NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第141話 #1『セントレーヌの涙』




一方、岬の上では……



 カルガモットが腕を組んで海の向こうを睨んでいた。

「おかしい……あまりにも遅すぎる。」


 いつもであれば、昼に合わせて1度海から上がってくるハックが中々帰って来ないので、皆は心配していた。


「お昼所かそろそろ日が暮れちゃうよ!ハックさんまだなのかなぁ〜」

「なぁ、ハックの分の昼飯食っても良いだろ?」

「アンジー!!ちょっとは心配しなさいよっ!!」プンスカ

 アンジェラとタリエルもじゃれ合っているものの、内心は心配で仕方なかった。


「もしかしたら…大きな手掛かりか、もしくは目的の物そのものを見つけたのかも知れない。いつ錬金術師が帰って来ても良いように迎え入れる体制だけは整えておこう。」


「「はーい!」」


 ハック用に取っておいた昼飯は冷めてしまったので、アンジェラが残りを平らげる。

 タリエルとリトルは先程のとは別で夕食の準備を整える。


「ふむ……海ばかり眺めても仕方無いな、良し、私も狩りに……」




 カルガモットがそう言って海から目線を外した、その時だった。





……バジュジュォォォン!!!




「「「な、何ぃ!?!?」」」





 荒れた湾の中心辺りに、突如大きな稲妻の様な物が落ちる。


「い、今の何っ!?」

「振り返った直後だったので見落とした!戦士アンジェラは??」

「見た!雷?みたいなもの!!……いや」


 アンジェラは首を傾げる。


「違うな、海に落ちたんじゃない。海から上がって見えた!」

「なんだよあれ魔法なのかっ!?スゲー!!」


 リトルは関心して見ていたが、他のメンバーは顔色が曇る。


「………錬金術師だと思うか?」

「うーん…ハックさんの魔力ならあれぐらいは出来ると思うけど…」

「…ハックが無駄に魔法を使うとは思えない。」


 確かにそうだと3人は顔を見合わせる。


「よし、戦闘準備だ。何が出るかは分からないが、備えておいて損は無い。」


「「おーー!!」」

 アンジェラとタリエルは馬車に戻り武器を取り出し始める。


 1人取り残されたリトルは、とりあえず食事準備の後片付けをした。



…そしてまた。



ドゴォォォオオン!!!



 今度は稲妻では無かったが、間違いなく攻撃魔法だと言う事が分かった。

 海面で何かが爆発する音と閃光を見て、それぞれの手が止まる。

 その時、全く予想して居ない事が起きた。



「〜〜ル!リトルゥ〜〜!!」



「……え?」キョトン


 皆がリトルの顔をみるが、1番驚いたのはリトルだった。


 誰かに名前を呼ばれた。女性の声だ。


「今のはなんだ?どこから聞こえてきた??」

「女の人だったよ!?」

「……1人か?複数人に聞こえたが……」

 カルガモットもタリエルもアンジェラまでもが岬の辺りを見渡す。

 しかし誰も居なかった。むしろこの岬の先端には、誰かが隠れられる様な所は無かった。



…が。


「ぉーい!リト〜〜」
「リトルちゃ〜ん!!」
「リトル〜」


「お、オレか!?オレが呼ばれてんのかっ!?」

 リトル少年もキョロキョロと辺りを見回す。



「……あ!おい!こっちだ!!」

 崖の先まで出たアンジェラが呼びかける。皆は揃って崖の先端に並んでアンジェラの指さす『崖下』を見つめる。すると……


「「「……人魚!?」」」


 人魚達が数人、崖下辺りの海面から顔を出し、こちらに手を振っていた。








 一行は崖の上のキャンプを片付け、湾に繋がる浜辺まで降りて来ていた。それに合わせて人魚達が浜辺に上がってくる。



「リトル!お願い!」
「『愛しの勇者』、時が来たのよ。」
「助けて!私達人魚を助けて!」


「ちょっちょ!なんの事だよ!?」


 何故か人魚達は揃ってリトルに助けを求めていた。

 求められているリトルもそれが見当も付かず、ただただ困惑する。


「君たち、少し落ち着け!誰か説明出来る者は?」


 ガヤガヤと一斉に話し始めるその場をカルガモットが仕切り、人魚達を落ち着かせる。年長そうな人魚を見つけ、それ以外の者は静かにするように伝えた。



「私達は、リトルを待っていたの。だから地図を渡したわ。お願いリトル、荒れた海を戻して。人魚達を助けて。」


 人魚の主張はそのような内容だったが、言われて1番困っているのはリトルだ。全く何の事か身に覚えが無いらしい。

「地図って…ねぇリトル君。アレってあなたが見つけたんじゃ無いの??」

 タリエルがそう聞くと、リトルは気まずそうにしていた。


「やーっと…実は……その」

「なんだ小僧?ハッキリ言って」

「オレの見た地図は……オレが見つけたんじゃなくて、人魚から貰ったんだ」


「「「えぇっ!?」」」



 リトルは見栄を張っていたのだ。あたかも自分が冒険してそれを探し当てたかの様に。


 お宝を探しに来たリトルは、まずは魅惑真珠の事を人魚達から聞きだした。しかしそれが何か分からなかったリトルは魅惑真珠の貝を食べてしまう。

 次に人魚達に魅惑真珠の貝が効果を及ぼすと、今度は人魚からある地図を貰ったらしい。


「リトルの地図の事は分かったが、それが今の状況とどう関係するのだ?」

「愛しの勇者が現れるのを人魚は待っていたの。お願いリトル。『深き海』を……」



ザパンッ!!


