NPC勇者〇〇はどうしても世界をDeBugしたい。みたい!?

激しく補助席希望

第134話 sideB 岬の先へ




 朝に海沿いの街ソラスタを出発したハック一行は、カルガモットが入手した古い地図を頼りに崩れた岬の先端を捜索する事にした。


 アンジェラは1人で先に先行し、集落跡地に向かいリトルを連れて来る事になっていたのだが、どういう訳か岬にはアンジェラただ1人だけ待っていた。


「あれ?アンジー??リトル君はどうしたの?」

「来ないってさ」

「えっ!?どうして??」

「灯台が無くなって探す宛も無いしもう行かないってさ。ションボリしてた。」


「「なにぃ?」」

 ハックとカルガモットはやれやれとため息を付く。


「ま、仕方が無い。彼も見た目通りの子供だからな。」

「あっ…」

「ん…?あ…」ササッ



 アンジェラとハックは何故かよそよそしく振舞った。

「おや?」

「ふむ?」


 目線が合った途端に2人とも気まずそうに視線をズラすその様を、タリエルとカルガモットは見逃さない。


「おやおやぁ〜〜??どうしたのかしら??2人とも?」

「な、何でもない。ちょっとした勘違いだ」

「そ、そうだ。何かの間違いだ」


「じゃなーんでそんなによそよそしくするのさー??」

「「うっうるさい!」」



 タリエルはいやらしくニタニタと笑う。






「さてはお二人さん、『昨日の夜に何か』ありましたなぁ??」








「「お前のせいだろっ!!」」ゴンッ


「わきゃっ!?いったー!!2人して叩く事無いじゃない!!!」


「まぁまぁ皆落ち着くのだ。さっさと目的の物を探そう。」


「「「はーい」」」


 カルガモットに諭されて、灯台のあった場所を確認しに行った。



「あ、おいハック」ポイッ

「ん?おっと」ガシッ



 アンジェラは何かのアイテムをハックに投げ渡した。


「小僧が世話になった礼だって。魅惑真珠の貝を探し当てた時に別で見つけた物だってさ。」


「ふむ……?何かの護符か?」

「わからん。小僧も使って見たけど効果が無かったって」


 ハックの手に投げ渡されたソレは、何かの御守りのようなアイテムだったが、如何せん古いのと汚れている為に何のアイテムかサッパリ分からなかった。

「ま、とりあえず貰っておこう」







「おーい、錬金術師来てくれ!」

「あぁ!今行く!」


 カルガモットに呼ばれ、アンジェラとハックは小走りに駆け寄る。



「大体この辺りの地形は古い地図と一致する。ここらを基点に概算すれば灯台の大凡の位置は掴めるだろう。」

「やった!!あとちょっとじゃん!!」

「チリードルさん、そうも行かないんですよ。」

「え?なんでさ??」


 カルガモットは皆から見えるように地図を大きく広げた。



「ここに生えてる木…これがこの地図上のこの木だとするじゃないですか?」

「はいはい」

「それで、向こうに見えてる岩。これも地図に載ってますね?この距離って言うのが大体50歩ぐらいなんです。」





「ははぁ、なるほど」


 ハックは感がよく今のカルガモットの説明だけで理解したようだ。

「ん?なんだ??」

「え!?今ので分かったの?ハックさん」

 タリエルとアンジェラはいまいち理解出来なかった。

「つまりだな…地図上での灯台から岬の先端までの距離と、ここにある木から岩までの距離はほとんど同じだ。だから『探すのには苦労する』と言う意味だろ?カルガモット殿が言っているのは」

