた海洋モンスターは、恨みでもあるかの様に航海船を粉々に砕く。触手で掴んでは投げ捨てるを繰り返し、海の上は船の瓦礫でいっぱいになった。


「どうするっ!?この瓦礫じゃハックを探しに行けないぞ!」

「待て待て戦士アンジェラよ!たとえ船が出せてもヤツに捕まるのがオチだ!」

「じゃあ、アイツがコッチに来るまで何も出来ないのっ!?その前にハックさんも私達も全滅しちゃうよ!」




 ギュォォオオォオォオォ!!




 謎の海洋モンスターは雄叫びを上げる。頭に生えた棘のうち、黄色く飛び出した物から雷が放たれる。


 海はさらに荒れるばかりだ。



「クソッ!!……そうだ!魔人ナユルメツは居ないのかっ!?」


 確かに言われて見ればそうだった。海面に現れて戦って居たのはハックただ1人だった。


「わかんないよっ!もしかしてやられちゃったの!?」

「こんな時に頼れる奴が……あぁもうもどかしい!」ジャキン

 アンジェラがたまらず剣を抜く。


「何をする気だ戦士アンジェラよ!」

「決まってる!ガレキの上飛んでって奴に近寄る!!」

「馬鹿な!海の上だぞっ!」

「一方的にやられんのはッ!性にあわねーんだよぉ!!」ダッ

 アンジェラはたまらず海の上に向かって走り出した。



 2つ、3つと跳躍しながら海の上を渡ろうとするも、ガレキが思うように無く、直ぐに足止めされてしまう。



「チックショォオ!!かかってこいよバケモノォ!!」


 アンジェラの咆哮は、荒れた海に虚しく響き渡った。



「何やってんのよ…こんな時に何やってんのよ!!マルたん!!仲間が困ってるんだよぉ!!」




 タリエルは。泣きながら勇者〇〇の名前を叫ぶ。


 それを見てカルガモットが思い付いた。


「勇者…ゆうしゃ……そうだ!人魚の諸君!我々を奴の近くまで連れて行ってはくれないか!?」



 カルガモットに話しかけられた人魚は、困った顔でそっぽを向いた。


「頼む!我々が乗ったガレキを奴に近付けてさえくれればいい!手伝ってくれ!」


 どの人魚も、くらい顔で俯いた。




「何やってんだよ!騎士の兄ちゃんが頼んでんだろ!!連れてってやれよ!!」


 煮え切らない態度の人魚に対して、リトル少年が怒鳴った。




 ……すると。



「……わかったわ、リトルが言うなら人魚はそうするわ。」



「……え?」


 何人かの人魚が海に飛び込んだ。すると、アンジェラが乗っている船の残骸は少しづつ前に進み始めたのだ。


「な、なんでお前ら、オレの言う事を?」



「人魚を救えるのは『愛しの勇者』だけなの。だから人魚はリトルの言うことに従うわ。」


 カルガモットもタリエルも、そしてリトル少年も首を傾げる。でも事実は変わらない。


 ─何故かは知らないが人魚は、勇者を名乗るリトルの言う事は聞くらしい─




「理由は分からんが助けてくれるならなんでも良い!私も行くぞっ!!」


 カルガモットも剣を抜き、1番手近な船の残骸に飛び移る。

「リトル!頼む!!」


「わ、わかった!おい人魚達!!騎士の兄ちゃんと戦士のねーちゃんをアイツの所にまで連れてってくれ!!それから…」


 リトルは飛び散った残骸の方を睨む。


「あっちに落ちた魔法使いも連れてきてくれ!!」


「わかったわ、リトル」
「愛しの勇者、私達を助けてね!」




 残りの人魚も全て海に飛び込んで行った。














 アンジェラとカルガモットは、海洋モンスターに何度か切り掛る事に成功していた。人魚達は海の中で人が飛び乗ってもビクともしないような瓦礫を集めては、モンスターの近くに配置する。

 2人はそれに飛び移りながら、あるいは直接人魚に押してもらってモンスターに近付く。


 しかしそれも無駄に終わってしまった。斬撃を触手に与えても、みるみるうちに再生してしまうのだ。


「こんなふざけた話があるかっ!これ程に巨大なモンスターが、『自己再生』のスキルを持っているだと?」

「どうするよカモ!あんまり同じ所に居るとコイツ、雷の魔法を打ってくるぞ!!」

「……仕方ない、一旦距離を……お?」


 浜辺から手を振るタリエルとリトル。そのすぐ近くには倒れているハックの姿もあった。どうやら無事に見つかった様だ。


「よし、1度浜辺に戻って体制を立て直そう!人魚達!リトルの所に連れて行ってくれ!!」

 2人の乗った残骸は、凄まじい勢いでモンスターから離れていった。



─ ─ ─ ─





ザパンッ!!