 人魚がそう話し出した途中で、遠くの海面から何かが音を立てて飛び上がる。

 皆、自然にそちらの方向に視線が動く。



「「「あっ!!」」」



 黒い翼の生えた何かが、荒れた湾内の中心部を低く飛び回る。


 どう見てもそれは『ハック』だった。


「おい!ハックだぞっ!飛んでる!!」

「アンジー落ち着いて!見れば分かるよっ!……でも」

「翼?……アレが噂に名高い名家生まれのダークエルフのスキルか?」

「…いや、けど」


 タリエルは困惑している。


「前に聞いた時は、ハックさん羽は使えないって言ってたよ!だいぶ前に聞いたんだけど!」

「「何っ!?」」



ビシュシュゥウン!!


 空を旋回するハックは、海面に向けて氷結系の魔法を放っていた。


「なんだ?錬金術師は何と戦っている!?」


 湾の中心部、そこだけは海が荒れているので、雨風のせいでハッキリとは見えない。


 しかしハックは、明確に何かに向けて魔法を放っていた。



「……来る!」
「リトル、今よ!」
「『深き海』を討伐して!」


 それを見てさらに焦る人魚達。しかしリトルは縋られても何もする事が出来ない。


「お、オレに何しろって言うんだよっ!わっかんねーよ!!」

 すがり付く人魚を押しのけていたその時。



ゴゴゴゴゴ……




「うおっ!凄い地響きだ!」

「ねぇ見て!!アレ!!」


 タリエルが指差す。




 海面からは突如、とてつもなく巨大な航海船が浮かび上がってきた。



「な、なんだ…?」

「あーんな大きな船、聞いた事無いよ!!」

「沈没船…なのか?それにしては新しい様な……」



 そして




バシィィイン!!



 今度は空中から稲妻の魔法を放つハック。それは、浮かび上がってきた船に向けられていた。

「ハックさん、船を攻撃しているよ!?」

「何がどうなってる!?…そうだ!メニューボード!!目視距離なら音声通信が出来る!」

「あー、ダメだカモ。リディが『あっぷでーと?』ってのが終わらないと使えないって言ってた」

「なんだとっ!」


 カルガモットは紫色のメニューボードを取り出し操作するも、通信機能のカーソルはアクティブにならなかった。


「良し、何か他の方法でこちらから合図を出そう。松明は馬車か?」

「取ってくる!!」ダッ


 カルガモットに言われ、アンジェラが馬車まで戻る。



「な、何がどーなってんだ??」


 旋回し、空中から定期的に魔法を繰り出すハックを呆然と見つめるリトル。

 ふと、人魚達が静かになっているのに気が付いた。


「ん?お前ら…」



「「「…………。」」」ブルブル



 静かになったのでは無い。怯えて居たのだ。



「なぁ、お前らがさっき言いかけた深きなんちゃらって、アレの事か??」

「違う!!」


 そう言いながら、人魚は船を指差す。


「……え??」

「アイツよっ!来るわっ!!」



ビシッ

 バキバキバキッッ!!

  ドガガガガガァッ!!!




「「「うわぁ!!」」」




 海上に現れた船は轟音を立てて真っ二つに割れてしまった。



 それはハックの魔法で破壊されたのでは無く、何か別の力が加わって割れた様に見えた。



 …そして、恐ろしいモノが割れ目の中から這い出てきた。






ギュォォオオォオォオォ!!




 藍色と紫のまだら模様で、鋭く尖ったトゲが全身に生えたタコの様な海洋モンスターが吠える。黄色くて真ん丸な目玉が三つ、ぎょろぎょろと別々に動いて辺りを見回している。目玉の下には鋭いキバがある口もついていた。





「「「なっ!!なんだありゃ!?!?」」」


 その場にいた人魚以外の人物は皆驚く。


…見た目の他に、その大きさにも。


 今しがた割れて砕けた航海船の、1/3程の大きさもあった。



「船旅もした事の無い私だが、あのようなモンスターが海に居るなど流石に聞いた事がないぞ!」

 カルガモットもその姿を見て焦る。

「ちょっとハックさんなんであんなのと戦ってるのさ〜!!もぅ!!」


「松明取ってきたけど、それどころじゃ無いな!どうする!?」




 ふと、その海洋モンスターの三つある内の、額の中心にある目玉と目が合う。


 すると、残りのふたつもこちらを見つめて来る。



「……あれ?」

「おい!ヤバいぞ!!」

 アンジェラは咄嗟にタリエルを背中側に匿う。



 見間違いで無ければ、そのモンスターはこちらに向きを変えて近付いて来ていた。


「えっ!?ちょっと!!こっち来てるじゃん!!逃げようよ!」

「いやチリードルさん、どうやらやるしか無いみたいだ。」

「なんでよカモ領主!あんなの倒せる訳無いじゃんか!!」

「アレをこのまま放置して…上陸させる事は出来ない。ソラスタにアレが向かってしまう!」

「あ!!!」

「だけどっ!どうするよカモっ!」



 3人が口論している時に、ハックが今度は火炎系の魔法を放つ。


 頭部に命中すると、モンスターは苦しそうな素振りを見せた。


「お!いいぞやっちゃえ
ハックさーん!!」


 しかし。



 海洋モンスターは、その巨体から想像も出来ない様なスピードで、数本の触手で割れた船の残骸を掴んで投げつけた。






 ハックは空中で避けられず、直撃を受けて墜落した。





「うわぁぁぁ!!」
「キャァァァ!」
「錬金術師ッ!!??」


 第141話 END

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