「うむ、流石だな錬金術師」



「………え?どゆこと??」


「アンジェラ殿、リトルが言っていた『セントレーヌの涙』の場所までの距離はメモしていたな?見せて欲しい」

「あぁ、ちょっと待て」ゴソゴソ


 アンジェラは荷物の中から手帳を探す。


「あった。距離は…」

 アンジェラが読み上げる

「宝の場所は、この岬にある灯台から西へ51歩、北へ275歩歩いた所に有る…だってさ」


「……え??」キョトン


「わからん奴だなタリエルよ。ここから北に300歩以上歩いたら何処に行く?」



「え?……あー!!!」


「そうだ。宝は元から『海の中』なのだよ。」



















─その日の夜


 結局の所、あれから何も進展しなかった。

 ハック達は岬の手前まで戻り、そこにキャンプを張った。


 皆が色々な意見を出しはしたのだが、『海の中を探す』と言う事が可能な方法はついに見つからなかった。



「どうする?諦めちゃう??」

「リトルもこの事に気付いたからやさぐれていたのだろう。しかし…海の中とはなぁ」



「「「うーむ……」」」











「あっ!!」ピコーン


 沈黙を破ったのはハックだった。


「なになに?」

「何か思い付いたのか?」



「いや、思い付いたのでは無い。思い出したのだ」


 そう言ってハックはある物を取り出す。




「これだ」ガサガサ


「「「んん?」」」


 ハックが手に持っていたのは、何かの骨のような物だ。



「え?何そのバッチい感じの奴?」


「困った時の頼みの綱さ」


 そう言うとハックは杖を使って地面を掘り始める。10cm程掘った穴にその骨を入れて、土を被せ始める。



「え?何??ダークエルフのおまじない??」

「何をしているのだ錬金術師は?」


 埋めた直後は何も起きなかったが、しばらくするとそこから何やら赤い煙のようなものが吹き出してきた。

 それを見つめてヨシと笑うハック。すると突然間欠泉の如く大量の煙が吹き出した。


「うわぁっ!」「きゃっ!」


ゴボゴボゴボ…



 フッとその煙は吹き出し止むと、中から何者かの影が現れる。









「はーい定命の者モータル達、元気してた?」


「「「ナユルメツ!!」」」



「そ、困った時の神頼みならぬ、魔人頼みってね。」

「そっかー!ナユルメツ居たんだっけ??」

「しばらく見ていなかったので忘れていたが…やはり奇特な存在だな、魔人ナユルメツよ。」

「ちょっとちょっと!何さね?呼び出しておいてその言い草は!」

 ナユルメツは忘れられていた事に腹を立てていた。


「少し困った事になったんだ。手を貸してほしい。ナユ殿」

「はいはい、今度は誰が死んだの?」

「いや、死んでは居ないのだが…少し生きている者には厳しい状況でな。」

「そうかい。ん?」


 ナユルメツは突然何かの匂いに呼ばれるように、アンジェラの方に行く。


「えっ!?」ドキッ

「スンスン…うん」


「あ、アンジェラ殿がどうかしたのか??」


「いや………しばらく見ないウチに強くなったなぁと思ってねぇ」

「そ、そうか??」ドキドキ

「死線を越えた奴はやっぱり違うねぇ。いい事さ」

 何故かナユルメツは今まで見た事の無いような笑顔でアンジェラの頭を撫でる。アンジェラは恥ずかしがって目線をズラすが、撫でられる事自体は嫌ではないようだった。


「可愛いもんさ。やっぱり定命の者はこうでなくっちゃ。あたしみたいな不滅の存在は成長する事が無いからね。」




 ナユルメツは、まるで母親のような顔だった。生きていた頃を懐かしがっているようにも見えた。


「それで?ハック。今回は何があったんだい??」


「ふむ、では簡単に説明させてもらうが…我々はあるアイテムを探している。が、どうやらそれは海の底にある様なのだ。」

「あらら、それは厄介だねぇ」


 「海」という単語を出すと、流石のナユルメツも顔をしかめた。

「何とかする方法を知らないか?ナユ殿」


「うーん…正直に言って良いか迷うんだけど…」

「お?」「え?」「知ってるのか」






「ここ、大陸では深い海を探す事は出来ない。ある一定の深さ以上潜ると死んでしまう。それが世の理ゲームのルール

「「「あー……」」」ガクッ



 ナユルメツは遠回しに、NPCは海の中でも一定の範囲しか探索出来ないという事を伝えて、その突然のメタ発言に皆コケてしまった。



「それは既に充分承知しているが…NPC我々が全くもって泳げないという事もあるまい。海の中を探す方法は本当に無いのか?魔人ナユルメツよ。」


「ちょいとそこの騎士、いい加減『魔人』なんて呼び方止めてくれるかい??気が滅入っちまうよ!」


 カルガモットに『魔人』呼ばわりされて怒るナユルメツ。

「無い訳じゃないよ。あたしだって海の中は潜れるさね。」


「「「ほ、ほんとか!?」」」


「なんせあたしは『常に死に続けてる』からねぇ」





「「「あ」」」




 そう、ナユルメツは<回復死体ヒーリビングデッド>だ。生と死の狭間無く回復しては永遠に死に続ける存在。



 『デスペナルティ』は彼女に効かないのだ。


「じ、じゃあ!ナユルメツ探してくれるの!?」


「んーん、それはダメ」

「どうしてさー!」

 タリエルがナユルメツに問いただす。

「私の力を頼るのは思う存分使ってくれても構わないさね。でも、あたし1人きりに任せる様なのはゴメンだよ」

 ナユルメツは、嫌がって言ってる訳ではなさそうだ。


「何も無い手札から、状況を打破してこその定命の者モータルさ。それが生ある者のいい所だよ。」


「ぶー!ケチ!」

「まぁまぁ、何も協力してくれないって訳では無いんだ。…それで、海の中を探索する方法だが」

「ここは海沿いの街なんだろ?貴重なアイテムだけど『海探(かいたん)の護符』ってのがどこかに無いかね?それがあれば海の中でも溺れずに探す事が出来るよ。」

「「「海探の護符??」」」


 皆は顔を見合わせている。どうやら誰も知らない様だ。

「それは…護符なのであれば、錬金術師に作り出す事が可能では無いのか?」

 カルガモットが手っ取り早い良い可能性を聞く。


 「無理だねぇ。海探の魔法は水神クラスの上級精霊にしか扱えないシロモノさ。人には唱えられない」


「また捜し物か…」

 アンジェラはガックリと肩を落とす。


「海探の護符とはどのような物なのだ?」


「そうさねぇ…あたしがかつて見た事あるのはシーサーペントの胎児の干物に、霊術の魂石がはめ込まれてある物をさらに上から安定化の術式で挟めてある物だったね。ま、見た目は布で出来た御守りみたいな形だよ」




「「え?」」


 アンジェラとハックが驚く。

「ん?」「どうしたの??」



 タリエルとカルガモットが何事かとハック達を見る。


 ハックは荷物からある物を取り出す。



「……もしかしてコレか?」




「!!こりゃ驚いた、なんだいもう持ってるじゃないか!」


「「「えええぇぇぇ!?!?」」」






 なんとリトル少年から貰ったボロボロの御守りが、海探の護符であった。







第134話 END

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