「おい!錬金術師!!無事か!?」

 浜辺に戻った2人はハックの元へ駆け寄る。



「あぁ…カルガモット殿、心配を掛けてしまって済まなかったな。」


 ハックは浜辺に寝転んだまま、そう答えた。


「……ん?怪我しているのか?ハック??」

 その姿勢に違和感を感じてアンジェラが聞く。


「ハックさん、身体が全く動かなくなったんだって!」


「「なんだとっ!?」」

 カルガモットが慌ててハックを抱き寄せる。


 表情や顔は動いて意識はあるものの、腕や足は力なくダランと垂れ下がった。

「おい!回復は!?誰か薬か回復魔法を使える者はっ!?」


「いや、どうやら違うらしい。」

「何故だ!どうしたんだ錬金術師!」

「魔法使いの兄ちゃん、人魚に回復魔法を掛けてもらったんだけど…」


「どうやら、打ちどころが悪かったらしい。指1本も動かせないのだ。」



 そう答えるハックの話を聞いて、アンジェラは怒りに任せて砂を蹴る。


「ステータス的には異常になっていない。しかし…どうも身体が言う事を聞かんのだ。頼りにならなくて申し訳ない。」

「気にする事は無い!…しかし、どうしたものか」


 依然変わりなくモンスターはこちらに向かって来ている。


「よし、先に錬金術師を安全な場所へ……」



「ちょっと待って!!」



 それを制したのはリトルだった。



 何やらリトルは人魚達とヒソヒソ話をしている。



「………出来るんだろ?」

「でも…どこまで効果があるのか分からないわ。」

「試して見てくれよ!お願いだから!」


「……わかったわ」

 人魚達は顔を見合わせると、一斉に海に飛び込んだ。


「何をさせるつもりだ?奴には生半可な攻撃は…」

「足止め、出来るかも知れないんだ。」


「「「えっ!?!?」」」





 人魚達は遠巻きに円を描くようにして、モンスターを中心に集まった。



 そして、一斉に歌い出した。




ギュォォオオォオォオォ!!!!





 …すると、モンスターの動きが止まった。




「これは…『セイレーンの歌』か!?」

「カモ、知ってるの?」

「いや、伝記で読んだ程度だが…海洋で人魚と遭遇したならば、耳を塞ぐという動作をしなければ海に沈められてしまうという話だ。なんでも、人魚の歌には石化の効果があるらしい。」



「「「おおぉ!!」」」


 モンスターの表面は、遠くからでも石化の兆候を見せていた。しかし、石化した部分はすぐに割れて、中から新しい細胞が再生するとまたその部分が石化すると言うループ状態に陥っていた。


「…よし、これなら少しでも時間を稼げそうだ。馬車まで移動するぞ!」

「「「おー!!」」」


 カルガモットとアンジェラがハックを担ぎ、タリエルとリトルがそれを先導する。

 その間も必死に人魚達は歌い続けた。









「さて、一旦距離を置いたが…どうする?」


 何とかハックを馬車に乗せるも、依然ハックは身動き1つ取れない状態だった。

「ハック!!海の中で何があったんだよ!?」


 皆が1番に聞きたいことをアンジェラが問いただす。


「あぁ、色々とあったのだが…掻い摘んで説明すると、海底を探索している内にあの沈没船、『セントレーヌ』を見つける事が出来た。」


「せ、セントレーヌだとっ!?あの破壊された船がか!?」

「世界で1番大きな人魚とは、あの巨大な航海船セントレーヌの船首に着いている人魚の彫像の事だった。人の作った物だったので、人魚達はセントレーヌを知らなかったのだろう。」


第142話 END

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